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3.『火山の巨人イオスパイデ』part 6.

「それじゃ、火山のほうは落ち着いたみたいだし、アジュガ族の居住区域に行ってみようか〜」



 キシュテムさんは思いのほかやる気で、夕食の席で次の予定について話をしていた。


 麓の町の宿に帰ってからは、町長さんから火山灰の件で感謝の言葉をいただいたり、町のご好意で呼んでいただいた謎の舞踊団に囲まれ至近距離で踊られちゃって反応に困ったりといろいろ大変だった。


 そんでもって溶岩が固まるまで麓の町の火山灰清掃やお祭りイベントなんかに参加して、今日に至る。


 やっと本来の職務に戻った感じがして、仕事モードでキシュテム部長のお話を聞いてたんだけど、私にはひとつ気になることがあった。


 アジュガ族として転生した元彼は、一応当事者ではあるけど、何つーか植物サンプルみたいなもんだから、夕食のテーブルを囲むメンバーには入っていない。


 元彼には、汚染された松の苗が影響したとかで、増幅された植物系魔物の族長クラスの結界能力があるっぽいんだけど、それが自力ではコントロールできないらしく、いつどう発動するかわかんないので別室で厳重に拘束されているのだ。


 今は、なんかよくわかんない魔道具で、一時的に能力が封じられているらしい。


 一応、ご飯とかは食べさせてもらえて、人道的な対応を受けているみたいだけど……ホントに大丈夫か?


 でも私が様子を見に行こうとすると、また勇者様に変な誤解をされかねないので、見張りの騎士さんから報告だけ聞いて納得している。


 元彼のことは全然好きじゃないし、おかしな関係じゃないつもりだけど、ここで大切なのは真実ではない。


 繊細な勇者様が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのである。


 恋愛なんてあんましてこなかった私からすると、聞いてない話は存在しないで終了なんだけど、ベアトゥス様はなんかそういう感じじゃないっぽいんだよね……


 あーだこーだ変なふうに想像して、私も気づかなかったような可能性を指摘してくれちゃったりするのだ。


 勇者様の中に居るイマジナリー私って、一体どんだけ恋愛体質なんだろ……


 こちとら女子力なんて、せいぜい1あるかないかのダメ人間なんだが?


 まあ、そんな本音は言うだけ無駄なので封印し、仕事に集中!


 元彼と絡むことには、できるだけ勇者様同伴でオープンに行けばどうにかなるやろ。


 ……といった楽天的な感じで、次の日、私たち調査隊はアジュガ族の谷に向かったのだった。





◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇





「ムー!」


「フワフワちゃんは元気だねぇ……」



 溶岩ドームの調査もするので、イオスパイデさんを気軽に呼び出せる王子殿下が居たほうがいいということになり、フワフワちゃんも乗り気だったのでチーム構成は変わらずこれまでと同じまま谷に向かう。


 谷といっても、前回見たとおりにすっかり溶岩で埋まってしまい、地下に空洞が少しある程度だ。



「…………」



 アジュガ族に転生した元彼も、生まれ育った故郷が大災害ですっかり見る影も無くなったことにショックを隠し切れないのか、無言で(こぶし)を握りしめている。



「……大丈夫?」



 私が思わず話しかけると、目を合わせないまま元彼が答えた。



「こんなこと……あってたまるかよ……!」



 それには私もかける言葉がない。


 アジュガ族がわるいってわけじゃなく、どうしようもないことなのだ。


 不幸中の幸いと言えば、事前にゴッドヴァシュランズオルムの植物研究所が動いて、谷の住民たちが死傷者ゼロで避難できたってことぐらい。


 アジュガ族の皆さんの思い出が詰まった家や谷の風景は失われ、生活基盤は失われてしまった。


 強気で怒っていた族長のおじさんは、この現実を知らされてすっかり(しお)れてしまい、族長の息子である元彼は、なぜか未来の変な場所で謎の結界を展開しながら発狂していた。



「溶岩はもう冷えているようですね」



 スピロさんとジョシュさんが、いろいろな場所に棒を差し込みながら溶岩の具合を調べていた。


 ところどころに白い煙が上がっているけど、これでもだいぶ冷え固まった後らしい。



「なんか……生き物はいないのに生命を感じますね……」



 シューシューと呼吸のように湯気を吹き出す地面を見ながら、私はなんとなく『星は生きている』みたいな言葉を思い出す。


 動いてれば生きてるって言えるのか?


