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9 義母や義姉がついた嘘


 義母や義姉が私のことをどのようにルイ様に伝えていたかを聞き、少し呆れてしまっている私。


 どうして全面的に義母達の言葉を信じてしまったの? という怒りもあるけれど、どこか納得してしまっている自分もいる。




 無理もないわね。

 私はルイ様の前では無駄に宝石をつけまくっていた派手好きな夫人だったんだもの。


 散財していると聞いても疑わなかったでしょうし、何より仲睦まじい家族とよく知りもしない私とでは信頼感も違うし……。


 まぁ、実際に私用のお金を使っていたのはお義姉様ですけどね!?

 私は何も買ったことないわ。

 あのたくさんの宝石だって、お義姉様のお古だし!


 宝石に興味のないルイ様は、私がつけているアクセサリーがいつも同じだったことには気がついていないと思うけど。




 少し恨めがましい目でルイ様を見ると、綺麗なエメラルドグリーンの瞳と目が合った。



「本当に大丈夫か? 熱が出たんじゃ……」


「だ、大丈夫です! それより、その話を聞いてルイ様は直接リリー様を問いつめたりしなかったのですか? そういうことはやめろ! って」




 もし直接言われていたら、そこで誤解が解けたかもしれなかったのに。




 何度か話しかけようとしたけれど、ルイ様はいつも私を避けていた。

 ここ最近では挨拶することも諦めていたけれど、結婚当初はまだルイ様と少しでも仲良くしたいと思っていたのだ。



「本人に直接言ったことはない」


「それはなぜですか?」


「母と姉に、自分達がどうにかするから俺は近づかないようにと言われていたんだ」


「…………」




 それって、自分達の嘘がバレないように私達を会わせないようにしてたってことよね……。

 



 ルイ様は私の作ったクッションを気に入っているらしく、疲れたような顔をしてそこにモフッと座った。

 そして、前のめりになって手と手をちょんとくっつけている。


 どう見ても白いモフモフの小動物なのに、なぜか一瞬両膝に手を置き指を組んでいる貴族男性のように見えてしまった。



「それからもう一つ理由があるんだ」


「もう一つ?」


「……これはリアにも警戒してもらうために伝えるが、実は……リリーは毒物を持っているらしい」


「毒物!?」




 何それ!?

 私が毒物を持っているだなんて、どういうこと!?




 驚く私に気を使っているのか、ルイ様はゆっくりと順番に説明してくれた。

 


「姉がたまたまリリーの部屋で見つけたんだ。部屋にある何かを持ってこいと命令された時に、偶然見つけたと言っていた」




 えええ!?

 私の部屋に毒物なんてないわ!

 というかサラッと言ってるけど、ルイ様の中では私はマーサ様に命令してるような女なの!?




 

 すぐに否定したいけれど、今の私は『リリー』ではなく『リア』だ。

 違います! と叫びたいのを我慢して、ルイ様の話の続きを聞いた。



「姉が言うには、それは俺に使おうとしているものだと」


「リリー様がルイ様の毒殺を考えていると……?」


「ああ。リリーは普段から俺のことを『任務中に何か起こってしまえばいいのに』とか『旦那がいなくなったらこの家の実権は私のもの』とか言っているそうだ。これは母や姉からだけでなく、他の使用人からも聞いている」


「なっ……!?」

 

「だから俺はリリーには近づかないようにしているんだ。どんな方法で毒を盛ってくるかわからないからな」


「…………」



 真面目に話すルイ様を、呆然としながら見つめる私。




 私がルイ様を毒殺しようとしている?

 私がこの家の実権を握ろうとしている?

 それを義母や義姉だけでなく、使用人も証言している?


 ……なんなのよ、それ。


 


 あまりのショックでガクッと力なく項垂れた私を見て、ルイ様は明るくフォローを入れてきた。



「近づかなければ大丈夫だ。料理中はリリーが調理場に入れないようにしているらしいし、見つけた毒も処分済みだ。万が一他にもあることを考えて警戒だけはしておいたほうがいいけどな」


「……そうですか」



 

 ルイ様が私を避けていた理由が、まさか殺されないように──だったなんて。




 これまでのルイ様の態度を思い返し、ガックリと脱力してしまう。


 なんでそんな嘘みたいな話を信じてしまったの……と恨めしく思うけれど、もし自分が同じ立場だったらルイ様と同じような行動をしていたと思う。


 自分の信用している父や母に、『あの男は危険だから気をつけなさい』と言われたら、実際に何かしているところを見ていなくても信じるだろう。

 そして、言われた通りに警戒して避けてしまっていたはずだ。




 ルイ様がお義母様達を信じて私を避けていたのは理解できる……できるけど、まさか自分がルイ様の命を狙っていると思われていたなんて──。



「リア? どうした?」


「あっ……なんでもないです! それは怖くて近づけないですよね」


「ああ。最初にその話を聞いた時はさすがに離婚を考えたが、母達がリリーを庇ってな。ちゃんと見張っているから離婚はしないであげてくれって。優しすぎて心配にもなるが、頼りになる家族だ」


「…………」




 優しすぎる?

 無実の私を殺人鬼扱いしていたのに?




「そういえば、昨日2人はこの姿の俺を見てものすごく大声で叫んでいたな。あんなに大きな声を出せるのかと驚いたよ。いつも静かに落ち着いて話す人達だから」


「…………」




 ルイ様がいない間は、いつも金切り声で私を罵倒してきますわ。


 でも、そっか。

 お2人はルイ様に気づいていないから、彼の前で本性を出してしまう可能性があるんだわ。




 優雅で聡明だと思っている義母や義姉の本性を目の当たりにしたら、ルイ様はどう思うのかしら──それを想像すると、少し胸がざわつくのだった。

 

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