カナカナの町 中編
1000さんのお母さんを助ける流れになったのは何でだったか、1000さんの案内でメタルリング家とかいう屋敷の近くに潜んでいます。道中で私たちのシステムの軽い説明をしたけど意味が分かっていなそうだ、多分これが普通の理解力でマルシカクちゃんがすごいんだと思う。
因みに1000さんのことは数字で『1、0、0、0』と書いてから『1000』と隣に並べて書いて1000と言ったら皆がそこで初めて「ああ!」って感じになり千ちゃんと呼ぶことを許してくれました。
それと、仲間と認められて『状態』を見たのだけど色々と驚いたのだった。
1000 LV.1:駆け出し暗殺者,9歳(*不老、*不死)
HP:8 MP:1 ATK:12 DEF:1 MAT:1 MGR:2 CT:27
初期勇者を超えるATKの値で他がほぼ無い一撃必殺タイプ、ゲームだったら敵のSPDと標的運次第で使い勝手が変わるタイプ、今は装備でカバーするから問題は無い。 MPが下がっているから魔法は装備上昇頼りで乱発は出来ないと注意しておいた。
それよりも身長も同じくらいで見た目が私のいくつか上(16,7)に見えたのにまだまだ子供でマルシカクちゃんのちょっとお姉さんだったくらいとは思っていなくて驚いたよ。暗殺者歴1年くらいなら仕事も少ないはずだよ、よかった。
「それでどうするのですか?」
立派な門の前には2人の鎧を着た人、屋敷の外周りにも2人見回り常に歩いている。見えないけど中の庭にもたくさん見回っているだろう。
正直、解決策は見つからない。でも、救いなのが相手の見た目で盗賊等と違って怖くは無かった、慣れてきたのが大きいだろうけど見た目は大事!
「正面突破かな?」
「ふぇ!? む、無理じぇはないでしょうか?」
そうだよね、門も開かないし屋敷にも入れないからね…
「忘れてた、裏門の鍵はあるよ、お家の鍵はもらって無いけど…」
千ちゃんがお仕事時用に正面から出て怪しまれない為の鍵を持ってたみたい。
裏に回ってみると草のカーテンが等間隔になっていて、見回りが見えなくなった瞬間にその一カ所を手で除けると下の方に人1人が通れるくらいの格子が壁と壁の間にあって鍵を開けて素早く戻ってくる。
「これで通れるよ」
1人ずつ見回りの合間を縫ってそこから中に侵入。入って左側にある小屋は仕事が終わった後の待機場所らしくとりあえずそっちに行って作戦会議とすることに。
最初に私、マルシカクちゃん、みのりさんと続いて千ちゃんだ、もし私たちが見つかったら千ちゃんには逃げておいてもらう。その場合こそ強行突破だろう。
ドキドキしながらタイミングを図り一気に駆ける。
気にかけないと気にしない場所で外側から見えなくなってる所にはたしかに内側に開くようになっていて急いで開けてしゃがみ通る。 人が通りにくいとはいえ急いで小屋に向かい扉を開いた・・・椅子に足を組んで腰掛け下を向いていた男が顔を上げる
「やっと来たか?」
男は顔を強張らせてスッと立ち上がりマントの下の腰元からナイフを引き抜くと構え動く態勢に入る。
「(連れていく女!!)」
機敏で油断無くしているが動かないので先制は無い、機能も作動している。
私は千ちゃんに逃げてもらうにも叫んでと思っていたので、それは、千ちゃんの存在を知らしめると合図の送りが出来ないこと今になり気付く。バカだった…
「(途中乱入は期待出来るのかな、ゲームには無いよ)」
マルシカクちゃんの援護が無いとなると私で倒すのは難しそうだ・・・。
「おねえちゃん、うごけないの」
マルシカクちゃんがやってきたけど参戦は無理っぽい、どうしようか・・・
「あ!マルシカクちゃん連続で『ウォーター』撃って」
「わかった、ウォーター!」「パラライズ!」
私は少しドアの前から中に入り横にズレる。マルシカクちゃんに遠いけど外の離れた所から撃ってもらい、被せてパラライズを使う。
『ターン制』が解ける。
その瞬間に男は床を蹴って横へ跳ぶ、パラライズが効いたのか距離はないが動けているのがすごい、耐性を付けているのだろう、これは予想していたけどそこはレベル差である程度は通りマルシカクちゃんがすぐにステッキの向きを変えて「ウォーター」を当てる。
男は崩れ落ちて倒れたがやはり実力者、最下級魔法一発では気絶するには至らず静かに好機を窺っていた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「みのりさん、多分報告の人です。今、ターン制は適用されていません」
「わかりました! ユウナ様!?」
話している途中、私の横顔に向けナイフが飛んでくる。みのりさんが叫び、マルシカクちゃんもみのりさんが来たことで油断していた一瞬を男は見逃さない!
