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2.『コリオリちからに逆らうな!』part 2.

「はあ……はあ……他国から、松を輸入するってことは、できないんですか?」



 湿原を歩きながら無の境地に達しつつある私の疑問は、今、この異世界に松があるのかどうかってことだった。


 そりゃ、松を食べるパインデビルって魔物が、過去に魔国の松を食い尽くしたってのは理解したよ?


 じゃあ、外国には残ってるのか? って思うのは普通のことだよね。


 外国にも、パインデビルとやらの魔の手は伸びてしまったのか?



「それは()()()()()()()



 さりげなく付いてきたマーヤークさんが、事もなげに答えてくれた。


 今回のお出かけにフワフワちゃんは居ないんだけど、なぜかこの執事悪魔は居る。


 たぶん、チュレア様のご命令で、キシュテムさんのお目付け役になってるんだと思う。


 キシュテムさんがどう行動するか、細かく観察してポイントつけなきゃいけないしね……


 それにしても、なんで松の輸入が難しいんだろ?


 私がそんなことを考えていると、執事悪魔のマーヤークさんはまるで私の心を見透かしたかのように、細かい説明をしてくれた。


 

「魔国は基本的に、輸入ではなく侵攻で欲しいものを取り込んできた経緯がありますので、輸入交渉を持ちかけた時点で相手国は宣戦布告ととらえるでしょうし、会議でも上層部のお歴々はもちろん最終的に侵攻計画となるだろうと考えますね。暗黙の了解です」


「え……そうなんですか……?」



 な、なんちゅう国なんじゃ……魔国って……


 そうやって国を大きくしてきたのかって思うと、なんだか魔国に籍を置いてる私も居た(たま)れなくなってくるね。



「ところで……この先に本当にあるんですか? 植物研究所ってやつは……」



 そう、どうして私たちがこんな南方の湿地にいるかというと、松のサンプルがあるかもしれないという噂の『ゴッドヴァシュランズオルム植物研究所』に向かっているからなのだった。


 所謂(いわゆる)、蛇男くんのご実家にある可能性が高いとのことだった。


 蛇男くんのご両親は、魔国に属しながら自治が認められている南の王で、本当の姿はどデカい双頭の蛇なのだ。


 でも王城の式典では、シュッとした人間の姿でお会いしたこともあり、なんか姿は自由自在に変えられるらしい。


 私も、せっかく異世界に来ちゃったんだから、もの凄い美少女とかになりたかったぜ……


 まあ、今さらだし、別にいいけどさ。



「植物研究所はもう少し先です。ミドヴェルト様がお疲れのようでしたら、休憩時間を(もう)けますが、いかがいたしますか?」


「えー! 休んでいいのぉ? じゃあ休もうよ!!」



 私がマーヤークさんの問いに答える前に、キシュテムさんが甘えた声を出す。


 この二柱の悪魔は、どうやら昔からの知り合いらしいんだけど……マーヤークさんはちょっと余所よそしくて、キシュテムさんの一方的な片想い感がある。


 まあ、マーヤークさんて結構、誰とでもソツなく接する割に心は開かないってトコあるよね。


 私も最初はめっちゃ塩対応されていたような気がする。なんとなく仲良くなれたのは、やっぱお付き妖精との戦いで、命懸けの契約した後からかな……?


 あの後、急に「様」付けで呼ばれだして、なんか距離感変わったよね……


 まあ、フワフワちゃんを本気で支える会の一員として認められたのではないだろうか……? と、私は勝手に思っている。


 マーヤークさんは、フワフワちゃんにかなり心酔しているみたいだしね。



「松の研究って……どういう目的なんでしょう? やっぱり食用に……?」


「さあ、そこまでは存じ上げません」


「えぇ、知らないのぉ!? 珍しい植物ってかなり高額で売買されてるんだよ。ちょっとした宝石より財産として人気があるんだから!」


「え……そうなんですか? キシュテムさんて物知りなんですね」


「どうせ、事前にチュレア様のレクチャーを受けただけですよ、この方は」


「お? マーヤークってば俺に冷たいじゃん。まーその通りなんだけど☆」



 何だかんだと会話を続けているうちに、湿原を抜けて地面がしっかりしてくる。やっとおっかなびっくり足を動かして歩く必要がなくなって、私は一気にストレスから解放された気分。


 行けると思って太腿まで埋まったときは、本当に最悪だった……


 植物研究所の建物は、どちらかというと妖精国っぽい雰囲気で、つるんとした大きな葉っぱを屋根に活用したファンシーな作りだった。


 ……と思ったら、それは門と、衛兵の詰所らしい。


 手続きをして奥に進むと、何やら大きな鉄の骨組みと細かいガラスで構築された温室が見えてきた。


 現実世界の温室と違うのは、真っ直ぐ感がなくて、すべての鉄枠がくるくると曲がりくねっているってことかな……?


 アール・ヌーヴォーっていうほど繊細で完成されたデザインではないけれど、なんかそっち系の、魔国らしい変わった温室だった。



「はぁ〜……でっかい温室ですねぇ……」



 私が植物研究所の大きさに目を奪われていると、急に楽団の音楽がはじまって、横断幕を持った人や花束を持った人が集まってきた。



『湿地の大氾濫から救ってくれてありがとう!』



 と、少し斜めの文字で書かれた横断幕は、ところどころに泥がついて湿っている。



「「「いらっしゃいませ!! 歓迎いたします!!」」」



 小さく「せーの!」と声を合わせて挨拶してくれたのは、勇者様が堰き止めた川のせいで、湖になってしまった湿原で溺れかけた歌女(かじょ)の皆さんだった。


 歌女(かじょ)というからには、合唱でもすんのかな? ……と思ったけど、歌女の歌というものは超音波というか、周波数が高過ぎて一般人には聞こえないらしい。そのため、思いのほかフツーのご挨拶となったようだ。



「王城からのお客様がいらっしゃるとのことで、皆喜んでおりまして……よかったら歓迎会にご参加いただけますかしら?」


「もちろんですよ、夫人☆」


「お久しぶりです、ご子息のアンチンさんには、いつもお世話になっております」


「まあまあ、ミドヴェルトさん。まずはお(くつろ)ぎくださってね」



 ゴッドヴァシュランズオルムご夫妻は、ご領地の中なのに人型でご対応くださる。


 前に南の湿地でお会いしたときは、どデカい双頭の白蛇状態だったけど、王城のイベントでは人型だった。


 どういう使い分けなのかよくわかんないけど、私たちは王城からの使者だから、気を使ってくれたのかな?


 一応この中で一番偉い立場ってことになっているキシュテムさんは、マーヤークさんの視線を感じてか、わりと真面目に応対していた。


 ご夫妻の後について行くと、ガーデンパーティーみたいな感じで芝生の庭にテーブルや椅子がセッティングされていて、それぞれ珍しい果物が山盛りになっている。


 さすが植物研究所って感じだ……


 事前に書面で欲しい植物について問い合わせしてたから、「ある」ってことを勿体ぶってアピールしたいのだろうか?


 無かったら、無いって言うよね……?


 松は……あるんだよね?


 引かれた椅子に素直に座った私の耳に、ゴッドヴァシュランズオルム様のお言葉が響く。



「結論から申し上げると、()()()()()()()()()



 


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