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18 ごめん。離婚はしたくない


 ルイ様に、今までのことを全部話すことにした私。


 ルイ様がいない時は、今のように屋根裏部屋で生活をして使用人のように働いていたこと。


 ルイ様が帰ってきた時だけは公爵夫人としての部屋や食事が与えられるが、派手なメイクと髪型にされて用意されたドレスを着ていたこと。


 夫人として私に与えられたお金は、毎月マーサ様が全部使っていたこと。


 私の前では義母もマーサ様もいつもあのような態度だったこと。


 私が使用人をいじめているという話も、毒を持っていたという話も、すべて嘘だということ──。


 私が淡々と話している間、ルイ様は口を挟まずにずっと黙って聞いてくれていた。

 時折悲しそうな表情になったり、怒りからか手がプルプルと震えている時もあった。



「……以上です」


「そうか……」



 できるだけ責めている空気にならないように冷静に話したつもりだったけれど、ルイ様はあきらかに落ち込んだ様子だ。

 しょぼんとしている姿がなんとも愛らしい。




 前までは理解してくれないルイ様に対しても不満を持っていたのに……今は愛しく感じているのだから不思議だわ。

 それに、それはこの見た目だけのせいではない気がするのよね……。




 小さいモフモフの姿が可愛らしいと思っているけれど、それとは別で彼の言動に胸が高鳴ってしまう時がある。

 この感情にはなんとなく気づいているけれど、まだはっきりと認めたくはない。


 認めてしまったら、普通ではいられなくなりそうだから。



「私も質問してよろしいですか?」


「ああ。なんだ?」


「マーサ様の指輪をあのキャビネットの上に置いたのはルイ様ですよね?」


「ああ。……姉がこの部屋の引き出しに指輪を隠しているのを見ていたからな」




 やっぱりそうだったんだ。

 ルイ様が見ていてくれて助かったわ。でも──。




「なぜ指輪を引き出しから出したのですか?」


「もしリア……リリー以外の者に見つかったら、リリーが盗んだと誤解されると思ったからだ」


「……マーサ様が私をはめようとしていたことに気づいたってことですか?」




 どうして?

 その時にはまだマーサ様の本性を知らなかったはずなのに。




 私の質問の意図がわかったのか、ルイ様が気まずそうに話を続ける。



「指輪を隠した時に、見たことのない顔で笑っていたから。なんだか嫌な予感がしたんだ。完全に姉を疑っていたわけではないが、万が一を考えて指輪は取り出しておいた」


「なるほど……」


「その指輪を姉の部屋に戻そうかと迷ったんだが、あのあとリリーの刺繍したハンカチを見てやめることにした。いざという時のために、この部屋ではない別のところに隠しておいたんだ」


「刺繍のハンカチ?」


「姉に何度か渡されたことがあるんだ。祈願用の刺繍ハンカチだと。だがそれはすべてリリーの刺繍した花と同じだった」


「えっ?」


「1枚だけ花びらの色が違う刺繍……あれはリリーのこだわりだと言っていただろう? これまでに刺繍したものはすべて姉に渡しているとも。だから、今まで姉が自分がやったと言っていたものは実は全部リリーがやったものだったんじゃないかって」


「…………」




 マーサ様に渡したハンカチ……マーサ様は仲の良い男性に渡すためだと言っていたけど、本当はずっとルイ様に渡していたっていうこと?

 



 勝手に自分の作品としてルイ様に渡していたことに対する呆れと、実は仲の良い男性なんていなかったのかという同情で複雑な気持ちだ。




 最初からルイ様に渡すって言えばいいのに……。

 帰還を願ってのハンカチは堂々と命令してきたのに、なぜその時は他の男性に──なんて嘘をついたのかしら。

 マーサ様が何を考えているのか謎だわ。




「そう考えたら姉に不信感が……。それで姉がどんな行動に出るのか様子をみようと思った」


「……そうだったんですね。おかげで助かりました。ありがとうございました」



 ペコッと頭を下げると、ルイ様がトコトコと私に近づいてきた。

 ベッドにうつ伏せの状態で両肘をつき、胸から上を上げている姿勢の私。


 ルイ様はそんな私の肩に飛び移り、小さい手で頬にチョンと触れてきた。



「礼なんて言うな。それより、本当に悪かった。顔に傷をつけてしまうとは……」


「傷? ……あっ」



 うっすらと感じる頬の痛み。

 義母に投げられたティーカップの破片で切れた傷だ。



「これはルイ様が謝ることでは……」


「いや。俺の母がやったことだ。傷をつけたことだけでなく、他にも……あんなにひどい態度や言葉を投げかける人だったなんて。母や姉の代わりに謝らせてくれ」


「…………」




 自分の信頼していた人達のあんな姿を見て、きっとルイ様が1番傷ついているはずなのに。




「こんな俺や家族と一緒にいるべきじゃない。母達の言う通り、本当に離婚したほうがいいのかもしれない」


「!」




 そんなっ……私は離婚なんてしたくないのに……!




 ズキッ


 ルイ様の口から『離婚』という言葉が出て、胸がギュッと苦しくなる。

 否定しようと口を開いた時、ルイ様が小さい手を自分の額に当てて苦々しい顔をしながら話を続けた。



「だが、ごめん。離婚はしたくない……」


「…………え?」



 私の肩に乗っているため、すぐ耳元で聞こえたルイ様の声。

 沈んでいた気持ちが一気に浮上して、だんだんと鼓動が速くなってきた。




 え? え?

 離婚したくない?

 離婚したくないって言ったの? ルイ様が?


 ……それはどういう意味?




 カアアーーと顔が赤くなった気がする。

 そして、そんな私の様子を見たルイ様が急に焦ったように早口になった。



「あっ!? いや、今のは深い意味は……。その、もし本当に補償金が入るならそれはリリーに貰ってほしいと思ったからで……!」


「だ、大丈夫です! わかってます! 勘違いしてませんので安心してください!」


「あ。いや……」


「…………」


「…………」



 白銀色の毛が、少しだけ赤っぽくなっているように見えるのは私の気のせいかしら。

 なんとも言えない気まずさが漂っているけれど、不思議と嫌じゃない。




 ど、どうしましょう……。

 何を話せばいいのかわからないわ。



ここまで読んでくださりありがとうございます。

ブクマ、評価をしてくださった方々にも本当に感謝しております。

ありがとうございます。


本日はこの回含めて3話更新予定です。


✿︎12時頃 ルイ視点③

✿︎19時頃 ルイ視点④


こちらもぜひ読んでいただけたら嬉しいです✩︎⡱

引き続きどうぞよろしくお願いします。


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