誤算だったのは麻痺に依り狙いが失敗した事と恐怖を与えるくらいで何のダメージも与えられないこと、さすがの男にも諦めの感情が芽生えるともう一本のナイフを思ったように動かせない手で取り出そうとしている
「ギガウォーター!!!」「ホーリーレイ!!!」
怒ったような声と共に放たれた2人同時の攻撃に男も床に伏したのだった。
『有能な側近をやっつけた。『鋭利な刃物』×4、『おやつの蒸しパン』×4を手に入れた。20000G手に入れた。
千がLV.13になりました』
「おねえちゃん!」「ユウナ様!」
マルシカクちゃんは私に飛び込み、みのりさんはオロオロと正面に近付き心配してくれる。
「な、何があった・・の?」
千ちゃんもやって来てしまい説明をする。
男は主の専属殺し屋で千ちゃんの教育係のような人でマルシカクちゃん暗殺の報告を受けるために待機していたらしい
「忘れてた…、ごめんなさい…」
「大丈夫だよ、問題はなかったから」
千ちゃんは結構忘れんぼうだね、能力的に合っていても性格的には向いてなかったよ。
さて、男が気絶している、どうしようか。話によれば武力方面では彼が1番の障害だったみたいだから脅威が1つ消えたけど彼も千ちゃんも帰らないことですぐにバレるだろう。
・・クエスト感覚だから大胆に出来るけど、やっぱり犯罪をしているみたいで罪悪感があって慣れない。 これは仕方ないと割り切るしかないのでマルシカクちゃんを抱き締めつつ意気込む。
「おし…してきていい?」
千ちゃんは恥ずかしそうに言った、うんっていいたいけど今、外に1人で行くのは見つかる可能性が…。 千ちゃんにあやしいマントを装備させる、驚いたようだけど音は漏れないから隅の方でお願いと言ったら「出来ない」って言われた。
「床が…」
恥ずかしいのは経験しているから分かるけど…
「ユウナ様、あの・・・『携帯トイレ』を持っていないと思います、わたくゅしもしょうでしたから」
もじもじしながらみのりさんに耳打ちされて経済的に無い、支給されてなく無い、なんてことにいたる。
謝りながら軽く足をパタパタしてる千ちゃんに携帯トイレを渡すと急いで部屋の端に動いて、その姿に心の中でもう一度謝ったのだった。
・・・。
千 LV.13:母想いの暗殺者,9歳(*不老、不死)
HP:20 MP:15 ATK:41 DEF:7 MAT:3 MGR:9 CT:52
千ちゃんの能力値だけどやばいほどATK特化でHPすらも上がらない受けたら駄目タイプ、ユニーク装備が無かったら戦闘には出したくないくらいだよ。
やることはやっぱり正面から行くしかない、直接主に尋ねて聞き出そう。主の居場所は千ちゃんが分かっているから行き当たりばったり作戦開始だ。
ただ、入口までは静かに行きたいから見回りに注意しながら広い庭をぐるりと回る。もちろん傍までくると必ず目があるので交戦は免れない・・・
・・キキキィキィ
「ふにゃらんらん!、役立たずはどこにいるんだ、まだ帰らないのか! あの生意気な美しい女を寄こせ!」
「ハッ、今もそうでございますが、合間合間に転どん殿が見ております。しかし報告は未だで御座います! どうか戻るまでお待ち下さい!」
なんか、見覚えのある奴が出てきたよ? 家来っぽいのと話してる。 生意気なうつ・・女って私?
