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14 なぜかルイ様が落ち込んでいます


 魔女の呪いを解く方法を調べる──それには王立図書館に行くしかないとルイ様は言っていた。


 一応公爵夫人である私は入ることができるけど、この家から簡単に出ることはできない。

 私がリリーだと知らないルイ様は、完全に私では図書館に入れないと思い込んでいる。


 そんなルイ様が考えた案が、義姉であるマーサ様に代わりに行ってもらう……というものだった。



「……無理だわ」



 花瓶を持って廊下を歩いている私は、ボソッと独り言を呟いた。

 周りには誰もいないためつい声に出してしまったけど、特に問題ないだろう。




 ルイ様が魔女の呪いにかかっていることは説明できないんだもの。その状態で、どうお願いすればいいっていうの?

『理由は言えないけど、魔女に関する本を借りてきてください』って?


 無理、無理、無理!!!

 たとえどんな理由があっても絶対に行ってくれないというのに、そんな理由でお願いなんてしたら平手打ちされてしまうわ!




 義姉のことを優しい人だと思い込んでいるルイ様は、本気でそんなお願いを聞いてもらえると思っているらしい。

 幼い頃からの洗脳というものはなんと恐ろしいものか。




 はぁ……どうしよう。

 というか、朝は「今日も部屋にこもって刺繍をしろ」って言ってきたはずなのに、いきなり花を生けて私の部屋に持ってこいって命令するなんて……一体なんなの?


 


 マーサ様が何を考えているのかよくわからない。

 昼食のお皿を返しにきた時、バッタリ会ってしまったのが不運だった。




 お皿を返しに行ったまま20分以上戻ってこない私を、ルイ様は心配してないかしら?




 一度部屋に戻ろうとしたけれど、マーサ様に今すぐ! と言われたためすぐに庭師の元に行ってきたのだ。

 不満はありつつ、こんな突然の命令もめずらしいことではないので今回も普通に対応したけれど。


 コンコンコン



「マーサ様。お花をお持ちしました」



 しーーん……


 部屋の中からは、返事はおろか物音すら聞こえない。

 どうやらマーサ様は今この部屋にはいないらしい。




 どこに行ったのかしら?




 本来ならこのまま部屋の前でマーサ様を待つところだけど、先ほどマーサ様は「もし私がいなかったら部屋の中に入ってテーブルの上に置いておいて!」と言っていた。

 私もできることなら、いない間に勝手に置いて帰りたい。



「失礼します」



 そう声をかけて扉を開けると、やはり中には誰もいなかった。



「ここでいいのかしら?」



 部屋の真ん中においてある丸いテーブル。

 その上に花瓶を置いて、私は足早に部屋を出た。




 マーサ様が戻ってくる前に、早く行っちゃおうっと。







「ルイ様っ。お待たせしましたっ」


「……遅かったな」


「はい。ちょっとした雑用を頼まれてしまって」



 いつものように机の上に置いてあるクッションに座りながら、ルイ様は私をチラリと見た。なぜか少し元気がないように見える。



「その雑用を頼んだのは、誰だ?」


「え? えーーと……マーサ様、ですが」


「!」



 ルイ様はあきらかにマーサ様の名前に反応しておきながら、急に「そうか」と言ってプイッと顔を背けた。




 ん?? 何この反応?




「どうかしましたか?」


「いや。なんでもない」


「? ……そうですか」




 どう見てもなんでもなくないのに。

 どうしたのかしら?

 でも、私がこれ以上聞いたって教えてくれないわよね。




 いつもと様子が違うルイ様を不思議に思いながら、私は朝に頼まれていた刺繍の仕事をしようと準備を始めた。

 使用する刺繍糸を並べ、布をセットし、いざ! と気合を入れて刺繍を開始する。


 刺繍は何も考えずに作業に集中できるし、何よりだんだん完成してくる絵柄を見ているだけでとても楽しい。

 与えられた仕事の中でも特に好きなのがこの刺繍だ。




 いつかは私の刺繍したハンカチをルイ様に……と思ったこともあったけど、きっと誤解したままの彼じゃ受け取ってくれそうにないわね。

 毒が塗られていると疑われる可能性もあるわ……あはは。




 笑い事ではないけれど、心の中でつい笑ってしまう。

 そんなことを考えながら花の刺繍をしていると、いつ近くにきていたのか、ハンカチを覗きながらルイ様が声を上げた。

 


「これは……! これ、リアがやったのか!?」


「きゃっ! びっくりした! ルイ様いつの間に?」


「いいから答えてくれ。この刺繍はリアがやったのか?」


「はい、そうですが……?」




 なんだろう?

 なんでルイ様はこんなに慌てているの?




 白いハンカチに、紫色の花と青い花を刺繍──それを見たルイ様は、なぜか目をぱっちりと開けて戸惑っていた。



「この刺繍がどうかされました?」


「この花……どれも、この右上の花びらだけ少し色が違うな」


「!! あの一瞬でよくお気づきになりましたね! そうなんです。この奥になる部分だけ、少し濃い色に変えるのが私のこだわりといいますか」


「リアのこだわり?」


「はい。本当は同じ色に揃えたほうが綺麗なのでしょうけど、私は少し立体感がほしくて……って、ル、ルイ様?」



 なぜか私が意気揚々と説明するたびに、ルイ様の顔色が曇っていく。

 うつむきはじめた彼に向かって、私は恐る恐る問いかけた。



「それがどうかしたのですか? 何か気に障ることでも?」


「いや……リアに対してそんなことは思わない」



 ドキッ


 しれっと言ったルイ様の言葉に、心臓が小さく跳ねた気がする。


 


 わ、私に対しては気に障るようなことはない……ってこと?

 ずっと避けられてきたルイ様にそんなことを言われるなんて……ちょっとドキッとしてしまったわ。




「では、何か……?」


「その刺繍のハンカチ、誰に頼まれたものだ? これまでに、リアが刺繍したハンカチを誰かに渡したことはあるのか?」


「今までに作った物は、すべてマーサ様にお渡ししています。これもマーサ様に頼まれて…………あっ!!」



 そこまで言って、自分で自分の口を塞ぐ。

 これはルイ様の帰還を願っての刺繍ハンカチだとマーサ様は言っていた。つまりは、ルイ様の姿が元に戻った時……本人が目にするものだということだ。




 すっかり忘れて普通に作業していたわ!

 これ、ルイ様に見られたらいけないものよね!?

 それにマーサ様に頼まれたことも言ってしまったわ……。




「そうか。やはり……」



 ルイ様はそれだけ言うと、ベッドから降りて扉に向かってトコトコと歩き出した。



「ルイ様、どちらへ!?」


「少し階段で休んでくるだけだ」




 階段で!?



 

 色々と聞き返したいことはあったけれど、ルイ様が尋常じゃなく落ち込んだ様子だったので、黙ってその愛らし……ではなく寂しそうな背中を見送ることにした。


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