3.『火山の巨人イオスパイデ』part 11.
たくさんの虫の魂が融合して生まれた女の子は、ラハールと名付けられた。
どうもマーヤークさんモドキの意図が読み切れないが、何となく様子を見るに悪気はないみたい。
だから何をやっても許されるというわけじゃないんだけど、今のところ問題はないので静観するのみ。
勇者様がずーっと厳しい顔をしているので、私まで剣呑な空気を出さないように、一応バランスをとるつもりだ。
「ラハール、そろそろ歩けるかな? 我々は地上へと向かっているのだ。君も共に行こうではないか」
「ハイ、『ラハール』ハ、歩ケマス……」
マーヤークさんモドキが女の子に話しかけると、ラハールとなった女の子は従順に返答する。
この子の自我は、一体どこに行ってしまったのか……?
ちょっと心配だけど、変に落ち込んで体育座りとかされちゃっても困るし、とりあえず地上に出るまではマーヤークさんモドキに任せるしかないね。
無難に歩き出したラハールちゃんを加え、私たち一行は登り坂のトンネルをひたすら進む。
また虫に集られたら嫌なので、ブラックライトはしばらく封印。
なぜか元彼の葉っぱが光るようになったので、その薄明かりを目標にして歩くことになった。
……とは言え、私自身は相変わらずベアトゥス様に抱えられていて、実質歩いちゃいないんですけどね……
「あのう……そろそろ自分の足で歩きたいなぁ……なんて思ってるんですけど……」
「もう少し待て」
「え、はぁ……そうですか」
上りは確かに苦手なんだけど、そろそろエコノミー症候群の恐れも感じるレベルで足が固定されているので、私はモゾモゾと重心をずらしながら勇者様の腕の上で収まりのいい場所を探す。
しばらくすると、遠くに白い光が見えて、だんだん大きくなってきた。
「あれが出口だ。君たちは飛行可能かな?」
マーヤークさんモドキが、急に不穏な単語を発したので、私は思わず聞き返した。
「ヒコウって……あの、空を飛ぶ飛行ですか?」
「ほかにどんな飛行があるというのだ?」
「え、いや……」
ほかにヒコウといったら、ツボの秘孔とか、不良の非行とかいろいろありますよ!
なんて言いたい気持ちはあったけど、日本語が通じる謎の異世界ならではの言葉遊びでしかないのでグッと我慢する。
マーヤークさんモドキは、あくまでマーヤークさんモドキであって、マーヤークさんご本人ではない。
私のアホなボケに、微笑みながら良心的な相槌を打ってはくれないだろう。
それよりも、ただ地上に出るだけなのに飛行……?
わりと歩いたから、思ったよりも高台に出る感じなのかな?
なんて考えていると、先を歩いていた元彼が「うっわ!」と大きな声を上げる。
「どうした?」
珍しくベアトゥス様が元彼に声をかけて、ヤキモチよりも状況確認を優先した。
「やべえよコレぇ……!」
元彼の頭の葉っぱが、強い風に吹かれて真横にたなびいている。
なんか、その場にうずくまって全然地上に出て行かないけど……どうなってるの??
少し遅れて勇者様と私が出口にたどり着くと、そこには青空と一緒にとんでもなく雄大な景色が広がっていた。
「うっひゃぁ〜!!」
どういうわけだか360度、全部が最高の景観だ。
なんというか、地面がない。
私たちは、ポットの注ぎ口の先っちょみたいなところに出てしまったらしい。
「どどど、どうなってんですか!? これ!!?」
私が思わずマーヤークさんモドキに苦情を入れると、澄ました顔の悪魔は、当たり前のように説明をはじめる。
「ふむ……私も初めて来たので推測になってしまうが、おそらく以前の噴火で溶岩が流れ込んだ際に、我が片割れ殿が上方に向けて飛行したのだろう。このトンネルの内側が滑らかに裏打ちされているのは、彼の飛行通路が溶岩をともなってそのまま残ったせいだね」
「ひ、飛行通路……」
あの物静かな執事さんが、ドロドロの溶岩を力任せに掻き分けながら飛んでった跡なのか、これ……
なんとなくイメージの中で、青空に向かって飛び出していくやんちゃなマーヤークさんが凄くいい笑顔をしていた。
ってか、悪魔って溶岩の中でも余裕で生きていけるんだね……
だったら、このマーヤークさんモドキは、どうして私の避難案に乗ってくれたんだろうか?
