23 お風呂!? ここにルイ様がいるのに!?
「まずはお風呂に入っていただきます」
「へ!?」
思ってもみなかった言葉に、変な声が出てしまった。
これからまた義母と義姉との対決が待っていると覚悟したというのに、まさか最初にすることがお風呂だとは。
それはすごくありがたいけど……一体どうして?
聞きたいけれど、きっとグレンダは答えてくれないだろう。
案内された自室の浴室に入り、私は素直に言うことを聞くことにした。
まるでルイ様が帰ってきた時のようね…………ん!?
そこまで考えて、途中まで脱いでいた動作をピタリと止める。
待って。姿が見えないからうっかりしていたわ。
今、ここにルイ様がいるんだった!
私の履いているスカートのポケットの中にはルイ様が入っている。
顔を出さない限り何も見えない状態だとはいえ、これから裸になる場所にルイ様がいるという事実がどうにも容認できない。
ど、どうしましょう!
入口にはグレンダがいて私のことを見張っているし、今ポケットからルイ様を出すことはできないわ。
見つかったら大変だもの。
部屋の中のどこかに隠れるとしても、何かの拍子に私の裸が見えてしまうかも……!
それならばこのままポケットの中にずっと隠れていてほしい。
そう伝えたいけれど、グレンダの視線が痛くて小声だとしても話しかけるのが難しそうだ。
「何やっているんですか? 早く脱いでください」
「あ……えっと、うん。わかったわ……」
私がそっとポケット部分に手を当てると、ルイ様がピクッと少し反応したのがわかった。
ルイ様にもこの会話が聞こえているわよね?
だったら何も言わなくても大丈夫……かな?
信じてます!! ルイ様!!
完全にルイ様頼りになってしまったけれど、もうどうにもできない。
私は覚悟を決めて服を脱いだ。
「急ぎますね。このあとメイクや着替えをしなければいけないので」
「えっ!? またあのメイクをするの?」
「……あれはしません。今回は普通に身だしなみを整えるだけです」
「どうして? なぜ今日はこんなことを……」
「それはまだ言えません」
ビシッと言いきられてしまい、それ以上は何も聞けなくなる。
やっぱり教えてくれないわね。
でもあの派手で変なメイクじゃなさそうで安心したわ。……誰かに会うのかしら?
そんなことを考えながら、チラッと自分の服が置いてある場所を横目で見た。
白銀色の毛が見えないかとソワソワしたけれど、まったく見えない。まだポケットの中にいるのか、すでに抜け出して違うところに行っているのか。
……落ち着かないわ。早く出たい。
グレンダも急いでくれているのが救いだ。
私もいつも以上に早く体や髪を洗い、すぐにお風呂から出た。
「そちらにかかってるバスローブを羽織ったら部屋に来てくださいね」
「わかったわ」
一足先に部屋に戻っていったグレンダを見送り、私はバスローブを羽織ってから自分のスカートを持ち上げた。
感触的に、まだその中にルイ様がいるのがわかる。
ずっとここにいてくださったのね……!
浴室の熱気で熱かったでしょうに。ありがとうございます、ルイ様!
「ルイ様、大丈夫で……」
そう声をかけながらポケットを広げてみると、その中には白銀色のまんまるいボールが入っていた。
もちろんボールではなくルイ様なのだけど、一瞬ボールかと錯覚するほどに丸くなっていたのだ。
ルイ様!?!?
こんなに丸まった状態は見たことがなかったので、慌ててルイ様をポケットから取り出す。
熱すぎて倒れてしまったのかもしれない。
「ルイ様!? 大丈夫ですか!?」
隣の部屋にいるグレンダに聞こえないようにそう声をかけると、丸い物体の中から絞り出されたような声が私の耳に届いた。
「……大丈夫だ」
「な、なぜそんなに丸まって……」
「いや。絶対に見ないようにしなくてはと考えていたら、この状態に……」
「…………」
ええええ!?
なんですか、それ!?
ポケットの中にいたのに、さらに見えないように丸まっていたと!?
可愛すぎませんか!?
またまた胸がギューーッと締めつけられてしまう。
この方は一体何度私の胸に攻撃してくるつもりなのか。
「……もう終わりましたから大丈夫ですよ」
「……まだ着替えは終わっていないだろう?」
「ちゃんとした服はまだですが、バスローブは羽織っていますし大丈夫です」
「…………ちゃんとした服を着たらまた教えてくれ」
ええええ!?
もしかして、私の着替えが全部終わるまでこの格好のままポケットに入っているつもりなの!?
「で、でもこれからメイクしたり色々と時間が……」
「いいから。大丈夫だから」
ルイ様は丸まった状態のままキッパリと言いきった。内側になっている顔がまったく見えないので、今どんな顔をしているのかわからない。
まさかルイ様がここまで気遣ってくださるとは思わなかったわ……。
というか、もしかして照れてるの?
夫婦とはいえ、私達は手すらつないだことがない関係だ。
なので裸を見られるのには抵抗があるけれど、一応夫なのだしバスローブ姿なら大丈夫かな──そう思った私とは違い、ルイ様はそれすら見られないようだ。
ルイ様って意外と純粋なのかしら。
私以上に照れて頑なにこちらを見ようとしないルイ様が愛しくて仕方ない。
今こうして丸まっているのがこの国の英雄騎士様なのだと思うと、さらに微笑ましい気持ちになる。
ふふっ。かわいい。
そう思いながら、私はそっとルイ様をポケットの中に入れた。




