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29 義母と義姉を家から追い出すための作戦


 義母とマーサ様に言いたいことがたくさんある──そう言ったルイ様は、やたら爽やかな顔で私を見つめてきた。


 整った綺麗な顔立ちにエメラルドグリーンの輝く瞳。

 こんなにも近くでルイ様の顔を見たのは初めてだ。




 ……女性に人気で婚約のお話が後を絶たなかったって聞いていたけれど、納得だわ。




 そんなことを頭の片隅で考えてしまうくらいには、ルイ様に見惚れてしまっていたのかもしれない。

 彼に何も返事をしていなかったことで、再度名前を呼ばれてしまった。



「リリー? どうした?」


「あっ……いえ。あの、このままお屋敷に戻りますか?」


「そうだな。早く母や姉に色々と問い詰めたい……が、いや。待てよ」


「?」



 ルイ様は爽やかな顔から一転、急に眉をひそめて険しい顔になった。



「俺がリリーへの虐待について問い詰めたとして、あの2人がすぐに認めるか……?」



 うーーんと悩むルイ様を見て、つい吹き出しそうになってしまった。




 まあ。ルイ様ってば。

 もうすっかりあの2人のことを信用していないのね。




 ほんの数日前までは聡明で優しいと思っていたはずの母と姉。

 それがたった一度本性を見ただけで、ここまで信用をなくしてしまうなんて。



「すぐには認めない可能性が高いですね。でも呪いで小動物になっていたことを伝えて、それで色々と目撃したことを打ち明ければ認めざるを得ないのでは?」


「それなんだが、もし話せなかったらどうする?」


「え?」


「俺の呪いは解けたが、呪いについて話せないあの現象はまだ続いているとしたら?」


「…………」



 真剣な表情のルイ様としばらく見つめ合う。

 私の頭の中には、呪いのことを話そうとすると変な言語に変わってしまった場面が浮かんでいた。




 そういえばそうだわ。

 私自身は呪いにかかっていなかったのに、その件は話せなかった。

 つまり呪いが解けたルイ様でも話せない可能性があるんだわ……。




「誰も魔女の呪いが人を動物に変えることだと知らなかった。ずっとただの行方不明だと言われていた。それは、やはりこの件を人に話せないからかもしれない」


「言われてみればそうですね……」



 ルイ様の頭の回転の速さに驚いていると、ルイ様のうしろからコリン卿がゆっくりと手を挙げて会話に入ってきた。



「あの……呪いとか虐待とか、一体なんの話ですか? さっきの魔女はなんだったんですか?」


「あ」



 思わずルイ様と声が揃ってしまった。

 ハッキリとは口に出さないけれど、2人ともコリン卿の存在をすっかり忘れていたのだ。




 そういえば、呪いが解けてすぐに魔女が出てきたからコリン卿には何も説明していない状態のままだったわ。




 突然魔女が現れて、きっと私以上に驚いたことだろう。



「コリン。今から魔女の呪いや俺の家のことについて全て話す。だから少し協力してくれ」


「協力? 何をするんですか?」


「いいから言うことを聞け」


「ええぇ……!?」




 お願いしているようで命令しているルイ様を、コリン卿は呆れた目で見ながらもすぐに「わかりましたよ」と承諾していた。

 なんだかんだと信頼関係のありそうなその様子が微笑ましく感じる。




 呪いのことだけじゃなくてご自分の家族のことまで話すなんて……態度は少し悪いけど、コリン卿を信頼しているのね。




 ルイ様は床に座っていた状態から私の隣に座り、コリン卿と向かい合った。

 そして、自分が魔女の呪いで姿を変えられていたこと、自分の正体に気づいた者としか話せなかったこと、そして私がこの家でどんな扱いを受けていたか……を淡々と話し始めた。


