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カナとリサ  作者: レン
2/10

2話 私とカナの出会い

私はコウヨウ街という、人口約3千人のそれなりに大きな街で生まれた

お父さんは元冒険者で、今は街の自衛団で働いていて、お母さんは主婦をしながら機織の仕事をしている。割とどこにでもいる平凡な家庭に生まれた


お父さんもお母さんも優しくて、社交的で、ちゃんと仕事もしていて、そんな普通の両親から生まれた私は、あまり普通とは言えない子どものように思う


小さい時から、人見知りで、あまり人と関わることが好きじゃなかった。学校にいる間、図書室で1人で本を読んでいることが多かった。放課後に誰かと遊ぶこともほとんどなかった。家でお母さんのお手伝いをしていた方が楽しかったから


でも、そんな私でも、昔はクラスに偶には話すような人が数人はいた。昔からここまで周りから浮いていた訳ではなかった


私が他の子たちと違う道を歩むことになったきっかけは、お父さんが剣を振っているところを始めて見たときからだと思ってる


力強く、素早く、でも川の流れのように流麗なその姿を見て、私はその剣に憧れた

その日から私は、お父さんの自主練を毎日見に行くようになって、お父さんの真似をするようになって、気が付いたらお父さんに教わるようになっていた

最初は上手く振れなかった剣が段々上手く振れるようになって、段々剣を振るのに使う力が少なくなっていって、長い時間振れるようになって、段々お父さんの姿に近づけているような気がして、そんな成長を感じられることが楽しかった


こんなにも楽しいと思える、のめり込めるものに出会えたのはこれが初めてで、毎日暗くなるまで家の庭で、1人で剣を振っていた


そんなある日、どこから聞きつけたのか、クラスの男の子に、剣の勝負をしようと持ちかけられた。誰にも話してなかったけど、私の家の庭は、外からでも見えるから、私が毎日剣を振ってるのを誰かに見られてもおかしくなかった。きっとそれを見た誰かがこの人に話したのだろう

クラスのガキ大将みたいな、自信家で傲慢で、私が嫌いなタイプの、一回も話したことのない男の子だった

その子の周りには取り巻きが3人いて、ニヤニヤしながら私のことを見ていた。純粋に勝負をしたいと思ってる風ではなかった


私は最初断った。誰かの見世物になるのはごめんだったから。だけど、断って、背を向けて歩き出した私に、その男の子は怒って、剣で襲い掛かって来た

私は慌てて、それを躱した。大雑把で、力任せな剣。躱すのは訳なかった。お父さんの剣とは全然違う

私に躱されたのが気に食わないのか、その子の攻撃はさらに激しさを増した。だんだんと私の方も余裕がなくなっていく。説得しようにも、私は話すのが苦手だし、もうこれはどうしようもない。木剣とはいえ、この勢いで当てられたらただじゃすまない。そう思った私は、躱しながら壁に立てかけてあった木剣を手に取って、その子の意識を刈り取った


それからだ。周りの人たちの私を見る目が変わったのは

今までは、限りなく空気に近い存在だったと思うけど、明らかに避けられるようになった


皆が私のことをどう思うようになったのかはよくわからない。直接悪口を言われたりすることはなかったから。でも、良くない印象を持たれるようになったのだけは確かだった


それからは、今まで以上に1人でいることが増えて、読書と剣を振っている時間が今まで以上に増えた。学校の中では本を読んで過ごし、学校が終わると山に籠って、誰にも見られない場所で、ずっと剣を振っていた


そんな日々の中で、私はカナに会った


あの日、私はいつもの様に剣を振っていた

今とは違って、全神経を剣を振ることに、体の動きの一つ一つに集中させていた。あの頃はそうしないと、ちゃんと剣を振ることができなかったから

たぶん1時間くらい剣を振って一息ついたとき、不意に近くから拍手が聞こえた


反射的にそっちに振り向くと、カナが座っていた。同じ学校に通っている女の子。学校で見たことはあったけど、クラスは違うし、特に接点はなかったから、一回も話したことがない。でも、学校では結構有名と言うか、目立つ人だから、存在は知っていた


青い髪の毛を肩のあたりで切りそろえていて、目も青い。よく笑うしよくしゃべるし、勉強も運動もできる。そんな訳だから、学校で人気がある女の子。そんな印象だった。話に聞いただけだから、実際に運動と勉強が出来るのかは知らないけど、社交的でよく笑う子だというのは、時々すれ違ったりするときに感じていた


そんな私とは真逆と言っていい存在の彼女が私に拍手を送っている

この状況は何なのだろうと困惑してしまう


「リサちゃんって剣上手なんだね」


キラキラした目をしたカナがそう言う。その目を見れば揶揄われた訳じゃないことは分かる。でも、だからこそ困惑してしまう

お父さんとお母さん以外に、私の剣を褒めてくれる人がいるなんて思わなかったから


「...ありがとう」


困惑しながらも、何とかそう返す


「こんなところで何してるの?」


ここは今まで私以外の人が通りかかったことはないと思う。こんな何もない山の中に、用がある人なんてそうそういない。集中していて気が付かなかっただけかもしれないけど

だからどうして、こんなところにカナがいるのか不思議だった


私が聞くと、カナは恥ずかしそうに視線を逸らして、それから口を開いた


「山菜を探しに来たんだけどね、迷っちゃって。探しても探しても全然見つからないし」


そりゃあ見つからないだろう。ここは地盤が固くて日があまり当たらないからか、木以外の植物はほとんど生えていない。だからここには誰も来ないし、私はここで練習をしていた


