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13 ルイ視点②


 屋敷の庭で突然俺を持ち上げた見知らぬメイドは、なぜかジッと見つめてきたあとに「ルイ様?」と尋ねてきた。

 



 ……なんだって?




「……なんてね」



 メイドはフッと口角を上げて柔らかく笑った。

 自分でもおかしなことを言った自覚があるらしい。


 だが、その直感はおかしなことでもなんでもなく、まさに事実なのだ。



「なぜわかったんだ!?」


「え?」



 俺の叫びに反応している。俺の声が聞こえている。

 魔女の言っていた通り、本当にこのメイドは俺の正体に気づいたのだ──。


 

 



 


 あの時は本当に驚いた。

 誰にも気づかれないだろうと思った矢先、まったく知らない女に見抜かれたのだから。


 意外にも雰囲気か何かで伝わっているのかもしれないと思い母や姉の元に行ってみたが、2人は俺に気づくどころか悲鳴を上げて捕まえさせようとしてきた。

 もしあそこで捕まっていたら、間違いなく殺されていただろう。



 実の母にも姉にも気づかれなかったというのに、なぜかすぐに俺に気づいた不思議なメイド──リア。



 明るくていつも笑顔で、仕事も真面目にやっている。

 こんな姿をした俺をバカにすることなく、色々と気を使ってくれる優しい人だ。


 それなのに、なぜか他の使用人からの扱いがひどく、食事も部屋も服もまともなものを与えてもらっていない。


 本人はそれを悲しむどころか「慣れていますので」と言う。




 なぜリアがこんな扱いを受けているんだ!?

 うちの使用人は、同僚に対してそんなことをするような奴らだったのか?

 



 なんとかしてやりたい──けれど、今の俺には何もしてあげることができない。


 使用人の管理を任せている母や姉は、このことを知っているのだろうか?

 リリーが使用人をいびっているという話はされたことがあるが、使用人同士の揉め事などは聞いたことがない。




 しかも、そんなリリーからは何もされていないとリアは言っていた……。


 どうなっているんだ?

 使用人に嫌がらせをしていたというリリーはリアには何もせず、被害者だった使用人達がリアに嫌がらせをしている?




 妻であるリリーに対しては、他にも気になることがあった。


 母や姉から聞かされていたリリーの生活は、本当にひどいものだった。

 毎日家中に響き渡るくらいに叫んで騒がしくしていたり、商人を家に呼びつけるか自分が街に行くかして買い物三昧に贅沢三昧な日々──だと。


 しかし、この姿でこの家に戻ってからは一度も彼女の姿を見ていないし声も聞いていない。

 屋敷の中はいつだって静かだし、窓から見える門からも特に人の出入りがない。


 まるでリリーという存在がいないかのようだった。




 妻……とはいえ、今では顔すらよく浮かばないほどの関係だけどな。




 母や姉からは近づくなと言われ、向こうも近寄ろうとしてこない。

 俺は他の家からの婚約の申し込みを断る口実ができて助かっているし、リリーはリリーで自由に過ごせるこの生活を楽しんでいる。


 お互いの利害が一致した形だけの夫婦だ。




 最初はそれなりに仲良くしていくつもりだったが、まさかリリーが周りに迷惑をかけるだけでなく俺の命すらも狙っている可能性があるとは……。




 そんな女と仲良く夫婦関係を持つことなどできない。

 気づけば会話はおろか、まともに顔すら見ないようになっていた。




 リアのように素直で優しい女性が妻だったなら、きっと幸せな家庭が……。




 そこまで考えてハッとする。

 今、俺は何を考えていたのか。

 頭の中には、さっき廊下で笑っていた笑顔のリアが浮かんでいた。




 リアが妻だったら……なんて、一体何を考えているんだ俺は!!




 人間だったなら顔が赤くなっていたかもしれない。

 それくらい、体中がカッカと熱くなっていた。


 リアは今昼食の皿を片付けに行っていていない。

 今このタイミングでリアがいなくて本当によかった。そう思った時、カチャリ……と静かに扉が開いた。



「!」




 誰だ!? リアの開け方じゃない。




 咄嗟に机の上に置いてあった裁縫道具の陰に隠れる。

 扉を開けた人物は、そろそろとできるだけ音を立てないように歩きながら部屋に入ってきた。




 ここはリアの部屋だぞ!?

 一体誰が勝手に入って……。




「!?」



 その人物を見て、俺は思わず声を出しそうになった。

 まるで泥棒のようにコソコソと部屋の中を歩き回っていたのは、俺の姉──マーサだ。




 な……なぜリアの部屋に姉さんが?

 何をしているんだ?




 姉は部屋の中を見回すと、ボソッと低い声で「汚いわね」と言い捨てた。

 その歪んだ険しい顔の姉は今までに見たことがない。


 わけがわからずに見守っていると、姉は自分がはめていた大きな宝石のついた指輪を外し、リアのベッド脇に置いてある棚の引き出しにしまった。



「なっ!?」



 思わず声を出してしまったが、小さすぎたのか姉には聞こえなかったらしい。

 姉はニヤリと怪しい笑みを浮かべ、また静かに部屋から出て行った。



「…………なんだったんだ、今のは。本当に姉さんだったのか?」



 俺の3歳年上の姉──マーサは、幼い頃によく俺と遊んでくれた優しい人だ。

 元気で前向きで、騎士を目指して訓練する俺をいつも応援してくれていた。


 母とも仲が良く、使用人にだっていつも笑顔で接して、リリーの不祥事をいつもカバーしてくれていたのも姉だ。


 あんな……

 あんな悪意に満ちた笑みを浮かべた姉は、初めて見た。




 ……なぜリアの部屋に指輪を置いていったんだ?




 もしリアへの贈り物なら、きちんと包んで本人に直接渡すだろう。

 サプライズが目的だったとしても、自分がつけていた指輪をそのまま引き出しの中に入れていくなんてしないはずだ。


 もしあの指輪をリア以外の誰かが見つけたら……。



「リアが盗んだと疑われる……」




 まさか……違うよな?

 あの優しい姉が、そんな目的で──リアを窃盗犯に仕立て上げるためにわざと自分の指輪を置いていったなんてことはないよな?




「…………」



 違う。あの姉がそんなことをするはずがない。

 そう思いたいのに、ニヤリと笑った姉の顔が忘れられない。


 タタタタ……


 俺は急いで棚に登り、少し空いた隙間から先ほどの引き出しの中に入った。姉がきちんと閉めていなかったらしい。

 引き出しの中には布が入っていて、大きな青い宝石がついた指輪がその間に隠されていた。



「……念のため持っていくぞ」



 そう言い訳のように呟くと、俺はその指輪を持って引き出しから出た。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


そして、ブクマや評価を入れてくださった方。

おかげさまでランキングに入ることができました。

本当にありがとうございます!


引き続き楽しんでいただけますように✩︎⡱


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