3.『火山の巨人イオスパイデ』part 12.
「お初にお目にかかります、我が半身がご面倒をおかけいたしました」
無事、火山地帯で合同調査隊の皆さんと合流すると、マーヤークさんモドキは隊長のキシュテムさんに恭しく挨拶をした。
「ああ、マーちゃんのもう一方かぁ! やっと出てきたんだね、よろしくぅ〜☆」
「……なるほど、懐の深いお方とは聞いておりましたが、まさかここまでとは……」
「あ、『マーちゃんのもう一方』って名前じゃ長いよね? ヤーちゃんで良い? それともクーちゃん? どっちがいい? まさか3人目は居ないんだろ?」
握手の流れでナチュラルに肩を組まれ、胸の辺りをバシバシ叩かれながら、マーヤークさんモドキは超チャラいキシュテム部長の馴れ馴れしい絡みに耐えていた。
……耐えてる……のか?
それを見た本物のマーヤークさんは、フワフワちゃんを抱っこしながら複雑な顔をしている。
さながら、パパを取られた息子か?
フワフワちゃんは、臣下の心情を察してか、ムギュウとされながらも大人しくされるがままだ。
でも、俯いた執事悪魔さんに強く抱きしめられた魔国の王子殿下が小さく「ンム、ムゥ……」と呻いているのを、私は聞いてしまったぜ。可愛い……
「ミドヴェルトも無事で良かったよ〜☆ ま、優秀な旦那さんが一緒だから、大丈夫だとは思ってたけどさ!」
そう言いながらウィンクをしてくる伝説の悪魔は、気遣いができる上司なのか、さりげなくベアトゥス様を褒めるのも忘れない。
ファレリ島では、ヘスダーレン卿の中に潜んで勇者様と一緒に行動していたらしいので、キシュテムさんはかなりベアトゥス様のことを理解していた。褒めて伸びるタイプなんだよね、私も知ってる。
「……で、えーと、こちらのお嬢さんは?」
キシュテムさんが、ひとしきり私たちの労いを終えたところで、羽を収納して何事もなかったように佇む女の子に目をやる。
さっき私たちが着陸したところをバッチリ目撃していたのに、まずはチームの安否確認を優先してくれたあたり、さすが人身掌握のうまい伝説の悪魔って感じだ。
ワガママなお偉いさんだったら、自分の好奇心に素直に行動しちゃって冷たい印象になったりするところだろうけど、デキる上司なキシュテムさんは優先順位をつけるのが上手い。
本当に、同じような行動を連続的にしたとしても、ほんの少し順番が違うだけで印象は大きく変わるモノなのだ。
ヘスダーレン卿がベアトゥス様を懐柔できたのも、キシュテムさんが内在していたからかもね。
最初はすごいカリスマおじいちゃんかと思ってたヘス卿だけど、実際に接すると、なんか偏屈なとこもあってチグハグなイメージだった。
それはたぶん、キシュテムさんぽいときと、本来のヘス卿っぽい行動が2種類あったからなんだろうと思う。
私も、自分らしくない積極的な行動を起こすときって「〇〇さんならそうするだろう」みたいな、ちょっと他人の行動をインストールしてるんだよね……
なんてことを考えていると、注目されたラハールちゃんにマーヤークさんモドキ……いや、結果的に『ヤーちゃん』となったマーヤークさんのもう一方が、声をかける。
「ラハール、息をしてごらん。君はもう自由に動けるはずだ」
「んはっ……!」
すると、今まで機械みたいに無表情だったラハールちゃんが、急にビックリ顔になって苦しそうに息をすると、その場にへたり込んだ。
「どしたの!? 大丈夫!?」
地上に降りて、無事ベアトゥス様の腕から解放されていた私は、慌てて座り込む女の子に駆け寄った。
ラハールちゃんは、混乱して呼吸も浅く、冷や汗をかいて何事かを呟いている。
「たしか……私……だって、まさか……え? ホントに……? ネコちゃんは……?」
「……ネコちゃん?」
今、ネコちゃんって言った??
この子の雰囲気、なんとなくだけど転生者の感じあるよね……
ネコちゃん追っかけて、事故って死んだとかか……?
でも、不確かな推測で決めつけるのもアレだし、私からは余計なことを言わないほうがいいかもしんない。
……と思う。たぶん。
「大丈夫だよ、ネコちゃんはどっか行っちゃったみたいだよ? あなたはどこも痛くない?」
私の言葉にやっと反応する余裕が出てきたのか、ラハールちゃんは、おずおずと視線を上げた。
「……痛くない」
「そっか、良かった……」
「お姉ちゃん誰?」
おっと、これは思ったよりも幼いみたいだぞ……お姉ちゃんと来たか。
少なくともティーネージャーじゃないね、ヒトケタだね。小1ぐらいかな?
