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1.『それぞれの帰還』part 4.

「昔のメガラニカってすごく綺麗ですねぇ」


「うむ、我が国は民のスキルで成り立っているのでな、建築のスキルがある者が多ければ自然とこうなる。お前が来たときは、建築のスキルを持つ者が居なくなってしまった後だった」


「そうでしたか……」



 神国メガラニカの終焉には、私も立ち会った。


 わたしは全盛期を知らないから豆腐建築みたいなイメージしかなかったけど、こんなに綺麗な国だっていう記憶があれば、見切りをつけるのは難しかっただろう。


 それに、メガラニカをあんなに衰退させた地竜の死に、ベアトゥス様が責任を感じるのもわかる気がした。


 また落ち込んじゃってたら、どうしよう……


 ちょっと心配になって、でもひとりで思い出に(ひた)りたいかなと思ったりして、私がくっつくのを躊躇していると、勇者様がグイッと引き寄せてくれた。

 


「すまん……しばらくこうさせてくれ」


「大丈夫ですよ……ゆっくり行きましょう」



 やっぱり勇者様は泣いていた。


 声を押し殺して、鼻をすする音だけが聞こえる。


 顔を伏せているので、どんな表情かはわからない。


 ただの知り合いの頃なら、余計なことしちゃ迷惑かなと思って一歩引いてたけど、今の私は妻なんだよね。


 何かできることあるかな? ……鼻? 鼻かむ?


 ポッケを探るとハンカチっぽいのがあったので、私はベアトゥス様に差し出してみた。


 すると、それに反応して、夫となった勇者様が顔を上げる。



「……ありがとう」



 うっすら赤くなった目で私を見ながら素直にハンカチを受け取る勇者様が、もう完璧ドストライク過ぎて、私は思わず両手で心臓を押さえて下唇を噛んでしまった。


 泣き顔ゲット! ありがとうございます!!


 え、これが……ベリル様からの贈り物ってことかな!?


 ナイス! ベリル様!!


 ベリル様に課金したい!


 いや待て……この場合、課金先はベアトゥス様なのでは!?


 私がそんなアホなことを考えているなんて(つゆ)ほども知らない勇者様は、適度なところで泣き止むと、ゆるく微笑んだ。



「お前とここに来れてよかった、ミドヴェルト」


「私も嬉しいです、ベアトゥス様」



 メガラニカに入るのは難しそうだけど、ここまできたら行ってみたいよね。


 でもこの断崖絶壁、天然の要害ってやつか……?


 道も無さそうだし……って、え?


 私が下を覗き込んでいると、脇腹を筋肉勇者にガッシリ抱えられてしまう。うわこれ痛いんだよなぁ……ホリーブレでベリル様に小脇に抱えられたときのことを思い出しながら、私は身を固くする。


 でも今回は全然痛くなかった。


 なんでだろ? 腕太いから??



「飛ぶぞ! 舌噛むなよ!!」


「ひえぇ!?」



 ベアトゥス様は、何の躊躇もなく崖からジャンプすると、あたりまえのように自由落下の法則に従って垂直に落ちる。


 し、死んだあぁぁああぁぁぁあぁ!!!


 そういや、ファレリ島の蟹罠でも、当たり前のようにジャンピング落下してたわこの勇者……!


 私が観念して目をつぶり世を(はかな)んでいると、急にグイッと体が持ち上がって、ふわふわと上下するような感覚になる。


 恐る恐る目を開けると、勇者様は楽しそうに大きな鳥の足をつかんで滑空していた。


 なるほど……そういう移動法があるワケね……


 うまい具合に緑の大地にふわりと着地して、ベアトゥス様は小脇に抱えた私をくるりと器用に立たせてくれた。



「大丈夫か?」


「は、はい……」



 なんて言いながら、私は足がフラフラになっている。


 高所恐怖症だからさぁ……


 へにゃりと座り込んでしまった私を、勇者様は片手でつまんで肩に乗せてくれた。


 ってこれも絶妙に高くて怖い!



「ベ、ベアトゥス様? 私この位置ですか!?」


「ん? ああ、ダメか? お前が良く妖精王女を肩に乗せているから真似てみたんだが」


「妖精……!? って大きさの比率が違うじゃないですか! それに、王女様は飛べますけど、私はここから落ちたら……泣きます!」


「そうか、すまん……」



 勇者様はしゅんとして私を地面におろす。


 さすがにこの高さから落ちても、結界魔法で物理防御すれば怪我しないだろうし、たいして問題はないんだけど……


 いや、やっぱり高所恐怖症を舐めないでほしい。


 さらに足がガクガクになってしまった私は、とにかくへたり込まないようにベアトゥス様の腕をつかむ。


 また変な空気になっちゃったかな……?


 何か……いい感じのこと言わなきゃ……



「ベアトゥス様、メガラニカにおかえりなさいませ」


「おう、ただいま帰った!」





◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇





 過去のメガラニカは、見た目だけでなく雰囲気も平和そのものだった。


 そこかしこに水道みたいなものがあって、水は飲み放題。


 公園には果樹があって果物も食べ放題。


 え……ここ、控えめに言って楽園なのでは……?


 ベアトゥス様と二人で歩いているのに、私が立ち止まってばかりいるもんだから、全然前に進まない。



「すみません、懐かしい思い出の場所巡りの邪魔をしてしまって……」


「いや、かまわん。お前が見たいものを見ればよい」


「ええ……じゃあアレ、あの屋台見てみましょう!」


「腹が減ったのか?」


「見たいだけです!」



 なんだかベアトゥス様が、私を食いしん坊キャラにしようとしてるような気がして、強めに返事してしまう。


 コレがいけないのかもね……


 もう勇者様と喧嘩したくないから、どうにかして女子力を高めたい。


 と、取り敢えずは、新婚旅行の(てい)で手でも繋いでみる……?


 と思って、ベアトゥス様の親指をつかんでみる。この勇者様は何もかもデカいので、手もお相撲さんの手形みたいにデカい。


 なんか気まずいけど、形だけでも新婚さんぶってれば、案外どうにかなるのではないか。


 私は形から入るタイプなので、そんなふうに思っちゃうんだよね。



「早く、行きましょう!」



 勇者様を引っ張りながら、私はウキウキで市場に向かう。


 メガラニカ探検のはじまりだ!





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