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28 これで俺の呪いは解けたんだな?


 どういうこと?

 ルイ様の呪いが解けた? でもなんで?




 混乱している私とルイ様とは違い、驚きながらも軽い様子のコリン卿が声を上げた。



「あっ! 団長! 元に戻ったんですね!」


「元に……なぜ……」



 そうルイ様が呟いた時、辺りが真っ白になった。

 何もない空間なのか霧のようなものなのかわからないけれど、馬車の椅子も窓も何も見えない。なのに私はたしかに何かに座っている。

 なんとも不思議な感覚だ。


 なぜかハッキリと姿が見えるルイ様とコリン卿も、不思議そうに周りをキョロキョロと見回している。



「ルイ様。これは一体……」


「あんな小さい動物でよくやったねぇ〜」


「!?」



 突然聞こえた知らない女の人の声。

 気がつけば私達のすぐ横に、見たこともない黒髪の女性が……浮かんでいた。

 ここが馬車の中だったなら頭をぶつけてしまっているはずなので、ここはやはり異質な場所なのだと頭の片隅で確信する。


 その女性に向かって、ルイ様が叫んだ。



「魔女!!」


「そうさ。元の姿に戻れたヤツは数十年ぶりだ。よかったねぇ〜」




 この人が魔女!?

 な、なんでここに!?




 魔女は長い指でルイ様を指し、ケタケタと楽しそうに笑っている。

 私もコリン卿も怯えた表情で魔女を見つめているけれど、ルイ様だけはキッと魔女を強く睨みつけていた。



「……なぜ俺は元に戻れたんだ?」


「それはアタシの願いを叶えてくれたからさ」


「願い?」


「ああ」



 魔女はルイ様から視線を外し、その隣にいるコリン卿をジッと見つめた。

 ニヤリと笑った顔が恐ろしかったのか、コリン卿が小さく「ひっ」と声を出して体を震わせている。




 どうしてコリン卿を見ているの……?




 魔女はコリン卿を見つめたあと、ペロッと口の周りを舐めるように舌を動かした。やけに舌が長く見えたのは、私の気のせいか。



「ああ、美味しいねぇ〜。若い男っていうのは」


「!?!?」



 魔女の言葉に、私とルイ様が勢いよくコリン卿を振り返る。

 自分の体の一部を食べられたと思ったのか、本人も自分の体をベタベタと触って確かめていた。




 お、美味しいって……一体なんのことを?




 1番それを聞きたいはずのコリン卿は、すでに涙目になって魔女を見上げている。聞きたいけど怖くて聞けない──そんな顔だ。

 それを察してか、ルイ様が威嚇するように目を吊り上げながら魔女に訊ねた。



「どういう意味だ!? コイツに何をした!?」


()()をしたのはアンタだろ? アタシは何もしてないさ。アンタがくれた血を美味しくいただいただけさ」


「俺がやった……血だと?」


「ああ。その男の手に傷をつけたのはアンタだろう?」


「!」




 手に傷って、さっきルイ様が噛み付いた時の?




「それがなぜあなたに血を渡したことになるのですか?」


「リリー!?」



 どうしても気になって会話に入ってしまった。

 見た目こそ不気味で恐ろしいものの、ルイ様との会話を聞いている限りそんなに恐怖は感じなかったからかもしれない。


 突然私が話し出したことで、ルイ様は驚いた顔で私を振り返った。




 ……つい話しかけてしまったけれど、この魔女……すっっっごく睨んでくるわっ!




 魔女はさっきまでの笑顔を消し、ものすごく目を細めて私を睨みつけてきた。

 あきらかに私を好んでいないことがうかがえるその顔を見て、ルイ様がバッと私の前に左腕を広げて立ち上がる。



「リリーには手を出すな」


「ふんっ! まだ何もしていないだろうが。これだから女付きの男は嫌なんだ。男は独身に限るよ」


「…………」


「まぁ、いい。お嬢ちゃんの質問に答えてやろう」




 お嬢ちゃん!?

