なんとなく、安心感。なんとなく、鬱陶しい感。
インターネットのニュースに出ているゴシップを見ないで、直接当人に聞けばいいのだが、今はいないし、この話題は聞いていいのかどうかちょっと考えてしまう。イギリス人が出かけていって数日後、新007の記者会見があった。大反響だったようだ。それは、いい意味でも悪い意味でも。ネットで動画を見たのだが、なかなかスーツ姿も決まっていた。「お・・・・かっこいいじゃん。さすが英国人。」とまた独り言を呟いてしまった。カッコいいけど、やっぱり彼からは007の感じがしなかった。他の人も同じように感じたんだと思う。悪い反響というのは、彼へのパッシングがすぐに始まったことだ。全部を追跡したわけではないが(できるわけがない)、髪と瞳の色が今までの007とは全く違うということが槍玉に上がっていた。金髪、青い目の007は今のところファンには受け入れがたいらしい。歴代のボンドはダーク系の髪と目の色だったし・・・・「つまらないことで・・・・いいじゃん。目の色が青でも髪の色が金髪でも。(映画が)できあがってから批評すればいいのに。」とぶつぶつ言っていたら、職場の同僚が 何を見ているのか?と聞いてきた。007の新しいのができるらしい。というと、まだ続いているんだぁと特に関心なく去っていった。まあ、こんな人もいる。映画の主人公が本当に存在するかのごとく恋心を募らせる人もいる。世の中いろいろだ。演じた役柄のイメージでいつまでも見られるのも危険なんだろうな。007はシリーズものだから1作で終わらないで何回か演じることになるだろうか?そうしたら、その役柄が観客に染み付いてしまって、どの映画を見ても007のフィルターがかかってしまわないのだろうか?なんで あのイギリス人は007のオファーを受けたんだろう?聞いてみたかった・・・・けど、今は時期じゃないんだろうなぁ・・・・13時になった。うちの会社は始業・終了のベルもないし、昼飯開始・終了の合図もない。会議が15分後に始まる。007は暫しお預け、さあ、仕事仕事っと。
という感じでいつものようにウィークデイが過ぎていった。金曜日の21時。今、帰ってきたところだ。たった3日しか、それもわずかな時間を他人と一緒に過ごしただけなのに、朝、起きたときや、夜、家に帰ったときに 違和感があるのはなぜだろう。真っ暗で寒い家。なんかガランとしている。他人と一緒に暮らすというのはこういったことなのだろうか?なんとなく、安心感。なんとなく、鬱陶しい感。なんとなく・・・・・・ 「ああ、何を考えてるんだ。ワイン飲もうかな。」また独り言を言って、ボトルに残っているワインをグラスに注いだ。「あ、これは007のワインだ。ま、いいか、高いのかしら?」また独り言。作りおきの料理を温めなおして、いつものお一人様ディナーを終了させた。さっき何を考えていたんだっけ?なんとなく・・・・何よ。「何よ?」口に出すのは怖いが、心の中には人恋しい感という言葉が浮かんでいた。考えていてもしょうがないので、週末のプランを考えることにした。ペンキ塗り・・・ペンキ塗り・・・・ 他に考えられない。最初は寝付けなかったが、いつものことですぐに眠りは訪れた。
大見得切ったが一人でペンキ塗りをするのは大変だった。イギリス人が塗った面と差が出ていないだろうか?土曜日はペンキ塗りで一日過ごし、翌日はまたもや机のペンキ塗りで過ごした。地味だがなかなか創造的な週末だったといえるだろう。夕飯どうしようかなぁ~1人だとやはり、何もする気がしない。適当に冷凍庫にあったラザニアの残りを出して暖めなおして食べた。007のワインももう残り少ない。飲んでしまうと、青い目にまた会えないような気がして飲むのを躊躇った。つまらない考えだが、「残しておこうかな・・・・」と独り言を言って、ボトルに栓をした。いつから縁起を担ぐようになったんだろう。
私に決まった相手ははいないが、たまに会う相手がいる。既婚者だが気が合う。気が合うという意味は拡大解釈すると、話があう、考えるポイントがあう、体の部分もあっているという意味だ。罪悪感はない。相手の家族の構成くらいは知っているが興味を持っていないし、全く違う世界のことだと思っている。彼と私がいる世界と彼の家族とは接点がまるでないのだ。既にこんなのが5年は続いている。寂しくなったり、惨めな気分になったりしないのか?と思う人もいるかもしれないけど、所謂、昔流行った不倫と言う感覚がないので、自分をかわいそうだとは思わない。でも、この頃思うのだ。彼とは仕事でのキャリアも多分給料もひけを取らないから対等だと思うが、一つだけ私にはなくて、彼が持っているのは自分で作り上げた家族なのではないか?と。自己中心的な考えだ。イギリス人が出かけていって9日目の火曜日にその相手に会った。酒を飲みに行ったのだ。「どう?新しい家は?」と聞かれて、適当な答えしか言えなかった。当然だろう。イギリス人のそこそこ名前の知られた俳優と半分だけ同居しているとは、口が裂けてもいえない。
「快適よ 1人暮らし。」
「いつか招いてくれるの?」
「それはないわね。私のテリトリーだから。」
「そうだな。」この間柄では、お互いの領域は侵さないというのが不文律になっているから、あっさりしたものだ。別れて帰る道すがらちょっと悪女ぶって心の中で呟いてみた。そのテリトリーにあなた以外の男性がいるの。あぁ、なんてことを考えているんだろう。
クラーク氏は10日間家を空けると言っていたから、今日か明日には帰ってくるのだろうか?否、帰ってくるのではなくて ねじれた場所で会えるのだろうか?