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書籍発売記念SS リリーの手料理


 服の袖をまくり、汚れていない清潔なエプロンをつけた私は、調理場に立って気合いを入れた。



「よし! 朝ご飯を作りましょう!」



 つい先ほど、義母やマーサ様、そして使用人全員がこのお屋敷から出て行った。

 今ここに残っているのは、私とルイ様とコリン卿の3人だけだ。




 コリン卿が新しい使用人を見つけてきてくれたけど、みんな来てくれるのはお昼頃って言っていたし、朝ご飯は私が作らないとね!




 元貧乏男爵家の娘だった私は、一応料理も一通りできる。

 ドロール公爵家にある高級食材をうまく使えるかは自信がないけど、なんとか口にできるものは作れるはずだ。



「とはいえ、ルイ様のお口に合うかしら……?」



 昨日まで小動物だったルイ様。

 私と一緒に固くなったパンや冷めた具なしスープばかり飲んでいたため、なんでも美味しく思ってもらえる可能性は高い。




 とりあえず作ってみるしかないわね。

 もしまずいって言われたら、コリン卿にお願いしましょう!

 騎士の方は遠征などに行くから自分で料理ができる……って聞いたことがあるわ。




 私にまともな食事を摂らせたくないからか、この家に来てから調理場の手伝いはしたことがない。

 久々の料理に不安になりながらも、私はなんとか貴族家に相応しいと思われる朝食を作り上げた。







「ルイ様。お疲れ様でした。朝食の準備ができていますので、どうぞ」



 屋敷に戻ってきたルイ様を出迎えながら、そう伝える。

 最後の1人までしっかりとこの家から出て行ったことを確認してきたようで、ルイ様はやけにスッキリとした顔をしていた。



「ああ。ありがとう」



 私がルイ様を出迎えている間、コリン卿が料理をテーブルに並べてくれている。

 部屋に入ると、温かなスープのいい香りが漂ってきた。



「あっ。ちょうど今、準備ができたところですよ」


「ありがとう、コリン卿」



 コリン卿にお礼を伝え、ルイ様に続いて私たちも席に着く。




 だ、大丈夫かしら?




 味が心配で、私はスープを口に運んでいるルイ様をジッと見つめた。

 私と同じくルイ様の反応が気になるのか、コリン卿もスプーンを握りしめたままルイ様の様子を興味深そうに見ている。


 そんな私たちの視線に気づいていないルイ様は、ゴクッと一口飲み込むなり目を丸くした。



「……うまい」


「本当ですか!?」




 よかった!!!




 そうホッとした瞬間、次に続いたルイ様の言葉に今度は私が目を丸くしてしまった。



「料理の腕を上げたな、コリン。前まであんなに下手だったのに」


「え?」




 ……待って。もしかして、ルイ様……これを作ったのがコリン卿だって勘違いしてる?




 突然名前を呼ばれたコリン卿は、口元にまで運んでいたスープを飲む手を止め、呆れた視線をルイ様に向けた。



「何言ってるんですか、団長。この料理を作ったのはリリー様ですよ?」


「えっ? リリーが!?」


「そうですよ。それに、料理が下手だなんて団長だけには言われたくないんですけど! 団長、騎士団で1番料理が下手だったじゃないですか!」


「うるさい。お前も似たようなものだろ!」


「団長に比べたら俺のが全然うまいですよ!」



 ギャーギャーと言い合っている2人をポカンとした顔で見守っていると、ルイ様が急にこちらを振り返った。



「それで、この料理を作ったのは本当にリリーなのか?」


「は、はい」



 ルイ様は驚いた様子で目の前に並んだ料理と私を交互に見つめた。

 まだどこか疑っているような顔だ。




 そんなに意外だったのかしら?

 



「こんな料理を作れるなんて、リリーはすごいな。今までにも作ったことがあるのか?」


「はい。実家ではほぼ毎日私が料理をしておりましたので」


「そうか……。この家に来てから作ったことは?」


「これが初めてです」


「初めて……」


「?」



 なぜか料理をジッと見つめていたルイ様が、顔を上げてコリン卿を見た。

 話が終わって再度スープを飲もうとしていたところだったコリン卿は、その鋭い視線にピタッと動きを止める。



「な、なんですか? 団長……」


「コリン。お前は食べるな」


「はい!? なんでですか!? 俺もお腹すいてるんですけど!」


「リリーの初めての手料理は俺だけで食べる」


「ええっ!?」



 さも当然の主張かのように堂々と言い放つルイ様に、唖然としてしまう私たち。




 私の手料理って……!

 そんな大したことない料理なのに!




 かああーーっと自分の顔が赤くなるのを感じながら、慌てて会話に入る。



「あの! このくらいであれば、またいつでも作りますので……」


「それでも〝リリーの初めての手料理〟は今日のこの料理だけだ。なんでコリンと一緒にそれを食べなきゃいけないんだ」


「団長ひどい! 俺だってがんばったんですから、ちょっとくらいいいじゃないですか!」


「お前には俺が作ってやる」


「全然嬉しくないんですけど!?」



 ルイ様の料理が余程嫌なのか、コリン卿は青い顔で全面拒否した。

 そこまで嫌がるなんてどんな料理なのかと、ちょっと気になってしまう。




 騎士団長なのに、騎士団で1番料理が下手だなんて……!




 クールでかっこいいルイ様の、意外な一面。

 



 コリン卿はハッキリと自分の意見を言えるけど、言えない部下の方々はさぞ大変だったでしょうね。

 



 真顔で一生懸命作っているルイ様と、その料理をがんばって食べる部下の方々。

 そんな微笑ましい光景を想像するとつい口元が緩んでしまう。



「ふふっ」



 ルイ様とコリン卿は、まだお互い譲らずに言い争っている。

 そんな2人にバレないよう、私は手で口元を隠しながらこっそりと肩を震わせた。



お読みいただきありがとうございます!


こちらの作品、本日12月28日に書籍が発売されました。


挿絵(By みてみん)


レーベル 一迅社ノベルス

イラスト 眠介さん


その後の話などweb版より4万字加筆修正しております。

ルイ以外に魔女の呪いにかかった新キャラも登場します!

挿絵やカラー絵がどれも本当に素敵なので、ぜひぜひそちらも見ていただきたいです。


よろしくお願いいたします✩︎⡱


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