3.『火山の巨人イオスパイデ』part 22.
ヤーちゃんの部屋……というか地下空間に招き入れられたフワフワちゃんは、何やら必死で問題を伝えようとムームー言っていた。
「ム、ムー!! ム、ムー!! ム、ムー!! ム、ムー!!」
「ど、どうしたの!? フワフワちゃん、マーヤークさんは一緒じゃないの!?」
私では会話が成立しないんだけど、通訳兼護衛の悪魔執事はどこへ行ってしまったのか?
もしかしたら、話がわからないのは私だけで、みんなにはフワフワちゃんの言ってることがわかるのかな……?
と思って振り返ってみると、勇者様は難しい顔をして黙ったまま、ラハールちゃんは訳もわからず翻訳待ちの顔をしており、頼みのヤーちゃんはマーヤークさんそっくりの顔をしながら曖昧に笑っているだけだった。
「ふむ……何やら切羽詰まった状況であることは伝わってくるが、なんと言っているのかはまったくわからないな」
あー……やっぱ駄目か……
ヤーちゃんの素直すぎる感想に絶望しながら、私は取り敢えず魔国の王子殿下を抱き上げる。
はぁ……相変わらずフワフワで癒されるわぁ……
じゃなくて!
ムームー言いながら私の腕から逃れようとするフワフワちゃんは、本当に焦っているようだった。
やっぱ、ご家族である王様やチュレア様と、側近の大臣さんたちやマーヤークさん、騎士さんや文官さん辺りしか、フワフワちゃんの言葉はわからないのではないか?
あ、あとアイテールちゃんは意思疎通できてたな、確か……
ラハールちゃんは、カワイイもの同士で話通じてくれ……! と思ったけど、どっちかというと転生者のくくりだから、私と同じでフワフワ語の解読は無理だったみたい……
私たちが状況を把握できないまま困っていると、またしてもテーブルに置かれた水晶玉から声が響く。
『おーい! 坊主ー! どーこだー?』
「この声は……イオスパイデさん!?」
『おー? 嬢ちゃんの声がするなー? どーこだー?』
「ここです! この下辺りです!!」
私が必死で手を振っている姿を、ヤーちゃんがインターフォン的な魔道具で地上に映し出してくれた。
どデカい溶岩魔人のイオスパイデさんを、地下神殿に招き入れるわけにもいかなくて、私はそのまま会話を続けてみる。
「あの、今、王子殿下が駆け込んできて、何か大変らしいんですけど、一体どうしたんですか?」
『すまねえー! 注意が必要な箇所に集中してたもんでー、まったく別のとこから噴火するとは思いもよらんかったわー!!』
「え!? 噴火!?」
『ああー! そうだぁー! 今は悪魔の坊主が押さえてるが、ちぃっとばかしヤバそうでなぁー!』
「え!? マーヤークさんが!?」
イオスパイデさんの説明によると、私たちが調査した火山のてっぺんにある噴火口からの噴煙は押さえられたものの、全然ちがう山から噴火がはじまってしまったとのこと。
数キロ離れてる場所で、温泉地帯だということだった。
もしかして……前回の帰りがけに見かけた途中の温泉街……!?
ということは、人がたくさんいるんじゃないの!?
「ム、ムー!!」
「フワフワちゃん、これを伝えたかったんだね!?」
「ムー! ムー!!」
「場所はわかるのか?」
青髪悪魔のロンゲラップさんが、緊迫した状況を察して会話に参入してきた。
こういうときに、知らん顔をせず積極的に介入するというのが、魔国の王家との契約に含まれているらしい。
しっかし、火山ってそんなに連続で噴火するもんなの……?
でもそうだよね……大災害って、都合よく1個ずつ来てくれないんだよ……
震度7の大地震のすぐ後に、また震度7の大地震が来たり、津波が来たり大雨洪水が来たり……現実世界でも凄かった。対処不能なくらいに何個も一気に来たりするから大変なのよ……
まあ、自然災害に文句言っても意味ないか……
今はとにかく、マーヤークさんのお手伝いに行かないと!
