プロローグ
今から3年前に話題になった新作レトロ風ゲームを買った私はちびちびとやり込み続けてついに今日クリア率80%を達成したのだった。
・・・。
そのゲームのタイトルは『勇者のRPG』である。
タイトルからも想像できるような昔懐かしいRPGゲームであって、前宣伝も無く急に発売されて「この時代に!?」や「カクカクした画のゲームなんて初めて見た!」とか結構な話題になっていた。
しかし、話題だけで売れ行きは良くなかったようですぐに発売中止になり見なくなってしまったのだった。
・・・。
当時、高校三年生だった私はゲーム屋でひと目見た瞬間に絵と裏の説明を見て、その世界観に惚れ込んでしまった。
経済状況から無駄遣いは許されなく、その時は泣く泣く購入しなかったのだが家に帰ってからもやっぱり頭から離れずにいて、気付けば貯金を引っ張り出して次の日には買いに行ってたのだ。 生活に全くの余裕無いのにね・・。
私の家は父子家庭で二つ違いの弟がいる、それでゲームを買ったことを報告したら父は笑顔だったけど弟にはくどくど言われてしまった…、仕方ないけどあれは自分が悪いだけに堪えたなぁ…。
さらに問題だったのは本体が無いの!! 気付いたのは「やってみよー!」とテレビの前に着席した時だった
「あんた馬鹿か?」
弟からの視線が痛かったよぉ!
泣く泣く諦めてゲームは売るか悩んでいたら弟は少し考えてから「明日まで待ってくれ」と言って何処へ行くのか素早く外に出掛けて行ってしまった。
次の日、学校も終わり家に帰ると弟から「はい」っとあのゲームのゲーム機本体をプレゼントされて戸惑いよりも嬉しさが極まって抱き付いてしまい頭を叩かれてしまったのはいい思い出だ。
どうやら、友達も高校に入り近々ゲーム全般を売ろうとしていたみたいでその友達が安く譲ってくれたみたい
「どうしよう!その友達に私の(裸の)写真でも渡す?」
嬉しさで興奮していた私は、年頃である弟の友達が喜んでくれそうなお金が掛からないお礼を考え、すぐに浮かんだことをそのまま言ったら弟に怒られてくどくどと長い説教をされてしまったのは最悪の思い出である。
そんなこんなでやり始めた『勇者のRPG』だが、私はどハマりしてしまった。やりこみ要素満点と書いてあったが、いわゆるイベント事やアイテム等で「???を埋める」作業が楽しい! 全く想像つかないことでしか埋まらない、難易度も難しく楽しかった。
・・・。
勇者のRPGを購入して3年が経ち私は会社員であり元気に働いているが中学生の時からのとある趣味に中々赴けなくなってしまったのが泣きたくなった。
まぁ、それはそれとして家ではゲーム三昧のダメ人間である、と言っても相も変わらずに『勇者のRPG』一筋であるが!