 はじめは話についていくのに必死だったコリン卿も、話が終わる頃には眉間にシワを寄せて険しい顔になっていた。



「なんですか、それ……。リリー様がそんな扱いを受けていたなんて、許せないですね……」


「俺はこの件で母や姉を問い詰めようと思っている。コリン。証人として一緒に来てくれ」


「わかりました!」



 コリン卿はキッとルイ様に強い視線を向けたあと、私を見ながら笑顔でコクッと頷いた。

 まるで『任せてください』とでも言われているようだ。



「じゃあ、今から3人で団長の家に行きますか?」


「いや。今俺が行って問い詰めたとしても、あの2人はすぐにはそれを認めないだろう。だから決定的な瞬間を狙いたい」


「決定的な瞬間?」


「ああ。言い逃れができないような、そんな決定的な瞬間を」



 ルイ様の考えを聞いてコリン卿が首を傾げる。



「別に認めなくても団長が『もう次からそんなことするなよ!』って言えばいいんじゃないんですか?」


「それじゃダメだ。あの2人は家から追い出す」


「ええっ!?」

 


 私とコリン卿の声が重なった。

 予想外の答えに思わず口をポカンと開けてしまう。




 家から追い出す!?

 お義母様とマーサ様を!?



 

「お義母様達を追い出してどこに行かせるのですか?」


「うちの持っている領地の1つに、ここから5日ほどかかる場所がある。そこにある別邸に行かせる。……ここよりもだいぶ寒く不便な地域だが」


「家族を追い出すって、何もそこまで。団長がしっかり注意してやめさせればいいんじゃ……?」


「コリン」


「はっ、はい!?」



 鋭い目でギロッと睨みつけられて、コリン卿がビクーーッと肩を震わせた。



「俺は仕事で数日間家を空けることが多いんだ。そんな時にリリーが何かされたらどうする?」


「あ……」


「今回のように男を呼ばれる可能性もあるし、もうあの2人とリリーを同じ家に住まわせることはできない」



 キッパリと言い切るルイ様に驚いて、私は黙ったまま彼を見つめた。



 

 ……ルイ様ってば、もう完全におふたりのことを敵として見ているわ。

 まさか家から追い出すなんて……。




 コリン卿にそう告げたあと、ルイ様は隣にいる私に顔を向けてきた。

 今でもこのルイ様と目が合うだけで心臓がドキッと反応してしまう。



「屋敷にはリリー1人で戻らせよう。俺がいると姉達の本性が見れないからな。俺とコリンはさっきの抜け道からこっそり中に入り、リリーは表玄関から家に戻る。そこで母や姉が本性を出したら俺が出て行く──というのはどうだ?」


「そんなに予定通りに行きますかねぇ?」


「どう思う? リリー」



 コリン卿の質問を無視して、ルイ様が私に尋ねてくる。



「そうですね……。きっとマーサ様はすごく怒っていると思うので、帰ったら私を屋根裏部屋へ連れて行くと思います」


「あの部屋へ?」


「はい。この前は使用人の前でも暴れていましたが、いつもはあそこまでの状態は私の前でしか見せないんです。なので、玄関ホールではなく屋根裏に連れて行かれるかと」


「なるほどな。じゃあ、俺達は屋敷内に入ったらすぐに屋根裏へ向かえばいいんだな」


「はい。見つからずに行けそうですか?」



 心配そうに聞く私に、ルイ様とコリン卿が揃ってニヤリと笑う。

 2人ともやけに得意気な顔だ。



「俺達は騎士団の中でも特に耳がいいんだ。使用人の足音や動いている音を聞いて、見つからないよう動けるから大丈夫だ」


「そうなんですね」




 ふふっ。得意気な様子が子どもみたいでかわいいわ。




 まさか騎士らしいたくましい元の姿に戻ってからも、ルイ様のことをかわいいと思うとは思わなかった。

 もちろん本人には言えないけれど。



「俺が行くまでの間、リリーはまた母や姉から何かひどいことを言われたりされたりするかもしれない。……それでも大丈夫か?」


「はい。もちろんです!」


「できるだけすぐに助けに行くから」


「はい。ありがとうございます」




 ……なんだか変な不安があるけど、ルイ様がいるんだもの。きっと大丈夫よね?


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