「溶岩が流れてきても、あなたは特にお困りではなかったはずなのに、どうして地上まで一緒に来てくれたんですか?」
「ん? 君たちは生命の危機に瀕していたのだろう? 切迫した表情で真剣な様子だったので道案内を買って出た。暇だったしね」
あれ……? もしかして良い人なのかな……?
まあ、私も『勢いで押し切ろう作戦』をしていたので、必要以上に切迫した表情とやらをしていたかもしれない。
そうは言っても、困っている私たちの道案内をしてくれるマーヤークさんモドキは、やっぱり本当にマーヤークさんなのではないか。
「そういえば、だいぶ前に半身さんとお別れしたと言ってたのに、今までここには来なかったんですね?」
私が何となく質問をすると、マーヤークさんモドキは薄く笑みを浮かべて目を閉じた。
そうやっている姿は、本物のマーヤークさんにしか見えない。
「私は半身の意志を尊重しているのさ。あちらが私を捨てたなら、追い縋っても無意味だ」
「捨てた……?」
あ……なんかこれ、地雷踏んだかもしんない。
半身の感覚って、私には理解が及ばない世界だけど……ちゃちな言葉で表現すると、愛や憎しみがごちゃ混ぜになった整理不可能なモノなのかも。
好きだけど嫌い、みたいな……
心配だけど離れていたい、みたいな……
「それはともかく、だ。君たちに飛行能力がないということであれば、私の采配に従ってもらうことになるがいいかね? ラハール、出番だよ」
「ハイ」
私が変に口篭っていると、マーヤークさんモドキが話題を変えて場を取り仕切った。
悪魔に呼ばれた女の子は、しずしずと伏し目がちに歩み出ると、穴の淵に立って大きく手を広げた。
すると、その背中から大きな透明の羽が4枚一気に広がって、太陽光を反射してキラリと虹色に光る。
これたぶん撥水能力めちゃ高だね!
変に感動しながらセミみたいに綺麗な羽を眺めていると、ラハールちゃんは少ししゃがんで言った。
「オ乗リクダサイマセ……」
「え……?」
どうやって?
確かに羽はすごくおっきくて立派だけど、ラハールちゃん自体はそのままの大きさだ。
比率的に尻尾短めのイトトンボみたいになってるんだが……どこに乗れと?
私が疑問を口にしようとすると、勇者様が率先して動いた。
「ならば頼んだ」
「え、ちょ、ま!」
「お、俺を置いてくなよ!」
「ラハール、飛べ」
「ハイ」
羽の上にどっかり座り込んだ勇者様に抱えられ、私も自然にラハールちゃんの羽に乗ってしまった。
それを見た元彼も慌てて乗り、最後に乗ってきたマーヤークさんモドキが出発の合図をする。
その言葉に素直に従って、ラハールちゃんはトンと軽く地面を蹴り、躊躇なく何もない空間へ飛び降りた。
またこのパターン!?
私はベアトゥス様のバンジージャンプみたいな垂直落下移動をイメージして、思わず体を硬直させてしまう。
でもふんわりと舞い上がったラハールちゃんは、大きな羽をうまく風に乗せながら安定的に水平飛行をしてくれたのだった。
「うわぁ! すごいですね!!」
強い風に煽られて体が少し浮いちゃったけど、勇者様のぶっとい腕でガシッと掴まれて助かった。
それでなんだか私の高所恐怖症は抑えられたっていうか、この高度だと高過ぎて飛行機気分だから、むしろ楽しい。
ラハールちゃんの羽は、羽ばたくというよりは滑空する感じで動かないし、乗り心地は最高だ。
眼下には、火山と森の織りなす大自然が幻想的に広がっていて、まるで映画みたいなカメラワークに感動してしまう。
「あの辺りかな? ラハール、降りろ」
マーヤークさんモドキが冷静に指示をすると、ラハールちゃんは器用にくるりと旋回し、私たちは合同調査隊の皆さんの元へと近づいていった。
「ああ、やはりキシュテム様もいらっしゃったのだね」
地上の様子が見えてくると、フワフワちゃんがぴょんぴょん飛び跳ねている様子がわかる。
マーヤークさんモドキは、本物のマーヤークさんよりも、伝説の悪魔キシュテムさんのほうに反応しているようだった。