「主様だ…」
内門で待たされた相手が千ちゃんの主でマルシカクちゃんに暗殺者を仕掛けたさせた依頼主
「マルシカクちゃんやって?」
「うん! ローリーサンダー!」
まさかの範囲攻撃、敵が2人だと思ったんだね。でも、戦闘ウィンドウも出て無く〝戦闘〟になってないからどうなるかわからない! 下手したら、この辺一帯(私たちも含む)に!?
「ウガッ!」「なんですぞ!?」
・・・なんてことはなかった。よかった
たしかに短い範囲だけどいつもより広く展開されたが庭の草や屋敷、もちろん私たちにも襲いかかることなくあの2人だけがくらい気絶していた、弱い。
『傲慢貴族と有能な参謀をやっつけた。『高級な紙』×20、『秘密のメモ』を手に入れた。99999G手に入れた。
千がLv.14になりました
千 LV.14:母想いの暗殺者,9歳(*不老、不死)
HP:20 MP:17 ATK:44 DEF:7 MAT:3 MGR:10 CT:53
2人倒したのに千ちゃんのレベルもひとつしか上がらなかったから本当に弱かったんだ。 側近もそうだったけどゴールドのドロップがあり得ない数字だよ、私たちには等しく入るんだよ? 千ちゃんは容量オーバーで私の方に『千専用アイテム』と表示されて『アイテム』に入っていたから、預かるにしても1回〝所有〟させないとね。
千ちゃんが直に強い魔法を見て人が倒れて顔を青くしているのをみのりさんが宥めている。けれど、そんな暇なんて無くて入口の方や庭の方からいっぱい人が騒ぎを聞きつけ集まってきてしまった。
「メタルリング伯爵様大丈夫ですか!?」「テンプレート伯爵様が倒れている!?」「転どん様はおられないのか!?」「ふにゃふにゃ様も倒れているぞ!?」「馬鹿!ぺにゃかんかん様だ」
伯爵様、爵位がどうとかわからないけど偉いのはなんとなく分かる、せめてゲームで出てたら調べてたのに…。
・・・あと、参謀様の名前が覚えられてないんだね
戦闘ウィンドウが出る、大勢の敵意むき出しの視線と言葉に囲まれてちょっと怖い
「いくよ! 魔法攻撃アップ!」
「はうぃ!魔法防御ダウン!」
「うん!ファイアーウォール!」
「えと・・えと・・」
「千ちゃん1回目終わったから大丈夫だよ、すぐ2回目になるけど休んでて?」
「はい、ありがとです!」
前の3人、横の3人、後ろの3人、前の3人・・と全部で6回の戦闘が行われて全て一撃で気絶させられていった。中にはまだ12歳くらいの子もいて罪悪感がはんぱない。
千 LV.22:母想いの暗殺者,9歳(*不老、不死)
HP:25 MP:20 ATK:73 DEF:10 MAT:5 MGR:15 CT:61
報酬は大して無かったけど千ちゃんのレベルはかなり上がった、やっぱりATKのみ特化されてて他が弱い、SPDがあれば速さでカバー出来ただろうけど1人戦闘は厳しいね、小屋の時みたいにバラバラで戦闘になる可能性があればちょっと考えないといけない。
千ちゃんは感動したように倒れてる人を少し離れて観察してる。
「はぁ…へぇ…無理ですかとぉもいましたぁ…」
戦闘が終わってみのりさんが座り込む、対応の良さと裏腹にかなり緊張していたようでちょっと涙目になっている。あれだけ囲まれたらそうなっちゃうよね…、強力な敵でも少数と対峙するのとでは精神的に違うところにきたもん、マルシカクちゃんと休みたい…
屋敷の方からの対応はまだだけどやってくるだろうからはやくお母さんを見つけないと、先にさっきの戦闘の気になるドロップ品を確認しようかな、ポーズ!
