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3.『火山の巨人イオスパイデ』part 18.

「さて、それでは……ゆうしゃどの」


「おう、その……だな。アレだ……すまん!」



 アイテールちゃんに発言を促されたベアトゥス様が、勢いよく頭を下げた。


 私の耳元には、腕組みをした妖精巫女の分身様の呆れたようなダメ出しが聞こえている。



「まずは、けつろんから……とはいったが、げいがなさすぎるぞ……」



 これは、今朝の私の愚痴を聞いてくれたアイテールちゃんが、いろいろと気を回して勇者様に何か吹き込んだと思っていいだろう。


 アイテールちゃんは、勇者様の専属マナー講師も請け負ってくれたので、今やちょっとしたメンターになっていた。


 ベアトゥス様は、アイテール先生のお小言にピクリと反応しつつ、仕切り直すように言葉を繋ぐ。



「あーつまり……だな、私は君に……いやその、俺は、お前に言われたことをよく考えてみた」


「……ええ」


「子供はその……欲しいと欲しくないが()()()


「へ?」


「お前に似た子が生まれれば、その……愛せると思うが……俺に似た子ができてしまったら、どうなるかわからん」


「……?」


「俺は、これまで上手く人と付き合えたことがない。つまりその……最終的には嫌われる」


「えっと……」


「お前にも、もしかしたら嫌われてしまうかもしれないが、そうなるのは本意ではない」


「……はい」


「……()()()()()だ」


「はい?」



 急に話が終わって、勇者様は私を見ながら返事を待つように口を結ぶ。


 それと同時に「はぁ……」と小さいため息が肩から聞こえてくる。


 何となく横目で見ると、アイテールちゃんが首を振りながら頭を抱えていた。


 部屋に気まずい沈黙が流れ、私は何を言うべきかわからず、状況を整理することにした。


 まあ、私もちょっと感情的に家を飛び出してきちゃったので、あんまりベアトゥス様のこと言えたもんでもないんだけど……それにしたって、あまりにもとっ散らかりすぎである。



「つまり……こういう事でしょうか? 子供なんか欲しくないと言ったのは、嘘じゃなくて半分ホント?」


「ああ」


「それで……その、お話から察するに、もしかしてベアトゥス様は、ご自分がお嫌いなんですか?」


「そういうことになるな」


「それは何故……?」


「最終的に嫌われるからだ」



 んん?


 この筋肉勇者は、とにかく凄く強い。そのため、周囲から恐れられることもあるだろうし、警戒されることで疎外感を感じているのかもしれない。


 確かに、嫌われてるなって感じれば、ちょっと自分も壁つくっちゃうかもしれないし、そこから溝が深まるってこともあるのかもね。


 王城の厨房で働くようになって、いろいろな相手と言葉を交わしているだろうし、王都のお店でも値切り交渉とかしてるみたいだし、ベアトゥス様はもう孤独じゃないと思う。


 それでも、いつか皆んなに嫌われると思い込んで、その元凶である自分に負い目を感じているとしたら……


 いつだったか二人でデートしたとき、私を好きになった理由に「話しかけてくれたから」と答えていた勇者様を思い出す。


 そんな簡単な理由で人を好きになるとか、チョロ過ぎて心配だったけど、ほかの女性とは浮気してないみたいだし、もっと別に言語化されていない理由があるのだろう。


 ぶっちゃけ、私も勇者様のどこが好きって、はっきり言えないトコがあるし、フクザツな感情を言葉にするのは難しいと思う。



「わ、私は嫌ったりしませんよ……嫌わないと思えたから、結婚を受け入れたんですし」


「そうか」


「でも、それは、喧嘩を一切しないってことにはならないと思います。お互いに勘違いで傷つけちゃうこともあるかもしれないけど、我慢しないで気持ちを話して……言葉で伝え合うのはできると思うし」


「……うむ」


「そんな、難しい顔しないでください。私だって……というか、女性だって気軽に子供を産みたいわけじゃないんですよ。なんたって体に変化があるし、気持ち悪くなって吐いちゃったり、頭痛に腰痛、内臓疾患とか、いろいろな病気にもなりやすくなるし、何ならえーと……魔車に引かれたくらいのダメージを体に負うらしいし、もちろん出産に失敗すれば死んじゃうし……あ、ごめんなさい」



 妊娠出産()()()()を何の気なしに語ってしまい、目の前の夫がみるみるうちに青い顔になっていくのに気づいて、私は口を閉じる。


 今度は私のやらかしに、アイテールちゃんがため息をつく番だった。



「ゆうしゃどの、しんぱいするでない。いざとなれば、われが()()をさずけるによって、きょういくがかりどのが、()()()()なるということはないぞ」


「だが……しかし……」


「すみません、魔国ではいろいろな薬草もありますし、回復魔法が得意な方も多いので、大丈夫だと思います」


「俺は……お前を苦しめたくないのだ!」


「しー……! お静かに。ラハールちゃんが起きてしまいます」


「す、すまん……しかし」


「もういいですよ。無理に子供を作ろうとしたって、計画的にできるわけじゃないんだし、このまま楽しく暮らして、偶然できたら受け入れる……それで良いじゃないですか」


「そう……なのか?」


「それがお嫌なら、3年以内に子供ができなければ離婚するってことにします?」


「なぜそうなる、離婚は絶対にしないぞ」


「とにかく、もし妊娠して難産で苦しい思いをしたって、ベアトゥス様を嫌いになったりしませんよ。そんなことは、プロポーズをお受けした時点で折り込み済みです」


「そうか……」



 私が思い切って勇者様の手を取ると、ベアちゃんも手のひらを返して私の手を握ってくれた。


 何となく嬉しくなって、私の手に視線を落とす夫の注意を引き戻す。



「でも、私ばっかりが我慢するのもやっぱり違うと思うんですよ」


「お、おう……それはそうだな」


「だから、もしベアトゥス様のお子ができたら、いっぱいワガママ言わせてもらいます」


「無論、よかろう」


「あと、ベアトゥス様にそっくりの子供が産まれても、文句言わないで可愛がってあげてください」


「む……わかった」


「それと……」


「まだあるのか!?」



 焦ったように抗議の声を上げる筋肉勇者に、私は苦笑して告げる。



「まずは、ベアトゥス様がご自分を好きになっていただかないと」


「……そうだな」



 人として、それぞれにしんどい思いを抱えているとしても、それを子供に乗せていくのは違うと思う。


 親なら完璧超人になれってことじゃなく、必要最低限のガイドラインは上回ってほしいというか。


 子供がいる前では、できるだけ落ち着いた態度を取れるようになってほしい。


 そのためには、やっぱり、自分自身のメンタル面の問題をできるだけ解決する必要がある……と思う。


 

「ふむ……これで、だいいちらうんどはしゅうりょうじゃな」



 アイテールちゃんは、満足気にヒラヒラと飛んで行き、私のベッドに寝ているラハールちゃんの枕元に寝そべった。



「そなたらは、ゆうしゃどののへやへいくがよい。ここはわれがみておる」


「え……?」


「だいにらうんどは、じゆうにするがよい。われはもうねむい」



 ふわぁ……と、あからさまに欠伸をして見せながら、アイテールちゃんは折り曲げた腕に顔をうずめた。




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