今日も仕事が終わり(気分的に)走って帰るとゲームをセットしてテレビに向かう、そして父に苦笑いされながらご飯を作って出してくれるまでがいつもの流れであった(弟は仕事が決まると同時に家を出たのでいない)。
しかし、さぁ今日も!とゲームを起動するとテレビ画面にいつもと違う映像が出ている。
勇者のRPGでも使われている会話の文字ウィンドウが画面の中心に表示され文章がパラパラと書かれていく。
『おめでとうございます♪
あなた様の『勇者のRPG』においての愛に感謝致します♪
つきましては、あなた様に『勇者のRPG』の世界に御招待致しましょう♪
*ただし戻ることが出来るかはあなた様次第です』
そんな文章だった、その下に『▶はい、いいえ』と出ている
「お父さーん、ちょっと来て」
「なんだい?」
とりあえずご飯を作ってくれている父を呼んでみることにした
「これは、バグ?とかいうやつかい?」
普通に考えたらそうなのだろうけれどタイミングといい、注意書きまで載っているところをみるとそう思えなかった
「分からないけど多分違う、この『戻ることが出来るかは』っていうのもおかしいと思うし、招待を受けたら、もう帰れないと思うんだよね」
「・・・これは、うん・・たしかにね
どうするのがいいのか父さんには分からないなぁ…
優那が決めていいよ、父さんには分からないけれど、これは今限りのことだよね?」
「多分…」
父は料理に戻ってその間に考えることにした。
・・・行ったら帰ってこられない、少なくても帰れる確率は低いのだろうなぁ
正直な話、それ自体はそこまで気にしてないんだ。
でも、一番気掛かりなのは・・・
「はい、お待ちどうさま
父さんのことは気にしないでいいからね、御招待を受けたいなら受けてみればいいよ。
弟や会社にはなんとか言っておくから」
「・・・なんで…」
「優那は優しいからいつでも父さんやゆうやを一番に思ってくれているからね♪
後、子どもたちとこのゲームもかな」
優しくウィンクして笑いながら最後を付け足した
自分のことをよく分かってくれている父に嬉しくなると同時に、会えなくなるのは寂しいなと感じた。そして、〝受ける〟と決まっていたんだなと再確認された。
「・・・そうだね、御招待されてみたいな!
お父さんのご飯食べたら行ってくる!」
「分かった、気を付けて行ってらっしゃい♪」
「うん♪」
こうして最後になるかもしれない父の料理を味わって食べて『はい』を選択して決定するボタンを押したのだった。
『では、明日の選択をしたこの時間に必要な物は全て身に付けてコントローラーをお持ちになり待機していていて下さい』
そうした会話が表示され、少ししたらいつものゲームタイトル画面に変わった
「・・・今じゃないの!?」
ちょっと気まずく恥ずかしかったよ。
結局、自分で会社に連絡、それまでに自分の貯金も全て引き出して父に全て渡した。
・・・。
ドキドキしながらコントローラーを握る、身に付けていれば持っていける(と解釈している)からリュックに詰めて背負っている。 刻一刻と時間が長く感じる。
・・・トイレ行きたくなってきた
「もう時間だね、こっちは心配しなくていいから楽しんできてね♪」
「うん! 大好きな世界に行けるなら本望だよ
ゆうやも頑張ってね!」
最後になるかもしれないということで弟も来てくれた、よく怪しい勧誘みたいなのに乗ったなとかブツブツ言われたが寂しそうな顔でたまにチラチラ見られるのには私も寂しくなってしまう
正直、非現実的過ぎる話に何も起こらないんじゃないかとも思っていたが時間になった瞬間に声を出す暇も無く私の体が光で包まれて何も見えなくなってすぐに何も無い電子的空間に移動していたのだった。
・・・。
『勇者のRPGの世界であなた様には『ゲーム機能』が使えます』
いきなり目の前に文章が表示されて驚いたが私は落ち着いていた。
・・・本当だった
『あなた様の〝身体〟はこの部屋で保管されます
『勇者のRPG』の世界での〝自分〟をつくって下さい』
自分をつくる? どういうことと思っていると目の前に自分が現れて声が出てしまう。
「裸だ・・・。でも凄い!」
全裸の自分の姿を見るのは恥ずかしいけれど見られたくない下の部分には薄く白くモヤモヤがあって見えないようになっていた。
観察すると髪や目といった部位の傍に名前の項目がある、それを、▶で移動出来るようになっていたので何をすればいいかはすぐに理解出来た。
私はコントローラーを持っていたことを思い出してそれで操作していく
「色々、つくってみたいけど・・・」
結局、髪の色を黒色から茶色に変えたことと胸を少し小さくした(元が平均無いくらい)だけで殆どいじくらなかったよ、自分じゃ無くなっちゃうもんね
『ありがとうございました
『勇者のRPG』の世界を末永くお楽しみ下さい』
再び光に包まれると今度は浮遊感をすごく感じて意識が途切れたのだった。
『魂の移動が完了しました』