「それでふらふらしてたら、リサちゃんを見つけたんだ」


にこっと笑いながらカナが言う

何でそんなに嬉しそうなんだろう。それにリサちゃんって....まあいいけど

とにかく私は、ここら辺では山菜が取れないことを伝えた


「そうだったんだ。ねえ、リサちゃん、それじゃあ、私に山菜が取れる場所教えてくれない?」


何で私がそんなことを。断ろう。すぐにそう思った

カナが何をした訳でもないけど、これ以上カナと一緒にいたくなかった。早く1人になりたかった

伝えようとカナの顔を見ると、その顔はキラキラと輝いていた。全く私が断るなんて思ってなさそうな顔。思わずため息が出る


「...わかった」

「ありがとう!」


渋々了承した私に、リサが本当に嬉しそうにお礼を言ってくる。こんな風に感謝されるのも久しぶりのことで、頬がむず痒い


2人で並んで歩き出す。この山の中を誰かと一緒に歩くのは初めてのことだった。いつもなら、私以外に誰の気配も感じないことに安心して、木々の間をすり抜けてくる風や、揺れ動く草花に癒されたりするんだけど、今日は何だか落ち着かない


「いつから剣やってるの?」

「えっと、5歳から」


そんな風にそわそわしながら歩いていると、カナが話しかけてきた。突然のことだったから、少し返事が遅れる。でもカナにそれを気にした様子はない


「お父さんが元冒険者だったから、教えて貰ったんだ」

「そんなに小さい時からやってるんだ。毎日あんなに激しい練習してるの?」

「うん、だいたい毎日やってるよ」

「そうなんだ、凄いね。私には絶対にできないよ」


確かに、この練習をするためには、結構体力がいる。昔は10分もできなかったし、今も2時間もできない。お父さんは放っておいたら、いつまででもこれをやってるのに。私もまだまだ修行が足りない


きっと、カナだけじゃなくて、同級生にこれを出来る人は誰もいないと思う。それくらい、今の私の体力は誰にも負けない自信があった


暫く歩いていると、山菜がちらほらと見え始めた

カナとの会話が一旦中断されて、山菜を取り始める

そのことに少しほっとする


「あ、ここにシセの実がある。こっちにはタノだ」


山菜がある場所に着けば、カナは次々と山菜を見つけ出した

どこにあるのかは知らなかったみたいだけど、どれが食べられる山菜なのかとか、そういう知識はあるみたいだった。そういう知識は私より多い。私も少しは知っているけど、私が読む本はほとんどが小説で、実用的な本はあまり読まないから、知識はそこまで多くない

勉強が出来るという噂は本当だったのかもしれない。山で迷っていたときは、少しそのことを疑っていたけど、今はそう思う


気が付いたら、カナが持ってきていたかごはいっぱいになっていた

取り始めて2時間くらい経っていた


「そろそろ帰ろうか」


そのかごを見ながら、私はそう言った

もうすぐ午後の5時だ。暗くなったら、さすがにちょっと山の中は危ないから、早めに帰った方がいい。私1人なら何とかなるけど、カナを守れるかはわからないから


「うん、そうだね。リサのおかげでかごいっぱいに取れたよ。ありがとう」

「...うん」


また、私の目を真っすぐに見て、笑顔でお礼を言うカナ。2回目だけど、やっぱりこれに慣れることができなくて、恥ずかしくなる。目をさっと逸らして、先に山を下り始めた

走って隣に並んできたカナが不思議そうな顔をしていたけど、気づかないふりをした


そうやって10分くらい歩いていると、あともうちょっとで街に出るところまで進んでいた。ここで私は立ち止まると、私より少し前に出たカナが振り返る


「どうしたの?」

「先に行ってて、私はしばらくしてから森を出るから」


私がそう言うと、カナはよくわからないという風な顔をした


「どうして?」

「私と一緒にいるところ、誰かに見られない方がいいと思うから」


私がそう言うと、カナは納得したような顔をした


「ああ、でも私は気にしないよ」


理由は理解しているけど、でもその上で本当に気にしていなさそうだった

それでも


「私が気にするから、先に行って」

「...わかった」


一瞬、カナが寂しそうな顔をしたような気がした。私の気のせいかもしれないけど


「今日は案内してくれてありがとう」

「うん」

「じゃあね!」


カナは手を振ると、振り返って山を下りていった

私は、カナが見えなくなるまでそれを見送った。ちゃんと帰れるかどうかが心配だったから

カナはそんな私の方を何回も振り返って手を振るものだから、見えなくなるまで結構時間がかかった。私もしょうがないから、カナが手を振るたびに手を振り返していた


やっと見えなくなったと思ったら、肩の力が抜けていくのを感じた

人とこんなに長い時間一緒にいるのは凄く久しぶりだったし、無意識に緊張していたのだと思う


あと10分くらいしたら、私も家に帰ろう

そう思いながら、すっと息を吸って、伸びをする

緊張で少し凝っていた体をほぐしながら、10分経つのを待つ


いつも通りの、安心感を与えてくれる山が戻って来る

静かで、風が気持ち良い。でもここら辺は、いつも剣を振っている場所と違って、微かに街の喧騒も聞こえる。それなのに、今はいつもの場所にいるときよりも静かに感じた。さっきまでカナが騒がしかったせいだろうか


そんな思わぬ形で、さっきまでカナが一緒にいたところを実感しながら、あんな風にカナと一緒にすごすことは今後一生ないのだろうと、この時はそう思っていた

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