表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20

焚き火

掃除、洗濯・・・・・・ イギリス人は外出した。共有空間では音楽も制限したほうがいいのかな・・・・テレビ番組はどうしたらいいんだろう?一通り雑用を終わらせて、近くのホームセンターにガーデンチェアの類を見に行ってみた。真冬にそんなものを置いてもサマにならないし、汚れるだけだけど、今日のように晴れている日はしっかり着こんで焚き火でもしたら楽しいのではないか?と思っている。火鉢を大きくしたような陶器製のものが置いてあった。これに炭を入れて燃やしてモノを焼いたり、暖を取ったりするらしい。「いいな~これ。すぐ使えそう。」 と独り言を言いながら、周囲を何回も回ってしまった。共有空間については同居人に相談したほうがいいのかな、とも思ったが、ほとんど家にいない同居人だからいいだろう・・と思い直して、前から目をつけておいたガーデンチェア、テーブル、その火鉢を買って即配を頼んだ。3時間くらいで配達させますとのことだ。帰宅しても、イギリス人はいなかった。このままいなくなるかもなあぁ~とも思いながら、台所のブルーの食器とイギリスビールを確認してしまった。3時間どころか帰宅して30分もたたないうちに全ての品が届いた。梱包を解いて配達のお兄ちゃんに手伝ってもらって組み立てと配置をしてみた。レンガのデッキはもう少しきれいにする必要があるかもしれないけど、結構いい感じだ。炭を入れて、苦労しながら火をおこしてみた。「昼飯がわりに、お芋でも焼いてみますか・・・・」と独り言を言いながら、アルミホイルに包んだサツマイモを赤々と燃えている炭の傍に置いた。炎をみながら、暫く意識が飛んでしまった。私はこれから、どうなるんだろう?お一人様は結構、気楽。仕事は面白い。無理をしなければ生きていけそう。でも、不安定な世の中でなんとなく一人きりという寒さが染み入ることがある。笑っちゃうのだが、老夫婦がスーパーで買い物をしていたりするのを見ると、ふうぅ~と思ったりするわけだ。あの人達は、なんだかんだ言いながらも一緒に暮らしてきて、いい仲間、助け合う仲間、たまにムカつく仲間なのかしら?なんていらない想像をしたりして。私の家族は両親、兄貴の普通のものだ。でも、私は家族を持たないのだろうか?家族という構成じゃなくても、なにかお互い支えあう相手は要らないのか?若い頃は他人に頼るということを忌み嫌っていたけど、今はそれもいいじゃない?と思うようになった。私はスーパーウーマンでもないし、ごくごく普通の人間だ。頼ったり、頼られたりして何が悪い?何時までも若い頃の青臭い考えに縛られていていいのだろうか?

「・・・・・・・・・・・・ いい匂いだな。何を作ってる?」青い目のイギリス人が傍に立っていた。朝と同じデニムに黒のタートルネックセーター、茶色の革ジャンにごついブーツ、キャップ、マフラーという格好だ。イギリスは寒いのだろうか?

「イギリスは、寒いの?」

「寒いよ。日本の寒さは知らないけど・・・・ この部分(と言って、レンガデッキを踵でコンコンと叩く)は日本かな。」

「そうね。ここは日本かな。だからこの気温は日本の気温。日本の11月の気候でしょうね。」

「そうか・・・で、焚き火?」

「そう。この家に住むことを決めた時に、このレンガデッキにこんな空間を作ろうと思ってて・・・・」

「朝はなかったな。」

「さっき買ってきた。で、お芋を焼いているの。」

「この匂い?」

「そう。食べる?」

「いただこうか。」ボーっとしているうちに、火が落ちてきた火鉢から火箸でアルミホイルを取り出して芋を二つに割った。

「あ、熱いから、軍手を片方あげる。」と言って軍手ごと焼き芋をクラーク氏に渡した。「どうも。」 と言って焼き芋を恐る恐る食べるイギリス人の姿は結構イケテいた。

「何を笑っている?」と熱い焼き芋で十分に口をきけないクラーク氏が聞いてきた。

「なかなか、面白い光景だと思って。」

「何が?うまいよ、これ。」

「イギリス人、それも俳優が焼き芋を食べているのを初めて見たから。」

「芋くらい食べるよ。僕だって。」とちょっと笑いジワが寄った。

「君だって、火にあたりながら、ボーッとしていて 面白かった。

「なんで?」

「寛いでいるなぁ・・・と思ってさ。この家が好きなんだな。」当然でしょ?という顔をして、

「まあね。一目見て気に入ったの。だから、すぐに住んでみたいと申し入れて・・・・」

「一ヶ月前に引っ越してきた、ってことか。」

「そう。この家、どうやって見つけたの?」

「いろいろと見て回って・・・」そりゃそうだろう。見て回るよね。でも、ちょっとクラーク氏の顔が曇っている。なんかまずいことをきいたかな。

「ここがいいと決めたってことね?それで、これからいろいろとセットアップしようと思っていたんだ?」

「まあ・・ね。」 この話は止めたほうがいいらしいと思った。なんかクラーク氏は他のことに思いを馳せているようだったし。日が翳ってきた。少し風も出てきたようだ。

「寒くなってきたから中にはりませんか?」とどこかに行ってしまっているイギリス人に聞いた。

「ああ、そうだね。芋、美味かったよ。ありがとう。」

「どういたしまして。」と私は中に入りながら、なんだかまだ、外にいたそうなクラーク氏を残して中に入った。時刻は16時。夕飯の支度をするか・・・でもお芋のせいか満腹だし。「仕事部屋でも作るかな・・・・」 と共有空間ではないと思われる1階の空き部屋に入っていった。この部屋はリビングの隣でほぼ南東に向いていて、だいたい10畳くらいある。夏は少々暑いかもしれないけど、大丈夫だろう。フローリングの床はワックスをかける必要がありそうだし、誰かが置いていった古い木の机も塗りなおしたほうがいいかもしれない。まずは明日それをやるとしよう。またホームセンターに足を運ばねばならない。そんなことを考えているうち2時間以上経ってしまった。イギリス人はまた外出したようだ。私は、ミネストローネ作成に取り掛かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