『この場面の『気絶している人』は変わるまで維持されます』
・・・よく分からない、けど今倒していた人たちは少しの間はこの状態ってことだね
アイテムから『秘密のメモ』に▶を合わせて押してみる
『このアイテムは使えないアイテムです
*偉い人に渡すことで物語が進みます』
ゲームか!? ・・・ゲームではあるか!、さっきの表記はこれに関係してる
起こってしまったこの出来事自体をすぐに〝イベント〟として後から組み込んだのかな。本当に私を〝主人公〟としているんだね、みのりさんとか千ちゃんとか勇者様に関わることがないけど大丈夫ですか? そもそも四天王も既に・・・私には関係無いか、マルシカクちゃんとずっと居られればそれで幸せな一生だよ。
〝偉い人〟これはゲームをやっててカナカナの町まで来ている人なら想像出来る『王様』だろう。
問題はそんな御方にどうやって渡せるのか。
騎士様にでも渡して届けてもらうのか、何か民の声でも届けられる場所でも出来ているのか。私だけで考えても浮かばないので相談しよう。
ポーズを解除して状況に対処するために秘密のメモの内容を話すとマルシカクちゃんが「ちょっとまって」と目を瞑って集中し始めた
《武器屋の裏にある宿屋に併設された酒場に行け》
「ぶきやのうらのやどやにへい・・・さかばにいくみたい」
マルシカクちゃんが道を示す時はそこに何かあった、今回も絶対そうだ。 武器屋はあるけどそこに宿屋は無いから分からないけど酒場に行けばいい、へいは何だろう、平?閉?…宿屋に・・酒場、宿屋に併合したか!
「千ちゃん、お母さんは今じゃないみたいなの」
今ぐちゃぐちゃの状況で助け出すチャンスだろうけど今じゃないみたい、考えてみれば私たちの方が悪人の状況で人攫いになる可能性が高いしね…、これだけ荒らしておいて今更だけど。
「え?主様は?お母さんは今じゃないって何?」
「マルシカク様を信じて下されば大丈夫だと思います」
みのりさんの説得力は何か信じさせる何かがあってさすが聖女様だと思う
「うん、分かったよ! ユウナちゃんとマルシカクちゃんを信じるね!」
・・・うん? ありがと。みのりさんも微笑んで頷いているし自分より私とマルシカクちゃんなんだよね
・・・。
どのくらい歩いたか、やっと内門に戻ってきました。疲れたけど、今度はそこから続く道を真っ直ぐ歩いていくと武器屋が見えてきた。外を歩く人があまりいないせいか町って感じがないけど時折人力車は走っていたり止まっていたりするから活動はしているね。
2軒先の脇道から裏に入り少し進むと、道にあたったので曲がり折り返し進んでいるとベッドにハートマークが書かれた看板がぶら下がっているお店を発見!
