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21 「毒味は俺がする!」「私がします!」


「え!? これが夕食ですか?」


「はい。どうぞ」



 調理場で働く使用人から手渡されたプレートを見て、私は思わず本当に合っているのかと聞いてしまった。

 なぜなら、どう見ても作りたての美味しそうな料理が盛られていたからだ。




 お義母様やマーサ様とあんなことがあったばかりだし、今夜も食事を抜かされる覚悟だったのに……一体どうして?




 想像と違いすぎて、素直に喜んでいいのかわからない。

 そんな私の戸惑いが伝わったのか、プレートを差し出してくれた使用人が小さな声でこっそりと教えてくれた。



「実は、今日からきちんとした食事を出せとのお達しがあったのです」


「えっ? ……お義母様から?」


「はい。ただ、自室で食べさせるようにとも言われましたので、器は変わらずこちらのプレートに盛らせていただきましたが」


「それは全然かまわないわ。……ありがとう」



 使用人は嬉しそうにペコッとお辞儀をして仕事に戻っていった。

 



 お義母様の指示でこの食事に変更されたなんて。

 何を企んでいるのかしら?

 ルイ様にきちんとしたものを食べさせてあげられるから嬉しいのだけど……どうにも引っかかるわ。





「ルイ様、お待たせしました。夕食です」


「……どうしたんだ、それ」



 私と同じように、ルイ様も目を丸くしてプレートを凝視している。

 この料理がルイ様にとっては当たり前の食事だったはずなのに、私の普段の料理に慣れすぎたせいか『それ』呼ばわりだ。



「今日からきちんとした食事を出すようにと、お義母様に指示されたそうですよ」


「母から? まさか毒でも入ってるんじゃないだろうな……?」


「そんな、まさか……」




 ルイ様ってば。

 すっかり自分の家族に対して疑心暗鬼になっているわね。

 いくらなんでも、私を殺そうとするなんて……そんな、まさか。ねぇ?




 それはないと思いたいけれど、実は疑いの気持ちも少しある。

 あの義母とマーサ様のことだ。

 離婚しないのならばと、私を殺そうとしてもおかしくはない……気がする。



「本当に毒が……? 食べないほうがいいでしょうか?」


「いや。そんなことを繰り返したら餓死するだけだ。俺が毒味をする」


「ええっ!?」




 ルイ様が毒味!?

 いやいやいや! 毒味をするなら私のほうですよ!?




 お皿についていたソースに手を伸ばしていたルイ様からお皿を奪い取り、私は自分の指にソースをつけた。



「毒味をするなら私が」


「はあ!? ダメだ!」


「ルイ様が毒味をするなんてありえません! 何かあったらどうするんですか!?」


「それはリリーだって同じだろう!?」


「私に何かあっても誰も困りません。それよりルイ様に何かあったら──」


「リリーに何かあったら俺が困るからダメだ!」


「…………え」



 真剣に押し問答していたのに、急にピタリと止まる。

 ハッとした様子のルイ様が、慌てて短い手をブンブンと振り回しながら訂正をしている。



「いや、それは、ほら。俺の不在時に妻が毒死だなんて、困るだろう!?」


「あ、ああ……そういう……」




 やだ。危うくまた勘違いをしそうになっちゃったわ……って、あっ!!




 私が戸惑っている間に、いつの間にか私の手に乗ってきていたルイ様が指についたソースをペロッと舐める。



「ルイ様っ!! ああ、どうして! 大丈夫ですか!?」


「……うまい」


「え?」


「体もなんともないし、味もいつものソースの味だ」



 私の手の上でちょこんと座っているルイ様は、舌をモゴモゴさせながら言った。




 よかった……。

 というか、ルイ様が私の手に乗るのは久しぶりね。


 …………あああ、なんてかわいいのかしら!!!

 小さいお口が動いているわっ。体がモフモフしていて気持ちいいわっ。お背中をなでなでしたいわっ。




 何事もなくて安心すると同時に、久々に自分の手に乗ったルイ様がかわいすぎて胸がキュンとときめいてしまう。

 そんな私からの異様な視線に気づいたのか、ルイ様がゾッとしたかのように肩をビクッと震わせていた。



「……なんだ?」


「い、いえ。なんでも。毒でなくてよかったです。では、えっと……食べましょうか」


「? ああ」



 それぞれの料理をルイ様用に分けて、一緒に食事を始める。

 今夜の料理は見た目だけでなく味もしっかりと美味しく、なぜ義母が私にこの食事を与えたのかの謎が深まるばかりだった。



「……これが何かの作戦かもしれないからな。気は抜かないように」


「わかりました」



 ルイ様に返事をして彼に視線を向けた時、白銀色の毛に先ほどのソースがついていることに気づいた。

 私の指についていたソースを舐めた時についてしまったのかもしれない。




 ソースがついているわ!!!

 なんて……なんてかわいいの!!

 

 ダメよ、リリー。興奮している場合じゃないわ。すぐに拭き取って差し上げなければ。




「ルイ様、少し失礼しますね」


「ん?」



 そう一言告げるなり、私はルイ様の腹部を指でこすった。

 少し時間が経過しているからか、ルイ様の毛のせいなのか、固まっている部分があって綺麗に拭ききれない。




 あら? なかなか取れないわ。




「なっ!? リ、リリー、何を……!?」


「少し我慢してください」


「いや。我慢って。一体何を……!?」



 腹部を何度も撫でられてくすぐったいのか、ルイ様は短い手で私の指を押し返そうとしてくる。

 通常なら力で敵うはずのない相手だけれど、今の姿であれば私のほうが力が強い。

 申し訳ないと思いつつ、私はそのまま拭く手を止めなかった。



「もう少しですから」


「いや……はっ、はははっ」


「!」




 笑ってる!




 我慢できずに笑い出したルイ様を見て、胸が鷲掴みされたような感覚になる。

 ずっと見ていたくて、汚れが取れたあともついつい撫でるのを続けてしまったのは……ルイ様には内緒だ。


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