「私、行きます!」
思わずそう言って振り向くと、勇者様とラハールちゃんが駆け寄ってきてくれた。
「待て、俺も行く!」
「ラハールもミーちゃんと一緒に行くよ!」
「ありがとう!」
マーヤークさんモドキのヤーちゃんは、本物のマーヤークさんの危機にも落ち着いた様子で、顎に手を当てながら考えごとをしている。
青髪悪魔大先生は、どこから出したのかテーブルに素早く大きな地図を広げ、革表紙の本を高速でめくりながら何やら計算をしているようだった。
あれって、インベントリに収納されていたアイテムなのかな……?
「おい、ミドヴェルト! お前の伝達魔道具を出せ!」
「あ、はい!」
私が言われるままにスマホ魔法を発動すると、ロンゲラップさんは何やら短い呪文を唱えて、私のスマホに地図を表示させた。
え!? 強制インストール!?
地図は真ん中に赤い点が書き込まれており、青髪悪魔のロンゲラップさんが革表紙の本に何か書き込むと、それがリアルタイムで反映される。
「な……! なんすか、これ!?」
「よし、うまく行ったようだな。こちらからの指示はこれで送る。あとは現場の判断で動け!」
「わかりました!!」
なんかフツーに画面共有みたいになってるけど……ロンゲラップさんてIT系の知識もあったの!?
あ、もしや最近ご懐妊のヒュパティアさん繋がりで、主治医の立場を利用してメガラニカ公からなんか情報引っ張ってきたのか?
私の知ってる限りでは、この世界にIT系の技術は無かったはずだから、私とメガラニカ公以外で、こんなことできる存在がいるとは思えないんだけど……
推しの青髪悪魔にスマホ魔法で出したデバイスをプレゼントしたら、分解されて軽く落ち込んだこともあったけど……
あれですべてが解明されたってこと……!?
なんかイロイロありすぎて心が忙しいけど、とにかく今はマーヤークさんの元へ!
私はヤーちゃんに天井を開けてもらいながら、勇者様と一緒に、羽を広げたラハールちゃんに乗り込む。
「ラハールちゃん、まっすぐ上に飛べるかな!?」
「できるよ!」
ラハールちゃんは上の大きな羽を動かさずに、下の小さな羽をブンブンと動かして上昇しはじめた。
マジか……君ってVTOLだったんだね……ラハール航空002便、優秀すぎる……
毎回、高所からの垂直落下からのスタートだったから、てっきり滑空しかできないのかと思ってたけど、下手したら左捻り込みみたいな技もできるんじゃ……?
垂直離着陸ができるんだったら、竜車より使い勝手がいいってことになっちゃうね。
亀島にも、もっと気軽に行けるようになるかも!?
うっかり夢が広がりングな感じになっちゃってるけど、今は旅行のことは考えない!
災害対策に集中しなければ!!
手元のスマホには、ロンゲラップさんからの指示が次々と書き込まれている。
なんで急にヤーちゃんに呼び出されて行っちゃったのかと思ってたけど、何かの研究仲間だったのか?
手紙を渡したときは、仲良いどころか嫌そうな空気出しまくってたのに……
っていうか、存在すら知らなかったような口ぶりだったのにね。
元々、本物のマーヤークさんとは仲良いみたいな感じだったし、やっぱりヤーちゃんともすぐ打ち解けたのかな?
そんなことを考えていると、眼下に噴煙を上げる山が見えてきた。
「あそこだ!」
「ムー!」
「ラハールちゃん、できるだけあの煙の近くに降りられる?」
「できるよ!」
火口の付近を一周してマーヤークさんを探し当てると、ラハールちゃんはふんわりと降下して悪魔執事のすぐ近くに着陸した。




