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16 窃盗犯にさせられ……る? あ、あれ?


 いつからいたのか、花瓶のうしろに隠れているのは間違いなくあのルイ様だ。

 私はその姿を見て真っ青になった。




 なんでルイ様がここに!?

 いつからいたの!? どこから話を聞いていたの!?




 私達は、私とルイ様との離婚について話し合っていた。

 もし最初から聞かれていたとしたら、私がリリーだとバレてしまったということだ。


 私がリアだと嘘をついていたことも、そして……優しいと思っていた義姉の本性も知ってしまったということになる。




 ルイ様……!

 ああ。今すぐに謝りたいわ。




 ルイ様の白銀色の毛は見えているが、どうやらこちらに背を向けた状態らしい。顔が見えないので彼が今どんな気持ちなのかがまったくわからず不安になる。



「もう! なんなの!? 誰か私に何か投げた!?」



 マーサ様がキッと使用人達を睨みつけると、全員慌てて首を横に振った。

 マーサ様のこめかみ部分は赤くなっていて、小さくて硬い何かがぶつかったのだと思われる。




 ……何か投げたのは、きっとルイ様、よね?

 それって私を助けてくれたっていうことなのかしら。

 マーサ様を攻撃して私を助けた……?




 今までのルイ様なら考えられない行動だ。

 まさか……と思いつつも、それしか考えられないためどうしたって嬉しい気持ちが出てしまう。




 もしそうなら、少しは誤解が解けたのかもしれないわ……。




 ホッと安心したのも束の間。

 マーサ様は「チッ」と舌打ちをしたあと、急にニヤリと笑いながら私を振り返った。



「まぁいいわ。カールソン、警備兵を呼んで」


「はい。すでに下に待機させております。すぐにお呼びいたします」



 カールソンと呼ばれた執事は、足早に部屋から出て行った。

 残された使用人の中で、なぜかグレンダだけがニヤニヤしながら私を見ている。




 何? 警備兵を呼んでどうするの?

 私は一応貴族だし、何もしていないのに捕まえたり追い出したりすることはできないはずよ。




 それでもなぜか嫌な予感がする。

 チラッとルイ様を見たが、彼はまだ先ほどと同じ場所に立っていた。こちらを振り返る気配はない。




 ルイ様……。




「お待たせしました! 警備兵を連れてきました」



 バタバタという足音と共に、カールソンと警備隊の兵士2人が部屋に入ってくる。

 その瞬間、偉そうに腕を組んでいたマーサ様が突然ビシッと私を指差した。



「私の大事にしていた青いダイヤの指輪がなくなったの! きっと犯人はリリーよ……!」


「!?」


「昼食のあとに自分の部屋で外してから見当たらないの。その時間、私の部屋に入ったのがリリーだけだったから、きっと彼女が盗ったんだと思うわ!」


「なっ……!?」




 指輪!? なんのこと?

 そんなの知らないわ!




 警備兵や使用人達が、軽蔑の眼差しを私に向けてくる。誰もが見窄らしい格好をした私に疑いの目を持っているようだ。


 義母とグレンダだけは口角がニヤリと少し上がっているのが見えて、私は今の自分の状況を理解した。




 はめられた……!?

 まさか、さっきいきなり花瓶を部屋に運んでおけと言ったのはこのため?

 では……もしかして指輪もどこかに……。




「きっと屋根裏部屋に隠しているはずよ! すぐに探してきて!」


「!!」




 屋根裏部屋……まさか!

 私のいない隙に、マーサ様が指輪を私の部屋に隠したのかもしれない。もしその指輪が部屋のどこかから出てきたら、私は終わりだわ。


 窃盗犯として捕まって、ルイ様とも離婚手続きをされて家から追い出される……!




 ドッドッドッと心音が激しくなる。

 私は何もやっていないと言って、誰か信じてくれる人がいるだろうか──。


 マーサ様に命令されて、カールソンや警備兵が屋根裏部屋に向かって行ってしまった。

 きっと、どこかに隠されたマーサ様の指輪を見つけて戻ってくるのだろう。




 まさか、私を窃盗犯に仕立て上げるなんて……。




 呆然とする私に、マーサ様がボソッと呟いた。



「これであんたも終わりね。さっさとこの家から出ていくといいわ。ルイとの離婚承諾書にサインをしてくれるなら、泥棒として訴えるのだけは許してあげるわ」


「…………」



 なんてひどいことを……! そう思っていると、戸惑った様子のカールソンが戻ってきた。



「あ、あの、マーサ様」


「何? 指輪は見つかった?」


「いえ。その、どこにも見当たりません」


「なんですって!?」


「!」




 どこにもない?




 マーサ様の反応を見る限り、彼女が私の部屋に指輪を隠したのは間違いないだろう。

 では、なぜ隠したはずの指輪がないのか。


 マーサ様の勘違いで隠すのを忘れていた?

 いえ。こんなに自信満々の様子なんだし、そんなミスをするはずがないわ。


 ではカールソンが嘘をついて私を庇っている?

 いえ。彼とはまともに話したことはないし、彼はお義母様の忠実な部下だわ。


 だとしたら──。




 まさかルイ様が?




 お昼まで指輪をつけていたということは、私の部屋に隠したのはきっと私が花瓶を運んでいる時だろう。

 あの時間、たしかルイ様は私の部屋にいたはず。

 もしかしてマーサ様が指輪を隠したのを見ていたのかしら。


 チラリとルイ様のいるキャビネットを横目で見ると、さっきまでルイ様が立っていた場所がキラッと光に反射して光った。



「……あそこ、何か光っています」


「はあ!?」



 私の言葉に反応してマーサ様が振り返った瞬間、その顔が真っ青になった。

 今ではマーサ様だけでなく、部屋の中にいる者全員がその光っている物を見つめていた。


 キラキラと輝く青い宝石を……。



「な、なんでこれがここにあるのよ……!?」


「なくされた指輪とはあれで合っていますか? マーサ様」


「!!」


「合っているみたいですね。では私が盗ったのではなく、マーサ様が置いた場所を勘違いしていた……ということでよろしいでしょうか?」



 マーサ様は歯をギリッと強く噛み締めて、ものすごい形相で私を睨んでいる。

 背後に見える義母もグレンダも、同じくらいに悔しい顔をしていた。




 よくわからないけど、きっとルイ様よね?

 ルイ様が私を助けてくれたんだわ。

 

 そして、やっぱりマーサ様の本性を完全に知ってしまったのね……。


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