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カナとリサ  作者: レン
7/10

7話 リサの実力

早朝の4時半。この季節は日中は温かいけど、この時間はまだ少し寒い

学校に行く時よりも少しだけ厚着をして、手を擦りながら庭に出る

5時からお父さんに朝練に付き合ってもらう約束をしてるから、そのためのウォーミングアップを始める

少しストレッチして、それから剣を振る。いつものルーティーンを淡々とこなす

まだこの時間は街の中も凄く静かで、まるで山の中にいるときの様に落ち着いて練習が出来る

この時間に練習をするようになって、まだ一か月くらいしか経ってないけど、私は結構気に入っていた


体が段々温まってきて、上着を脱ごうかと思っていると、お父さんが庭に出て来た


「おはよう、早いな」

「おはよう、お父さん。うん、準備運動してた」


眠そうな感じも寒そうな感じも全くしないお父さん。さっきまで部屋で寝ていたんだと思うけど、もうすぐにでも、私と稽古ができそうだった


「張り切ってるな」


私のことを優しそうな目で見ながらそう言うお父さん

ちょっと余裕がある感じにむっとしてしまう


「うん。やるからには本気でやらないと。今日は一本くらいとりたいからね」


この一か月くらいお父さんと打ち合いをしているけど、まだ私はお父さんから一本も取れていなかった

今日こそは。闘志をみなぎらせて私が言うと、お父さんは複雑そうな表情をした

大方、私に甘いお父さんのことだから、私に負けてあげたい、でも父親の威厳も守りたい。そんなことを考えているに違いない


「手、抜かないでよ?」


私が一応そう釘をさすと、お父さんは苦笑した


「しないよ、そんなこと」



「よし、じゃあ今日はここまで」


お父さんの言葉を合図に地面に倒れる

胸が苦しい。手足が少し震えてる。ここまで必死にくらいついても、やっぱりお父さんには少しも触れることが出来なかった


「よくなってたぞ。周りもだいぶ見えるようになってたな」

「うん」


お父さんと手合わせするようになって、普段の練習の仕方を少し変えた。前までは、自分の世界に入り込んで、私が楽しむためにやっていた剣の型を、もっと実践を意識してするようになった。周りを見ながらやるようになったから、最近はカナが到着することに気が付くようになっていたし、今日の手合わせのこともあって、ちゃんと身に着いていることを実感していた


「これなら、もうすぐリサに追い抜かれちゃうかもしれないな」


お父さんが楽しそうに笑う

練習が終わると、毎日のようにお父さんはそう言っているような気がする

本当か嘘かよくわからないから、いつもの様に適当に流す

でも何となく、お父さんがこういう感じでいられることは、お父さんに余裕がある証拠のような気がした


まだまだだな。少し周りが見えて来たけど、私はちゃんと成長出来てるのかな

最近私は、カナに型を教え始めた。もう基本的な剣の振り方とか足運びは、だいぶ上手になっていたから

カナに剣を教え始めて一か月しか経っていない。カナの成長スピードは結構速いと思う

それに比べて私は。そう思うことも増えた


「リサはちゃんと成長してるよ」


そんな私の気持ちを察したのか、お父さんがそう言う


「そうかな」


でも私は、その言葉を素直に受け取ることが出来ない。そりゃあ、お父さんならそう言ってくれるだろう。私に甘いお父さんなら。そう思ってしまう


「ああ。なあリサ、今度一緒に自衛団の練習に行かないか?」


お父さんが突然、そんな提案をしてきた。今までそんなこと一度も言ったことがなかったし、少し驚いてしまう


「どうしたの?急に」

「リサって俺以外と手合わせしたことあまりないだろ?」

「うん」


お父さん以外だと、あのガキ大将くらいかな


「リサは知らないかもしれないけど、俺って結構強いほうなんだよ」

「うん、知ってるよ。何となくだけど。偉いんでしょ?」


私がそう言うと、お父さんが苦笑した

あれ、何か間違ってるかな


「まあ、そうだな。それで、お父さんの部下と手合わせしてみれば、少しは成長を実感できるんじゃないかと思うんだけど、どうだ?」


お父さんの部下と手合わせか。それは少し楽しそう

学校じゃないから、ああいう嫌な目に会うこともないだろうし、お父さん以外の人と手合わせしてみたい気持ちも少しはある


「じゃあ、行ってみようかな」


私がそう答えると、お父さんが弾けるような笑顔を浮かべた


「本当か!?」

「う、うん」


お父さんのあまりのテンションの上がり方に少し引く。やっぱり断ろうかなって思ったけど、さすがにそんな鬼畜なことはできない



そんなこんなで、その翌日は週末で学校がないから、自衛団の練習に行くことになった

自衛団の敷地に入るのはこれが初めてだった。お父さんの職場でも、いや、お父さんの職場だったからこそ、あんまりここには近寄らなかった


高い砦に囲まれた基地の中。門をくぐって入ると、すぐに練習場が広がっていて、たくさんの人が訓練しているのが見えた

たくさんの人が息を合わせて一斉に剣を振る姿は、なかなか壮観で、始めて見る光景に目が釘付けになった。足音と掛け声がぴったり合わさってて、迫力が凄い

これだけでも、今日ここに来てよかった気がする


そんなことを思いながら眺めていると、結構な数の視線が私に向けられているような気がした

ちらちらと周りを見てみる

気のせいかと思ったけど、やっぱりたくさんの人が私のことを見ていた


何でだろう。恰好が変とか?