「私は、ミドヴェルトって名前だよ。あなたのお名前は?」
「私……は……誰?」
むむ……記憶は曖昧なようだ……まあ、悲惨な記憶なら消えたほうがいいよね。
事件や事故のショックで、精神衛生上、いわゆる防御機能が働いてるのかもしんない。
私は、マーヤークさんモドキ……じゃなくてヤーちゃんに目でアドバイスを求める。
すると、さすがマーヤークさんの片割れ、すぐに察してくれたらしい。
「君の名前はラハールだよ。これだけは覚えておくといい、ラハール」
「ラハール……?」
ヤーちゃんに言葉をかけられ、今度は表情を失うこともなく、怪訝な顔でラハールちゃんは自分の名前を復唱した。
この様子だと、もう混乱して体が分散しちゃうなんて危険はなくなったらしい。
ここまで来れば移動手段もいろいろあるし、騎士団の皆さんもいるし、きっとどうにかなるだろう。
「うん、ラハールちゃんね! よろしく、俺は『キーちゃん』だよ☆」
「キーちゃん……?」
ラハールちゃんの幼さに合わせてくれたのか、キシュテムさんが父性を発揮して軽々と肩車をする。
高い場所に持ち上げられたラハールちゃんは、驚きながらも少し笑顔になった。
やっぱ子供って、高いとこ好きなんか……?
私は、勇者様の肩に乗せられたときの恐怖を思い出して、エア高所恐怖症が発動しかけていた。
◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇
「しっかし……本当に似てないね、二人とも☆」
とりあえず、遭難したほうも捜索するほうもお疲れ様ってことで、私たちは一旦休憩を取ることになった。
火山地帯とはいえ、噴火活動も落ち着いて、溶岩巨人のイオスパイデさんからも「しばらくは安全だー!」という太鼓判をいただいている。
今は、マーちゃんとヤーちゃん、二人の悪魔がキシュテムさんにイジられている最中だ。
私は合同調査隊の皆さんにオレンジジュースとチョコを振る舞って、ご迷惑をおかけしました感を醸し出している。
職場とかだと、イレギュラーで休んじゃった後とかに、よくお菓子やエナジードリンクの差し入れしてたんだよね。
ラハールちゃんも、今やすっかり落ち着いてニコニコしながらオレンジジュースを飲んでいる。キシュテム部長の子守り能力恐るべし。
勇者様は皆んなのごはんを作ってあげてて、元彼はなんか知らんけど配膳係に徹していた。
……意外と仲良くなってないか?
どういった気持ちの変化があったのかわかんないけど、ベアトゥス様と元彼が普通にやりとりしてて平和だ。
「お前の旦那、料理超絶上手いじゃん!」
勇者様特製シチューを持ってきてくれた元彼が、私の夫をベタ褒めする。
そのすぐ後ろには、気まずそうに顔を赤らめた勇者様が3人分のパンを持って立っていた。
「そうでしょ、プロ級なんだー!」
なんだか面白くなってしまい、私は元彼の雑談に乗ってみた。
ベアトゥス様は褒められ慣れていないので、こういうヨイショにはすごく弱い。
「ベアトゥスさん、コイツすぐお菓子だけでメシ済まそうとする不健康なとこあるんで、よろしくお願いします」
「はぁ!? あんたに言われる筋合いないんですけど!?」
気を抜いて適当に対応していたら、元彼が急に身内ぶって頭を下げるので、私は勇者様がまたヘソを曲げやしないかと焦ってしまう。
でも、ベアトゥス様は穏やかに笑って「そうだな、留意しよう」なんて答えていた。
キシュテムさんに元彼が呼ばれて行ってしまうと、勇者様は私の隣に座ってため息をつく。
「……済まなかった」
「え?」
「俺は……己の狭量さに嫌気がさした」
なんか……ベアちゃんの反省タイムが始まってしまったようだぞ……
私は、余計な口を挟まないようにしながら勇者様の愚痴を聞いてあげる。
この筋肉勇者は、言葉のキャッチボールがあまり得意ではないので、神妙に自分の気持ちを話し出したときは邪魔しないほうがいいのだ。
いつもの軽口は、ある程度の型があって、それをなぞってるだけだからスムーズにやり取りできるけど、こういうふうにポツポツと考えながら話をするベアトゥス様は、焚き火の音が弾けるくらいの雑音でも話をやめてしまう。
勇者様曰く、元彼にヤキモチを焼いて疑ってしまったけど、話をするうちに元彼には下心がないことがわかり、ようやく私の兄のような感覚で受け入れる境地になれたらしい。
「……だから今は、お前に縁のあるあの者が、心安らかに暮らせる居住地を見つけてやりたいと思っている」
なんであいつが私の兄ポジションになるんでしょうか……?
イマイチ納得できないけど、まあ喧嘩になるよりはマシかと思って反論せずに受け流すことにした。




