僕は気長に聞く気だよ。一晩かかっても。
その晩。イギリスサイドの巨大ベッドの中で青い目が聞いてきた。
「来年1月からほとんど家にいられないんだ。撮影が本格的に始まる。いろいろなところに行くけど、主にアメリカにいる。」
「うん。わかってる。」
「だから、年末は一緒に過ごしたいんだけど、どう?行けそうかい?」
「23日から休みを取りました。」
「じゃ、おいで。」
「あの・・・・・会話がうまく続かないと思う。言いたいことが、こんなにスラスラ出てこないし、イライラすることもあると思うけど・・・・」
「そうだね。でも、それはそれでおもしろいんじゃない?」
「そうかな・・・・」
「そう、思わないと。」
「あなたのことも、イライラさせちゃうかも。絶対、させちゃう。」
「かもしれないけど、しょうがないじゃないか?」
「そうだけど・・・・・」
「今から不安に思ってもしょうがないよ。」ああ、やっぱりうまくいかないや。って青い目に思われるのが不安なのだ。コミュニケーションができるのはこの家だけ。でもこの家がこの力を発揮できるのは何時までなのかもわからない。この家がなくなったら、普通の会話すらおぼつかなくなる。どうするの?そうなったら、私たち。
「この家に頼らなくてもいいようにお互いならないとダメだと思うよ。」私の考えを見透かしたように青い眼が言った。
「私の英語?」
「僕の日本語。お互いに。」
「うん。」
「言葉にするのが一番わかるんだけど、言葉にしてもわからないことって、あるよね?理由なしのこと とか。そんな部分はお互いに感じるしかないんだよ。だから言葉の問題はあまり深刻に取らなくてもいいと僕は思っている。」
「でも、あなたにいろいろ伝えたいことが これからも出てくるよ。」
「例えば?」
「う~ん、普通にきょうあったこととか 面白かったことか・・・・」
「自分がどんなに“感じている”とか?(苦笑)」
「あ、からかってる?」
「いや、まじめに。気長に聞くしかない。僕は気長に聞く気だよ。一晩かかっても。(苦笑)」
「あ、また・・・・」
「まじめ だって。」聞いてみよう・・・・・
「やっぱり、うまく通じないや って、嫌いにならない?」無言。あ、ムッとしてる?見えないけど、眉間に皺?
「なんてこと、言うんだい?君は・・・・」と起き上がって こちらをじっと見ている。
「その質問、そのまま 君に返すよ。どう?答えられる?」
「嫌いにならない。でも、ちょっと落ち込むかもね。」
「そんなことで、落ち込まない!だいたい、同じ言語で喋っているのに、一生わかり合えない人達ばかりなんだよ。周囲は。」そして、ニッコリと笑って私に覆いかぶさると彼はこう言った。
「君にはしつこいくらいに『好きだ』って言っているけど、本当は違うんだよ。」
「!?何?それ!?」驚く私。ああ、違うんだ。私の勘違い?この家の変換能力の衰え?
「少し意味がね・・・」と唇が触れる。
「何?」
「違うんだよ。」上唇を噛んでいる。
「何?」
「『愛している』と言うのが正しいかな。」
「ひどい・・Daniel」
「何が?」
「また、そうやって、人を驚かしている。」
「マジメだよ。」下唇を噛んでいる。
「君のこと、ちょっと 驚かしているかもしれないけど、本当のことだよ。君は?」
「え?」
「君は?」唇が離れて、私の目を覗きこんでいる。
「き・み・は?」
「あなたのことが いとおしくて、自分でもどうしようかと思っています。」
「イトオシイって?」 あ、うまく変換できてないみたい。
「Love ってこと。」自分でも信じられないくらい自然に言葉が出てきた。あまりにも彼ののことが好きで、自分から彼のことを引き寄せた。