基地には女の人があんまりいなそうだし、珍しいから見てる?


そんなことを思っていると、ちらほらと「あれがトウジさんの娘さん」という声が聞こえて来た

隣を歩くお父さんを見上げると、心なしかいつもよりもきりっとした表情をしている


なるほど、お父さんのせいか


私に何か変なところがあった訳じゃないことが分かって、少し強張っていた肩の力が抜ける


そのまま練習場に行くと、より多くの視線が私に集まるようになる。さすがに居心地が悪いな

そう思っていると、お父さんが誰かの名前を呼んだ

すると、練習場にいる人たちの中から、1人こっちに向かって走って来た

背が高くて、肩幅も凄い男の人。お父さんよりも大きくて、威圧感がある。私よりは全然年上そうだけど、お父さんよりは年下に見える


「お疲れ様です、トウジさん」

「ああ、ケイ。ごめんな、練習中に。昨日軽く話したが、こいつが俺の娘のリサだ」


お父さんに紹介されて、一応頭を下げてみる。すると、ケイさんは人の良さそうな笑みを浮かべて、お辞儀を返してくれた。見た目とかで少し怖そうとか思っていたけど、そんなことなさそうで少し安心する


「リサ、こいつは俺の部下のケイだ。今日の手合わせの相手だ」


この人と...


強そうだけど、私に相手が務まるのかな。その大きさからか、お父さんよりも強そうに見える


「よ、よろしくお願いします」


まあでもここまで来て、一回も戦わずに帰る訳にもいかないし、胸を借りるつもりで頑張ろう


「こちらこそ、よろしくお願いします」


挨拶を交わすと、剣を持って、向かい合った

準備運動はすでに家で済ませてあったから、すぐに打ち合いに入る


お父さん以外の人と初めて打ち合う

やっぱり緊張感が全然違う

お父さんは、やっぱりお父さんだから、そこまで緊張とかしないけど、それ以外の大きな男の人を目の前にすると、命のやり取りをするわけではないとはいえ、本能なのか、命の危機みたいなものを感じて、体がすくむ


すーっと息を吸い込む

いつもやってるみたいに

そうすると、スイッチが入って、いくらか体の強張りがマシになる


それが相手にも伝わったのか、ケイさんの口角が少し上がって、そして私に向かって進み始めた

その動きは早いけど、お父さんほどじゃない

いつもよりも少しだけ余裕をもって、その剣をいなす

まともに受けると吹き飛んじゃうことは、お父さんとの打ち合いから学んでいた


何回か攻撃をいなすと、少しだけ隙が出来た気がした

そこに攻撃をしてみる。だけど、その攻撃は軽く躱されてしまった

たぶんだけど、私は防御に比べて、攻撃するのがあんまり得意じゃない

躱していなして、何とか負けない。そんな状態でしばらく持ちこたえる。だけど、なかなか攻撃に移れない。偶に攻撃してみても、簡単そうに防がれてしまう

そして段々追い詰められていって、責められっぱなしの私は先に限界が来る

疲れてきて余裕がなくなったところをつかれて、一本取られてしまった


「そこまで」


お父さんの声が響く


深い集中の中にいた私の意識が、お父さんの声で戻って来る

また目の前に集中しすぎちゃってたな

そんな反省をしながら辺りを見渡すと、私たちが打ち合いを始めるまでは黙々と剣を振っていた人たちまでが私たちの打ち合いを見ていることに気が付いた


そのことに驚いて、体が強張る

こんなにたくさんの大人にまじまじと見られるのは初めてのことで、どうすればいいのかわからない

そんな私に苦笑しながら、ケイさんがこっちにやって来る

その顔は、打ち合いを始める前よりも親し気に見えた

ケイさんに手を差し出されたから、それを握る


「素晴らしかったです。さすがはトウジさんの娘さんですね。ここまで持ちこたえられるとは思いませんでした」


すると、私たちを見ていた兵士の人たちから、ぱらぱらと拍手が送られてきた

学校では見たことのない反応に、戸惑ってしまう

お父さんの方を見てみると、お父さんは得意気な顔をしていた

それを見て、どうやら私は褒められているらしいということをだんだん理解する


「ありがとうございます」


私がようやくそう返すと、ケイさんは満足そうな顔をして、お父さんのところに向かって行った

それをぼんやり見送る


私、もしかして強いのかな

自衛団の人たちの反応を見て、何となくそう思う

ケイさんは、そこら辺にいる兵士の人たちよりも強そうに見える

負けちゃったけど、お父さんと打ち合う時よりは攻撃を受けることが出来たような気がする


私がうぬぼれている可能性も結構高いけど、少し自信が付いた

そして、そんな私を見ても、変な人を見るような目で私を見る人は一人もいない

この環境は、私にとって居心地のいい場所になりそうだった


この日から私は、定期的に自衛団の練習に加わることになる

この日、家と山以外に私の場所が出来た

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