 ちょっとよくわかんないけど、鉱物だって成長するし、なんかパワー持っちゃってるストーンとかもあるらしい。


 現実世界では、どちらかというと不幸をもたらす系の怖い石が多かったけど、こっちの世界なら素直な気持ちで前向きに生きる石なんてものもあるかもしれない。


 そんなことを意味もなく考えながら歩いていると、足元にオレンジ色の葉っぱを見つけた。



「あ、もう草が生えてる……!」


「どこだ?」



 私の声に敏感に反応した勇者様が、凸凹の岩を器用に飛び越えてやってくる。


 ふふふ……ぴょんぴょんしてて可愛い。


 目が合うと、少し足を滑らせて、慌てて体勢を整えていた。大丈夫か。


 少し遅れて、『草』の単語を聞きつけたスピロ教授が、ジョシュさんと一緒にこっちに来てくれた。



「これは、火山帯で見られる多年草ですね。キルビーキルという名前で、辛味をつけるための香辛料に使われています」


「あ、じゃあ()()が?」


「……そのようだな」



 スピロさんの説明を聞いた私が、思わずベアトゥス様を見ると、目が合った気がするのにそらされる。


 なんなのか……


 まあいいけど。細かいことは気にしないふりをして、私は会話を続けた。



「これで、一体どんな料理を作るんですか?」


「そうだな……」



 ん?


 一瞬、無言になった勇者様は、また思わせぶりな間を持たせてから「後で考える」と言って、腰に下げた鞄に採取したキルビーキルを詰め込む。


 あ、これなんも考えてないやつ……



「でも、こんなに荒れ果てたように見えても、意外と植物って生えるものなんですねぇ……」



 私が感心したようにつぶやくと、生き生きとした顔でスピロ教授が解説してくれる。



「植物には、火山に適した進化を遂げたものも相当数いるんですよ。種子の状態で火に耐えるものや、山火事が起きると花を咲かせ実を付けるものなど、種族によってさまざまです。面白いでしょう?」


「え……火を利用? 燃えないってことですか?」


「いえ、むしろよく燃えてくれますよ。新陳代謝が活発になったり、硬い殻が火によってしか割れなかったりするんです。こうして何もなくなった土地で、いち早く芽を出し、生存競争に勝つという……いわば奇策ですよね。一発逆転というべきか」


「へえ……世代交代に賭けるってことでしょうか?」


「個の概念は、ある程度の高度な生物にならないと生まれないと考えられています。こういった植物たちは、自分たちの種を保存するために全体がひとつの生き物として進化しているんですよ」


「なるほど……?」



 もしかして……草は、某宇宙作品で言うところのボーグなのか……?


 わかったようなわからないような顔をした私を見たスピロ教授は、ほんわりとした柔らかい笑顔で受け流してくれた。


 種の保存って、現実世界の学校で聞いたことあるような……ないような?


 人間とか動物なら、まあわかるけど……魔物ってそんな考え方するもんなのかな?


 妖精とか悪魔は自然発生するから進化も何もないだろうし、魔国の人々もウェスパシアの祭壇で生まれるという。


 とはいえ、植物や虫も現実世界準拠って感じの繁殖方法みたいなので、興味を持って研究すれば、魔族の方々でもそういった考え方が身につくのかもしれない。


 命の不思議だね……


 ということは、火山の近くの谷に住んでいたアジュガ族も、実は火に強い性質とか持ってたりするんだろうか?





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