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パ、パパのミルク……?

作者: 雉白書屋

 荒野にある小さな町。そこに一軒しかない小さな酒場。

 扉が開けられた瞬間、店内にいる者たちの視線が一斉にその男に注がれた。

 この町の住民は余所者の匂いに敏感だ。

 血を好むコヨーテとハゲタカの集まり。

粘っこいその視線が言う。アイツは葱を背負った鴨か。飛んで火に入る夏の虫か。

 しかし、男は意に介さずブーツにつけた拍車を鳴らし、カウンター席に腰を下ろした。

 そしてただ一言。渋みのある声で言う。


「……ミルクを頼む」


 ガタッと席から立ち上がるのは二人の男。その風体そのままのチンピラコンビ。

ニヤついたその顔はとくに鼻が赤い。

まだ昼間だというのに相当出来上がっているようだ。

 彼らは捲し立てるように言った。


「おいおいミルクだってぇ?」

「はははは! ここは酒場だぜあんちゃん!」


「それも偉大なるバグズ様が支配するなぁ!」

「おうともよ! 賞金稼ぎも保安官も逆らう奴は全員始末されたぜぇ!」


「お前さんもどういうつもりかは知らねえが

怪我しない内に、うちに帰ってマ、パパのミルクでも飲んでなぁ!」

「ひゃはは、そう、え、パパの!?」


 ほんの僅かなステップの踏み間違えでダンスが台無しに

デートも良い雰囲気だった男女二人の関係も終わることがある。

 たった今、なぜか急に『ママ』という言葉を口にするのを躊躇ったチンピラの一人。

その理由は、いい大人になりなさい、恥じない生き方をしなさいという

母の言葉に背く生き方をしてきたせいか。

単純に『ママ』という響きが恥ずかしかったのか何にせよ急に『パパ』と言い換えた。

しかし、そのせいで思ったよりえげつない台詞になったことに

チンピラも、仲間たちも戸惑った。

 恐らく、その場面を想像したのだろう。


 だが、それを想像したのはその男も同じだった。

 

 ……パパのミルク。

 つまり、それは……俺が親父のアレをしゃぶり、それをそのまま――


「オ、オエエエェェェ!」


「吐いたぞコイツ! お、お前、あれは言いすぎだぞ!」


「い、いや、俺はそんなつもりじゃ、だ、大丈夫かお前」



「はぁ、はぁ、はぁ、やるな、アンタ……だが俺はここで死ぬわけにはいかないんだ。

故郷で妹と、それに恋人が待ってい――」


「いや! それ、ここで言う台詞じゃないだろう! ボスの前で言えよ!」


「俺がどうしたってぇ?」


「ボ、ボスゥ! どうしてここに!」


「余所者が来たって聞いてなぁ。伝説の賞金稼ぎ『ウルフ』

いよいよ、この俺の首を取りにきたってわけだな。

いいぜ、表へ出な。お前の親父と同じところへ送ってやるよ」


「俺の……親父……?」


「おっと、口を滑らしちまったなぁ。昔の話だ。時効にしてくれよ?

俺がお前の親父を墓に送ってや――」


「オエエエエェェェェ!」


「また吐いた!」


「な、こ、こいつどうしたんだ!」


「そ、それはその」

「相棒がミルクの話を!」


「ミルク? おい、そこのそれ、腐ってたのか?

おいおい俺の店の名に傷がつくじゃねえか!」


「ちが、違うんですボス! 俺はただこいつに」


「ゲホッゴホッ! ……黙ってな。ここは戦場で敵地だ。

なに入れられようと卑怯だなんて言わないさ」


「いや、俺が毒を盛ったみたいに……」


「ほほう、見上げた根性だ。母親似かな?

お前の母親も良い女だったぜ、たっぷりと可愛がったあと、埋めてやったがなぁ」


「俺の、母親……」


「お、母親はセーフかな……?」


「みっともなく泣いた、お前の親父とは大違いでなぁ!」


「オエエエエエェェェェェ!」


「駄目だ! また吐いた!」


「なんだってんだこいつ! 俺の店を汚しやがって!

おい、お前! どんな毒を入れたんだ!」


「だから俺は何も! おい、おら立て! 一回うち来て休め!

それで明日、ボスと決闘だ!」


「……い、今から、や、やろう。お、俺の、銃が、火を噴く、ぜ」


「その様で、よく言えたなお前」


「……銃……発射……ペニス、う、オエエエエアアアァァァ!」


「いろいろ悪化してんじゃねえか!」




 こうして、伝説の賞金稼ぎウルフはチンピラの家に泊まることになった。

 ウルフは体を休め、無事回復したが

町の悪党たちはウルフが持ち込んだノロウィルスによってほぼ全壊。

呆気なくお縄につきましたとさ。

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