3.『火山の巨人イオスパイデ』part 19.
次の日、勇者様のお部屋から自室に戻ると、アイテールちゃんとラハールちゃんは、二人で仲良く朝ごはんを食べていた。
「きょういくがかりどのよ、おはやいごとうじょうじゃな、もっとゆっくりしていればよかったのに」
「おはようございます……さすがに王城では、あんまり……」
「おはよう! ミーちゃん! あのね、アイちゃんがね、おそとに連れてってくれるって!」
「そうなんだ〜! よかったねぇ……すみません、ご面倒をおかけしまして……」
「きにするでない。ごごまではひまなのでな」
アイテールちゃんは、珍しく自分のことよりラハールちゃんの口元を拭いてくれたりして、甲斐甲斐しく世話をしている。
すっかり馴染んでいるけど、やっぱり女の子同士で気が合うのかな?
そういや、フワフワちゃんとも結構早い段階で仲良くなっていた気がする……単に可愛いもの好きということなのか?
二人のことが心配で、焦って早めに戻ってみたけど、こうしていると不安に思う必要はなかったかもね……
疲れていたのか、ちびっ子たちの仲睦まじい様子を見ながら、私はいつの間にか長椅子で寝てしまったようだった。
◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇
「あら、貴女おひとりですの?」
急に話しかけられてふと顔を上げると、私の部屋に大輪の薔薇が見えた気がした。よくわからないままに眠い目をこすると、「あらあら、まあまあ……」と呆れたような声がして、真っ赤なドレスをお召しになった女公爵チュレア様が立っていらっしゃる。
一気に目が醒めた私は、慌てて体を起こして背筋を伸ばす。
「……あ! も、申し訳ございません!」
「よろしいわ、案ずることはありません。そのままお座りになっていて」
チュレア様は、扇を閉じて私に声をかけると、ちょっと考え事をするように首を傾げた。
そして、窓の外から聞こえてくる子供のはしゃぎ声に気が付くと、私の隣に腰を下ろす。
お付きのイケメン文官さんたちが、片膝をついてドレスのふんわり感を整えながら、また素早く後ろに控えて立った。
「困りましたわ……せっかくキー様がお戻りになったというのに、わたくしお迎えする準備ができておりません」
「え、そ……そうなんですか?」
「ええ、だからね、ミドヴェルト……貴女に助けてほしいのです」
急に声を潜めて、女公爵様は私の耳元に口を寄せる。
チュレア様がおっしゃるには、魔力アップの妙薬を青髪悪魔の錬金術博士ロンゲラップ大先生に依頼したのだけど、まだ届いていないとのこと。
魔国においては、魅力と魔力は同じようなものなのか……?
「ですから、それを秘密裏にわたくしの元へ届けてほしいのです」
「はい……え、秘密……?」
どゆこと?
やっぱ、女公爵様ともなると、気軽に錬金術アトリエなんかには行けないのかな……?
それこそ、お付きの文官さんとか、侍女さんとかに頼めばいいのでは……?
なんて思ったりもするけど、それができない理由があるのだろう。
余計なことを聞いてチュレア様を煩わせると、物理的に首が飛ぶかもしれないので、私は完全にイエスマンとしてロイヤルオーダーを受け入れる。
アイサー!!
ただちに行って参りますです!!
私が真剣な顔で頷くと、チュレア様は何も言わずに微笑んでくださった。
◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇
「こんにちはぁ〜……」
昨日の今日で青髪悪魔大先生のアトリエにおくすりを頂戴しに上がると、助手のマルパッセさんに、ロンゲラップさんの不在を知らされてしまった。
「え!? 一体どこに行っちゃったんですか!?」
「火山だよ。君が持ってきた手紙に、何やら重要なことが記してあったようだね」
「えぇ〜!?」
マーヤークさんモドキのヤーちゃんが書いた手紙、あれにロンゲラップさんを呼び出す内容が書いてあったのだろうか……?
