3.『火山の巨人イオスパイデ』part 16.
「あ……」
「おう……」
王城の廊下で、私はベアトゥス様と鉢合わせてしまった。
いや、当たり前だよね。二人とも王城で働いてるし……
でも、気持ちの整理がつくまでは夫を避けようかなと思っていたので、この事態は予定より少し早い。
勇者様も、少し休みを取るとか言ってたから、今日は来ないかと思ってたんだけど……
「お、おはようございます……」
「うん、おはよう……」
「…………」
もしかして、私と仲直りするために登城したのかな?
考えてみれば、この廊下は王城の厨房には通じていない。
どっちかというと、私の部屋に向かう道だと言えなくもない。
自意識過剰かもしんないけど……
「あの……」
「ラハールはどうした?」
「あ? えっと……私の部屋で……妖精巫女様が見てくださっています」
「行ってもいいか?」
「ええ、もちろん……どうぞ」
「昨日は済まなかった。また……あとで話せるか?」
「あ、はい。用事が済んだらすぐ戻ります」
「わかった。待っている」
「……えはぁ」
慌てて返事をしたので何だか訳のわからない受け答えをしてしまい、私はすっかり恥ずかしくなって、急いでいるフリをしながらそそくさとその場を離れた。
急に朝イチで!?
少し嬉しい……
ラハールちゃんのことも心配してくれて、ベアトゥス様ったら紳士じゃん!
これでまた、自分自分って感じだったら、なんかちょっと悲しくなるトコだったけど……
私も少し反省しているし、今度こそ落ち着いて話ができるかもしれない。
◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇
「あのー……すみませーん……失礼しまーす……」
久しぶりに顔を出すので、若干緊張しながら、私は王城の裏庭にあるアトリエの扉を開ける。
ノックは実験に支障をきたすとか何とかで禁止されているため、私は田舎の子供のように顔だけ突っ込んで大きな声を出すしかない。
こっちのほうが、ノックよりさらに騒音になるような気もするんだけど……
私が半分不審者のようにキョロキョロと辺りを見回していると、ピンク色の羽を綺麗にたたんで狭いアトリエ内を器用に移動する堕天使マルパッセさんが、謎の機械を抱えながらやってきた。
またまたロマン溢れるスチームパンク的な機械で、燻したような鈍い金色がカッコいい。
ぐにゃりと曲がった管がたくさん付いていて、爆発した機関車みたいだった。
「おや、どうしたね? 師に用事かな?」
「あー……はい。お約束はしてないんですけど……ロンゲラップさんはいらっしゃいますか?」
「師は奥で実験中だ。もう少ししたら一息つけるはずだから、そのときに話しかけるといいだろう」
「わかりました。ありがとうございます……あの、その機械はどうしたんですか?」
好奇心に負けて私が質問をすると、マルパッセさんは今頃気付いたように腕に抱えた荷物にチラリと視線をやって、こっちを見ながら少し苦笑する。
「これは……まあ、実験の器具だったものだよ」
「……だった?」
「うむ……爆発したのだ」
「えぇ!?」
「ああ、被害は出ていないので心配は無用だよ。ただ、材料が高価なのでね……報告書類を提出するのが憂鬱だ……」
まるで爆発したみたいだと思っていたら、本当に爆発していた……
「わ、私……近づいて大丈夫でしょうか……?」
「ああ、君は念のため全身に結界をまとっておいたほうが良いだろうね。もちろん、こちらでも防御のための対処はしているのだが、師はどうも……自らを傷つける体験をしたいようなのだ」
え……なんスか? それ……
悪魔ってやつは、Sのように見せかけて、みんなドMなのか……?
マーヤークさんといい、ロンゲラップさんといい……いや、今んとこ二人しか知らないけど……
でも、5柱の悪魔のうち2柱が変態……いや待って? ヴァンゲリス様も相当アレだったような気がする……だから3柱か。5分の3なら半数以上だし、これはもう確定なのではないか?
私がしょーもないことを考えていると、アトリエの奥の部屋がひときわ明るく光って、なんだか日光が差し込んだみたいに影ができた。
「おっと……また爆発したようだな」
「え!? また!?」
「マーヤーク殿に、音と衝撃波を押さえる結界を張ってもらっているのだが……光だけはどうも防ぎ切れないらしいのだ」
「はあ……そうなんですか……」
結界の仕組みはよくわかんないけど、基本透明だから光は通すんだよね。
もしかしたら、紫外線99.9%カットするガラスみたいなこともできるかも知んないけど、この異世界ではまだ紫外線を測る装置はないんじゃないかな……?
ダメ元で頼んだら、青髪悪魔錬金術博士の気まぐれで作ってくれるかもしれないけど。
とりあえず奥の部屋に近づかないようにして、マルパッセさんと一緒にお茶の準備をしていると、少しヨレヨレになった青髪悪魔のロンゲラップ大先生が顔を出した。
「お疲れ様です〜!」
「ああ、来ていたのか。また何か問題があったのか?」
ロンゲラップさんは、私を問題児だと認定しているようで、顔を見れば「問題か?」と決まり文句のようにおっしゃる。
確かに、ここ最近は問題しか相談してないけどさぁ……
「いえ、その……問題というほどではないかと思うんですけど……お手紙を預かってきまして」
「手紙?」
ロンゲラップさんは、椅子に座ってお茶をひとくち上品に飲むと、興味なさげに聞き返す。
まつ毛長いなぁ……マジ眼福。
久々に、推しの斜め下向き顔を眺めながら、私は焼き菓子を頬張った。
図らずも最高のお茶会じゃない?
火山の調査ですごく頑張ったし、これはご褒美ってことで、有り難く摂取させていただきましょう……
「マーヤークさんの片割れのヤーちゃんからです。あ、ちなみにヤーちゃんというのはキシュテムさんが付けた呼び名で……」
「待て、何だと? マーヤークの片割れ?」
「ええ、火山地帯の地下の空洞に住んでまして、なんだか怪しい雰囲気でした」
「それで? そいつが何故、俺に手紙をよこす流れになった?」
「あーいや……ちょっとそこまでは分かりかねますけど……」
私の返答に納得できなかったのか、青髪悪魔大先生は眉を顰めた。
「お前な、何だかわからないものを安易に受け取るんじゃない。新婚祝いの件で懲りたんじゃなかったのか?」
「あ……」
え、そんなヤバいやつだったの? これ……
まさか不幸の手紙とか……?
私は、自分の学習機能のなさに、軽くショックを受けた。
ヤーちゃんは、マーヤークさんと瓜二つだったので、なんか警戒心が仕事しないのだ。
頭では気をつけなきゃとわかっていても、無意識に信用してしまうというか……
「取りあえず……どうしましょう、これ……?」
私が懐から取り出した手紙を持ったまま固まっていると、ロンゲラップさんはサラッと手紙を受け取って、何やら金具のついたガラス瓶に入れる。
まさか……海に流すの……!?
「この手紙はこちらで預かる。返事を催促されたらしばらく待てと伝えるように」
「わ、わかりました……」