「宿屋だね・・・だよね?」
ちょっと高級感も窺えてなんか入りにくい。場所は感覚的に位置は間違ってなさそうだけど
「場所によっても違うのでしゅね…」
「あのね、お金持って無いの…」
「千ちゃんのお金は私が今はね預かってるから大丈夫だよ」
たしかにお店に入るからにはね、マルシカクちゃんが予言?したから何も無いは無いと思うけど。
酒場があるなら何かに使えるかもしれないから買ってもいい。年齢制限あったら無理だけど。
緊張しながらお店の戸をくぐると高級ホテルのロビーを縮小した感じで萎縮してしまう、辺りを見回してみると右側には木の感じのする部屋があってその前に『酒場』の看板がある。
「本日は・・・?」
店員さんだ、含みのある言い方で語り少なに要件を問われる
「酒場に用事がありまして!」
代表者として答えると手でソッと『酒場』を差される。通っていいみたい、なんか悪いことしてるみたいな雰囲気。
酒場の扉を開くと静かに語り合うお客様たちが数名いた、酒を飲んでいたり触れ合っていたり色々だ。
カウンターのような場所の奥にはマスターがいて目があった。
「いらっしゃい!ませー? お嬢様たち?」
対応しに来たのは何かの花の匂いのする女性店員、格好が薄い…。私たちが酒場の客には見えないのだろう疑問形だがすぐにピンっときたように顔を寄せてくる
「・・・もしかして何か情報が欲しいのかな?」
情報?って聞き返そうと思ったら頭に声がする
《尋ね返してはイケナイ》
「・・・は、はいそうです」
それはイケナイのかと代わりにどう言うか考える、酒をとか何か言おうにも無理がありそうだったので乗ることにして肯定した、すると女性店員はニコリとすると席に案内してくれる。
私たち4人を見回して軽くため息を吐く
「サイレンス!
はい、これで周りには何も聞こえないの
お嬢様たちがどこでここを知って何をききたいか分からないけど、聞くには対価がいるの。大丈夫かしら?」
真面目な顔で尋ねられ、「対価はどのくらいですか?」と質問すれば「内容次第」と言われる。
「でもねぇ、可哀想だから少し教えてあげるけど簡単な情報でも2000Gからよ、ビビっちゃったかしら?」
あれ?安い、どんなに危険で機密系でも50000Gあれば足りそう
なので「お願いします」と頼んでみると挑戦的な顔になって頬杖をついて待つ態勢をとっていた。
「王様に渡したいものがあってどうしたらいいか悩んでいたんですよ」
「!?、王様って、王様かしら? 間違いではないかしら?」
「は、はい」
「何を渡すかはきいても・・? もちろん強要はしないわ、義務ではないから」
おそるおそるといった感じで尋ねてくる。
危険物かもしれない、王に仇成す輩かもしれない、口止め込みなら料金は跳ね上がる。何も知らずに来ていそうな目の前のお嬢様たちにも説明はできない、可哀想だけど〝上乗せ〟なんて知らないだろうと女性店員は気の毒に思う。
一方、ユウナは少し考える。秘密のメモはメタルリング家に関係してると思ってる、情報が得られそうだけどこの返答次第で進めなくなるかもしれない、相手は王様だから機会は得られるもんじゃない。のでここは素直に話すべきだと秘密のメモを取り出して渡した。
渡された女性店員はポカンとして、これ?って感じで拍子抜けだったらしい。この店の人にとって、今回のような場合に重要なのは内容物であって、渡すのが情報だった場合に判断するのは届け先の人であり自分たちは関係ないのである。
「分かったわ、中身は見せなくていいわ。
これを、届ける方法を知りたいのね?」
「はい、出来ますか?」
「あなたたちは運がいいかもしれないわね。ええ、可能だわ。
ただ!わかっていると思うけれど情報料は前払いで出してもらうわよ」
「はい、いくらでしょうか?」
「フフ、中々胆力があるのね♪
そうね、相手が相手ですし簡単とはいえ(重要性は高くて値段が)高くなるわね。 全部ひっくるめて3780Gね、これで最大限の支援をしてあげるわ、値引きは無理よ」
「・・・え?」
「フフフ♪」
この緊張感との差のあまりの安さに呆けてしまう。女性店員は本来より値引いたとはいえ莫大な金額に驚いていると勘違いして反応を楽しんでいた。
「あ!そうですか、これでよろしくお願いします!」
「え? 承りましたわ
ちょっと待っていなさい」
驚いたのも一瞬、すぐにお仕事モードに切り替わった女性店員は離れた席に座る男性2人で肩を寄せ合って席に座る人たちのところに行ってしばらく何かを話していた。ここからだと絶妙な場所に置いてある観葉植物でよく見えないけどこの話の事だよね
「はふぅ・・・ユウナ様はすごいですね、わたくしは緊張してしまい話せそうにありません…」
「おねえちゃんだからね!」
「でも気を付けてね、あの人も千と同じで持ってるよ」
何をかと思ったらナイフみたいな暗器だという、やっぱり危ない仕事の人だもんね…気付かなかったけどさすが訓練を受けてきた千ちゃんだ。
それなりに待たされたら、さっきの女性店員は話しかけていた2人の男性を連れてくる、2人共顔が赤いから飲んでいただろう・・・お互いに腰で手を組み合っていてなんか動かしていてにやけている、気持ち…コホン…。見た目は若そうで20代ってところ、一人は髪が腰の上辺りまできている長髪でもう一人も肩下くらいまである、同じ髪色だ。
「サイレンス!