 私、22歳なのに!




 少しショックを受けた私を嘲笑うかのように、魔女はニヤリと口角を上げて話し出した。



「アタシが欲しかったモノは、若い男の血だ。それも結婚していない、独身の男のな」


「若い男の血?」


「そうさ。あっ! それくらい自分で簡単に手に入るだろって思ったか? それができないのさ。数百年前にかけられた魔術師の呪いのせいでな」




 魔術師の呪い?

 ルイ様に呪いをかけた魔女は、現在魔術師の呪いにかかっているということ?

 …………ん??




 色々と聞き返したいことはあるけれど、魔女が話すのを止めないのでそのまま黙って続きを聞くことにした。



「忌々しいあのグレゴーラがアタシに2つの呪いをかけたのさ。1つはあの森から出られなくさせること。もう1つはアタシ自身で他人を傷つけられなくさせること」



 魔女は自分の長い指を2本立てた。

 爪が異様に長いので、指がとんでもなく長く見えて気味が悪い。




 グレゴーラって、数百年前にいた天才魔術師の名前では……?

 その彼に会ったことがあるって、この魔女は何歳なの!? それに──




「森から出られないって、今出てるだろ」



 

 それです!!!




 私の疑問をルイ様がそのまま聞いてくれたので、思わずうんうん頷いてしまった。コリン卿も同じことを思っていたのか私以上に激しく頷いている。

 魔女は顔を歪めて「チッ」と舌打ちをすると、自分の体を触った。



「これは本体じゃない。呪いをかけたアンタのところに姿だけ見せているだけさ。まぁ、それもアンタが呪いを解いていなかったらできなかったことだけどね」


「俺がコリンの血を与えたってやつか?」


「そうさ。数十年してから気づいたのさ。アタシの呪いにかかったヤツを媒介すれば、血を飲めるってことにね。それに気づいてからは、森に来たヤツらを自由に動かして血を手に入れていたんだが……噂が広まって誰も来なくなっちまった」


「自由に動かして……?」




 ルイ様が少し青ざめた顔で聞き返す。

 もし自分が魔女の意思通りに動かされていたら……と考えて恐ろしくなったのかもしれない。

 魔女はそんなルイ様の反応を見てニヤリと嬉しそうに笑った。



「そうさ。昔は自由に動かせたんだ。だが誰も森に来なくなって血が飲めなくなってからは魔力が落ちちまった。自由に動かせないから姿を変えて遊んでいたのさ。万が一でも血を出させてくれることを願ってね」


「なっ……!?」


「本当は直接言いたかったが、それもグレゴーラの呪いなのか『血をよこせ』と言えなかったのさ。なかなか気づいてもらえなくて長年もどかしくてねぇ」


「…………」


「まさかこんなに若くていい男の血が飲めるとは思ってなかったよ」



 魔女がまたコリン卿に視線を移すと、コリン卿は真っ青な顔でルイ様のうしろに隠れた。

 そんなつもりはなかったとはいえ、魔女に血を差し出してしまったことを申し訳なく思っているのかルイ様はコリン卿に何も言うことなくその身を庇っている。



「……とにかく、これで俺の呪いは解けたんだな?」


「見たらわかるだろ? アンタはアタシの願いを叶えてくれたからね。だが、あれっぽっちじゃまだ全然足りないがね」


「いいからもう用がないなら消えろ」


「ふんっ! これだから女付きの男は嫌なんだよ」



 そう言い捨てるなり、魔女はパッと姿を消した。

 同時に真っ白な煙の中にいるようだった空間も、元の馬車の中に戻っていた。




 いなくなった……。

 本当にこれでルイ様の呪いは解けたの? もう自由になったの?




 呆然としていると、ルイ様が私の手をギュッと握ってきた。



「リリー。すぐに家に戻ろう。母と姉に言いたいことがたくさんあるんだ」


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