「あのぅ……つかぬことをお聞きしますが……なにか特別なお薬を預かってはいませんでしょうか……?」
「ん? それは、依頼された品ということかね?」
「はい……」
「ふむ……師ならば、そういったものは自分で持っていると思うが……」
そう言いながら、マルパッセさんはアトリエの奥を探し回って、軽く両手を開いて首を振る。
「ここには無いようだ……だが、発注書と作成メモなどの書類は見つけたので、やはり師が持っているのではないかな?」
「あ、わかりました……ありがとうございます」
私は青髪先生のご帰還を待つべきか、少し悩んで追いかけることに決める。
ひとりなら、サクッと魔車をチャーターして、薬だけもらって帰還魔法で一瞬で帰れるやろ。
などというザックリした計画でGO!
秘密裏に必要な薬なんだし、チュレア様へのお届けは早いほうがいいはずだ。
ロンゲラップさんのことだから、お渡しするのをうっかり忘れているのかも。
あの先生、アイテム作成まではすごく信頼できる錬金術博士なんだけど、どうもその後がテキトーになりがちなんだよね。
一見カンペキなのに、抜けてるトコがあるってのがまた素敵なギャップになっているのだ。
王城の本館に戻り、その辺の文官さんをとっ捕まえて魔車を出してもらうように頼むと、私は厨房に向かった。
◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇
厨房の扉を開けると、カレーの前みたいな凄くいい匂いが漂っていて、ベアトゥス様がお料理の最中だった。
「すいません、今、お忙しかったですか?」
「いや? 何か用か?」
「あの、ちょっと火山に行ってくるので、ラハールちゃんを見といてもらえます?」
「は? お前な……ちょっと待て、最初から事情を話せ」
勇者様は、火の調節をして鍋に何かを放り込むと、くるりとこちらを向いて腕を組んだ。
私がチュレア様とロンゲラップさんの話を、頑張って順を追いながら説明すると、難しい顔で聞いていた勇者様は軽くため息をつく。
「あー、魔車はキャンセルだ。俺も一緒に行く」
「え? 飛行できる靴の魔道具でってことですか?」
「いや、あれで長距離移動は難しいだろうな」
「え、じゃあ……?」
私の疑問に、ベアトゥス様は、ニヤリと笑って答えた。
「ラハールだ!」
「ちょっと!」
ナチュラルに少女をこき使おうとしている夫に、私は非難めいた声をあげる。
「なんだ、あいつなら俺たちを乗せて飛べるだろ」
「そうかもしれませんけど……でも、あれはマーヤークさんの片割れさんが特別に……!」
「ラハール、飛べるよ! ミーちゃんとベアちゃんだって乗せれる!!」
急に声がして、厨房の扉を見ると、なぜかラハールちゃんが立っていた。
「ちょっと待ってよ、ラハールちゃんは、まだそんなことしなくていいの……!」
「じゃあ、いつすればいい!?」
「え……」
ラハールちゃんの勢いに押されて、私は何も言えなくなってしまった。
なんだか思い詰めたように拳を握りしめているラハールちゃんは、口元を真一文字に閉じてこっちを見つめている。
どうしよう……聞き分けの良い子で楽なんて思ってたけど、この子はこの子なりに私たちに気に入られようと必死なのだ。
こんな子に無理をさせたくないけど……でも頼れるときに頼らないのも不信感の元だよね……うぅ……
ラハールちゃんは、見た目はか細い女の子だけど、その本質は虫の魂の集合体で、すでに大人を4人も乗せて大空を滑空した実績もある。
そうだよね……この魔国では、実力を示すことこそが、存在意義を確固たるものにする唯一の手段だし。
ラハールちゃんが自信を持って魔国で生きていくためには、頼ってあげるのも優しさになる……のか?
居場所を作る……って、囲い込んで守ってあげるだけじゃダメなんだ……
活躍できる場を作ることが大切なのかもしれない。
「わかったよ……じゃあ、ラハールちゃんに任せる!」
「うん!」
私たちは、3人でまた火山に向かうことになった。