お待たせしたわ、こちらの2人にさっきのことを話して欲しいの。自己紹介しなさい!」
「えへ、えへへ、ふふふふふ。ぼくはぁ、ヴェルハイトだよぉ!よろしくねぇ」
長い方が先に自己紹介、酔っぱらいだ。
ヴェルハイト・・・?
「わたしはヴァルバです、協力してあげましょう」
短い方は割としっかりしている、でもサスサスと兄(の尻)を撫でる手が止まっていない。
ヴァルバ・・・マジですか!? 2人は王子だ!
名前で分かる通りのメインキャラで王様の近くに左右で立っている王子兄弟、この町を出て北側にある祠で試練を経て『勇者の盾』を手に入れられるクエストの情報役であり、勇者一行が捕まるイベントがあるのだけどその捕縛役のちょい役でも活躍する。ただ、2人は「いずれ王になるのは僕だ」と競い合ってて仲が悪い設定であった。
弟のヴァルバ様が私とみのりさんの視線に気付き手を止めるとヴェルハイト様が「なんでぇ止めちゃうのぉ?」って甘えた声を出した。
「この通りなので申し訳ない、続けさせてもらうよ?」
この王子兄弟は恋人かもしれない、だからこんな場所にいるのかもしれない。
困った顔を見せているが嬉しそうだし、見ないふりして許可を出した。
「えへへへ、ふへ。
そ~れ~で~? な~に~か~な~?」
内容は分かっているだろうけれど〝私たちが依頼した〟ことを明確にするために内容は知らないと尋ねてきた。この兄様は弟様をフォローした、酔っていてもしっかりしている。
「私の独断で協力をして頂こうかとお声をかけさせてもらったのですけど、困っていて私では力及ばずに助けられそうに無かったので、このお嬢ちゃんたちのお力になって欲しいのですわ」
女性店員はヴェルハイト様を見ると彼はそのままヴァルバ様を見る
「それで呼ばれたのか、こんなか弱き少女が困っているのであれば、わたしの力が及ぶ範囲で協力致そう」
「見ず知らずの私たちのためにありがとう御座います」
それではと女性店員は去っていった、運がよかったってこれか。交渉までしてくれて最大の支援をしてくれたんだね。
私は秘密のメモを出して、どうにかしてはやめに王様に届けたいことを話した。
「中を確認させてもらうけど、承知してくれるか?」
「どうぞ」
ヴァルバ様は何回か折り畳んであったメモを開いて目を通していった。 結構長文なのか時間はかかったが読み進める内に赤みが引いて眼光が鋭くなる。
内容が分からないけどなんか怖い…
「そうか、そうなのか
君たち、これは本当だね?」
「はい!」
何か分からないけど〝事実〟だとはわかる
「〝兄ちゃん〟はここまでだ」
「ふぁ~、ざんね~ん。
・・・はい!ヴァルバよ」
2人共、始めからアルコールなんて入っていないとばかりに急に凛々しくなった、みんな感心している。
「お嬢様方、悪いけど僕らのお家に来てくれないだろうか?」
「はい、分かりました」
こうして王子様のお家に行くことになりました。