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19 ルイ視点③


 しまった。

 思わず「離婚したくない」などと本音を言ってしまった。


 俺にそんな自分勝手なことを言う資格なんかないというのに──。




 数時間前。

 姉のことを不審に思った俺は、屋敷の中を駆け回った。


 リアに仕事を与えて、その隙にリアの部屋に忍び込んで指輪を隠した姉。

 リアの刺繍したハンカチを自分がやったと言って俺に渡してきていた姉。


 


 ……一体どういうことだ?




 

 指輪を隠したのは、リアを陥れるためにではなく何か別の理由があるのかもしれない。

 あの刺繍だってたまたまリアのこだわりと姉のこだわりが同じだっただけで、本当に姉が刺繍したものかもしれない。


 そんな可能性だってあるのに、今の俺は姉に不信感を抱いてしまっている。




 あの怪しい笑顔を見たから……だろうな。




 今まで見たことのない、姉の悪巧みを考えていそうな妙な笑み。どう前向きに考えてみてもそこに優しさは感じなかった。




 それにしても、なんで姉がリアに?

 ただの雑用のリアだけがあんな扱いをされているのはなぜなんだ?




 その答えが知りたくて、屋敷の中を誰にも見つからないように動き回っているのだ。

 


「!」



 適当に走っていた俺は、ある部屋の前でピタリと足を止めた。

 今まで中に入ったこともなければ近づいたこともない部屋──妻であるリリーの部屋だ。




 この体になってから一度も見かけていないが……。



 ふと気になり、扉に耳を当てて中の音を聞いてみた。

 話し声や物音どころか、人のいる気配すらしない。




 今はいないのか?




 扉の下にあるほんのわずかな隙間。

 そこから部屋の中に入った俺は、なんとも言えない違和感に襲われた。


 高価そうな家具もなく、絵や花などの飾りもない。

 普通の部屋といえば普通だが、派手好きのリリーの部屋となると違和感だらけだ。




 ここが本当にあのリリーの部屋なのか……?




 クローゼットや引き出しの中を見てみても、毎月買い漁っていると噂のドレスも宝石も見当たらない。

 そもそも、ここで人が暮らしているという感じがまったくしないのだ。



「……リリーはどこに?」




 そう呟いた時、廊下からリアの声が聞こえた気がした。

 2人の足音がかすかに聞こえてくる。




 リア!?




 慌てて部屋から出ると、先ほど俺が口に焦げたクッキーを入れてやったメイドとリアが歩いているのが見えた。

 



 なぜあの女とリアが!?

 あいつ……まさかまたリアに何かするつもりか!?




 気づかれないようにあとをつけ、2人が入った部屋にこっそりと忍び込む。

 メイドとリアの2人しかいないと思った部屋の中は、想像以上の人で溢れていた。


 部屋を囲うようにして立っている使用人達。

 そして、真ん中にあるソファには母と姉が座っていた。




 なんだ? この状況は……。




 その部屋の異質さに呆然としていると、リアが口を開いた。



「お呼びでしょうか?」


「遅いわね! さっさと来なさいよ!」


「!?」




 驚きすぎて数センチ飛び上がってしまった。

 静かな部屋に突然の怒号。そして、それを言った人物が姉のマーサだったからだ。




 今のは……姉さん? 本当に?




 聞いたことのない姉の声に、見たことのない険しい表情。




 あの性格の悪そうな女は一体誰だ?

 本当に俺の姉なのか?



 姉に感じていた違和感が確信に変わった。

 やはり姉は、俺が思っていたような人ではなかったというのか。


 姉は偉そうな態度でリアに俺の話をしている。

 捜索ができないという俺の現状報告をなぜわざわざ雑用のリアに話しているのか不思議に思っていると、姉から衝撃の言葉が出た。



「それで、あんたにはルイと離婚してもらうことにしたわ」


「…………え?」



 リアと俺の言葉が重なる。

 もっとも、俺の言葉は誰にも聞こえてはいないが。




 離婚? 俺と離婚? 

 ……どういうことだ?




 離婚というのは、結婚していなければ成り立たない。

 リアに俺との離婚を切り出すということは、俺とリアが結婚していなければ出ない話だ。




 なんだ? 姉さんはなぜそんな話をリアにするんだ?




 不思議で仕方ないその言葉を、リアは否定したりすることなく姉と会話を続けている。

 母や周りにいる使用人達も、特に何事もないかのように平然と2人を見守っている。




 どういうことだ?

 俺とリアの離婚話をしているというのに、なぜみんな普通にしている?




 そこまできて、はじめて俺はある可能性が頭に浮かんだ。

 本当はうっすらと浮かんではいたが、そんなわけがないと思い込んでいた。

 



 まさか……まさか。




 俺は部屋の壁際に立っているリアを見つめた。

 ボロボロの服を着ているが、薄紫色の髪の毛に姿勢のいいその立ち姿──。




 まさか……リアがリリーなのか?


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