2.『コリオリちからに逆らうな!』part 8.
松の実捜索隊のメンバーは、私とベリル様、キシュテムさんとその部下(有志)、伝説のプラントハンターであるアウクバ・キューリックさんと植物研究所の特別研究員スピロ・ラリティー教授、植物研究所の助手の方とマーヤークさんの8名に決まった。
植物研究所の中庭に出ると、ベリル様が調整してくださった魔道具を渡され、私が発動することになった。
魔道具『インペルフェット』の定員としてはもっといけるみたいだけど、物理的にくっついてないといけないので、あんまり大所帯だと危険とのことだった。
以前、精霊女王ベリル様がご説明くださったように、魔道具と離れて迷子になると2度と帰れなくなってしまう可能性がある。
っていう注意事項を皆さんに周知徹底して、いざ出発!
「それでは、いいですか? 全員手を繋ぎましたか〜? みなさんしっかりくっ付いてくださいね〜? では、行きますよ〜」
「ミドヴェルト、心配しすぎだよ。数年先に放置されたって、誰も困らないって」
キシュテムさん……アンタは悪魔だから困らないかもしれないけど、普通は数年失踪したら困るから。
私は皆さんの手前、余計なことを言わないようにグッと言葉を飲み込んで、できるだけ平静を装いつつ「じゃ、ボタン押しますねー」と魔道具を起動させた。
◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇
輪のように固まっていた私たちは、一瞬ブブンッと存在がブレたようになり、また同じような森の中に立っていた。
勇者様と過去のメガラニカに行ったときは、全然ブレを感じなかったけど……人数が多かったからかな?
「皆さん、揃ってますか〜?」
一応、人数確認をしながら、私は全員のチェックをした。
この面子で、きちんと全体を把握できるのは、正直私だけなんじゃないだろうか?
自由すぎるベリル様に、何となくいい加減なキシュテムさん。よくわかんないけどヤバそうなキューリックさんに、集中すると周りが見えなくなるスピロさん。後は、よりによって何で来たのかわからない嫌味なトカゲモブ貴族のパート家次男、リヴァル・パート。
マーヤークさんと、スピロさんの助手さんは、事務的なこと得意そうだけど……迷子に優しくはなさそう。
特にマーヤークさんは、こないだ王城で「チュレア様の婚約者候補の貴族など減れば減るほどいい」とか不穏な内容を言っていた気がするので、パート家次男にはさりげなく危険が迫っているんだよね。
私も嫌味を言われた手前、リヴァル・パートが迷子になってもあんまり助けたくはない気がするけど、だからってわざと行方不明者にするつもりもない。
相変わらず、このパート家の次男坊は、私にしかめっ面を見せてきやがるけど……ここでお前の守護者やってんのは私なんだからな!?
などと思いながらも、言葉には出さないで粛々と私は仕事を続けるのみ。
純粋に仕事に集中したいんだけど、人間関係が絡んでくると、頭の中でゴチャゴチャ考えちゃってストレスの負荷が3割り増しだね。いや、7割り増しか?
できるだけ無の心で動くようにしてるけど、そうなると見落としも増えちゃうから、いい感じに表層意識を調整するのが難しい。
今の私は、時間旅行のツアコンに徹しているのだ。
松の実の採取は、キシュテムさんに任せるよ。
専門家のプラントハンターと植物学の権威も居るし、大丈夫……だよね?
などと考えていると、早速誰かがふらりと輪を抜け、自由行動をはじめた。
「キューリック! どこに行くんだ!?」
スピロさんの声から察するに、アレは伝説のプラントハンターさんか……
私は、とりあえず皆さんに聞こえるように大声で待ち合わせ時間を伝えた。
「皆さんいいですか〜? 夕日が落ちる前には、この場所に戻ってきてくださいよ〜? 戻らない場合は置いてきぼりになっちゃいますからね〜?」
おもにアウクバ・キューリックさんに向けての注意だったけど、聞いてもらえたかな??
まあ、キューリックさんは数年単位でどっか行っちゃうってスピロさんが言ってたから、最悪はぐれても何とかなる……のか?
そんなところも、まるで青髪悪魔のロンゲラップさんにそっくりだなぁ……などと私は呑気に考えていた。
しかし……と、私はキョロキョロと周囲を見渡す。
「松の木って……どこ行ったのぉ?」
私の後ろで、同じように辺りを見ていたらしいキシュテムさんが、気の抜けた声を出す。
時間旅行前に、確かに近くにあったはずの、あの小さな松の木は見当たらない。
「あれぇ? おっかしーなぁ……座標は間違ってないはずだけど?」
ベリル様は、私が持っていた魔道具『インペルフェット』の目盛を確認しながら、後ろから抱き込むように寄り添ってきた。
なんかもう慣れた……と言いたいところだけど、ベリル様は隙あらば耳フーをしてくるから勘弁してほしい。
「ミドちゃん、何も動かしてないよねぇ? ん? どう? 動かしちゃった? 素直に言ってごらん?」
「わ、私はボタンしか押してません……! ひゃ!?」
耳元で低めの声で責められ、私は身構えていたのにまんまと反応してしまった。
それを見て、ベリル様はご満悦だ。はぁ……
これまで結界で弾いてしまったという経緯もあって、私としては何となく申し訳なくて反撃もしづらい。
仕事中だから、変なことしないでほしいんだが……
マーヤークさんはベリル様に対して注意などはしない。ほかの皆さんも、精霊女王にツッコミを入れるような愚は犯さないので、誰も止めてくれる人はいないんだよね……耐えるしかないのか?
「精霊女王様さぁ……ミドヴェルト嫌がってるじゃん。やめてあげなよ〜」
「はぁ? どう見ても喜んでるだろ? ん? 喜んでるよな? ミドちゃん、俺のこと好きだもんね?」
「え、えっと……ベリル様には崇敬の念を持っておりますが……今は仕事中ですので、その……あまり耳元で息を吹きかけるのは、ちょっと……」
まさかのキシュテムさんが、世界最強存在である精霊女王のベリル様に苦言を呈してくれたので、私は言葉を慎重に選択しながら本音を伝えることができた。
いや本当。ベリル様のこと嫌いじゃないけど、気軽に好きって言えるようなアレでもないんだよね。
神様仏様ベリル様って感じで、いざというときにはお縋りさせていただきたいので、ご機嫌は損ねたくないのだ。
自分でも現金だなぁと思うけど、私は勇者様が好きで結婚したわけだし、浮気はいけない。ダメ、絶対!
でも、立場が雲の上レベルで高い相手にセクハラ&パワハラ受けたときの正しい対応って、どうすればいいかわからないよ……
どこかに訴えたとて、この異世界で神のような頂点に位置するベリル様を、罰するシステムなんて無いでしょ!?
まあ……バニラエッセンスで嫌がらせすることはできるけど……
「しょーがないなー。じゃ仕事終わったら、ずっと一緒にいようか! それまでこうしてるー」
ベリル様は、しゅるしゅると私の肩に巻きついて、リアルなマントになった。
これまでの生体マント状態じゃなくて、本当に布地でできたマントみたいだ。
「うぇ!? ベリル様って服に変身できるんですか!?」
「えへへ〜すごいでしょ〜」
ベリルマントは、ドヤりながらご機嫌で返事をしてくれた。
喋るマント……
私は、もうそれ以上考えることをやめた。




