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無理な相談

目が覚めたのは 6時だった。この時間に目が覚めるのは微妙だ。もう少し寝ていてもいいかもしれない。でも、起きて早く会社に行くのも一つの手だ。そして早く帰ればいい。できれば・・だけど。隣の青い目は寝ているようだった。腕は私の体に回しておらず、仰向けでまさに自然体で寝ている。木曜日の朝・・・・イギリスはどうなっているんだろう?外はまだ暗いようだ。巨大ベッドを抜け出して窓際に行った。カーテンを少しめくって外を眺めた。モヤがかかっている。窓ガラスに触ると冷たい。フーッと息を吹きかけて曇らせると 人差し指で 『Daniel. Daniel. Daniel』 と書いてみた。ああ、何、乙女チックなことをしているんだろう?いい歳の大人の女が・・・・げげ・・・・でも、そんな気分だったのだから、しょうがない。いくつになっても、人を好きになるときは こんなものなのだ。青い目を起こさないように、そっとイギリスの部屋を出た。見慣れた廊下と私の部屋のドア。コーヒーを入れて、さっさと用意をしていつもより1時間は早く家を出た。

風邪はなぜか完全に抜けていた。集中して仕事ができたし、なぜか異様に気分が盛り上がっていた。これは青い目効果か?恋する女は自然と力が沸いてくるものなのだろうか?この気分の盛り上がり方が少し怖かった。盛り上がったら、下がるときがくる。その落差が正直いって怖かった。でも、今はその気分のまま行こうと思った。18時過ぎに会社を出て東京駅のデパ地下で適当に惣菜を買って帰宅した。家は真っ暗で青い目はいなかった。「今日はどこかに行く日だったんだ。」と呟いて、食事をせずに暫く待ってみた。特にメモもなく、連絡もない。私から連絡をしていいものだろうか?迷った。仕事中かもしれないし。23時になった。とうとう0時。ワインを舐めながら起きていたが、明日がある身なので「寝るか・・・・」と又呟いて自室に引き上げた。寝る前に青い目に会えなくて寂しかったのは事実だ。なかなか眠りが訪れず、ベッドの中で寝返りばかりうっていた。1時。部屋の前に誰かいるのが気配でわかった。青い目だ・・・・ 小さなノックがしてドアが少しだけ開いた。抜き足差し足でベッドに近づいてくる。ベッドが軋んで 青い目が 座ったのがわかる。「『ただいま。』なんて、言うの変な感じだな。でも、ただいま。」何か言ったほうがいいだろうか?青い目は私の髪の毛をなでて、頭にキスをした。なかなか、ロマンチックじゃない?青い目。薄く目を開けて、今起きたような顔をして言ってみた。

「おかえりなさい。」

「起こした?」

「大丈夫。あまりよく寝られなかったから。」

「そうか・・・・」

「おやすみ。」

「多緒?」

「ん~?」

「今日はこっちに来てもいいかい?」目がパッチリと開いてしまった。

「ベッド小さいけど?寝られるかな?」

「そうだな。こっち、来る?」

「ん~」

「おいで。」と言うと、イギリス人はベッドから私を抱えあげた。そんなことするか?

「自分で歩けるよ。」

「遅い、もう抱き上げちゃったんだから。」そのまま、日本サイドを出てイギリスサイドに連れて行かれ、巨大ベッドに下ろされた。掛け布団の下に潜り込むと、だんだんと暖かくなってきた。安心したからだろうか?眠くすらなってきた。巨大ベッドに青い目が入ってきた。

「多緒、寝た?」

「ん~」

「眠い?」

「なんか、眠くなってきた。」引き寄せられて、抱きしめられた。コットンのTシャツの肌触りと歯磨き粉のミントの匂いがする。気持ちいい。

「暖かい。気持ちいい。」と言ったら、笑われた。顔は見ていないけど、胸の動きでわかったのだ。

「笑ってる?」

「まあね。」

「でも、気持ちいいから。」

「僕は君が小さいから押しつぶしてしまわないか、心配だ。」

「よく寝られない?」

「いや、こうやって押しつぶしたら、どうなるのか?と考えるときもあるけど。」と言って、私の上にのしかかった。

「く・・・・く・・・・苦しい。重い!」青い目はクスクスと笑うと体重をかけるのを止めて、昨晩のキスの続きと思われるものを始めた。

「昨日の続き?」と聞いてみた。

「そう。君は昨晩、『残念だけど、止めて』って言ったから。」

「あなたは 『残念』って思わなかったの?」

「思ったから、今、続きを始めた。続けてもいい?」

「正直に言っていい?」

「いいよ。」

「今日は『ダメ』って言わない。」

「了解。」また、俳優はキスがうまくないとダメなのかと思った。聞いたら、きっと怒るだろうな・・・と思ったから聞かなかったけど。キスを続けながら、パジャマの上をなぞっている。胸、腕、わき腹・・・・・外腿・・・・・内腿・・・・ いつかはパジャマも脱がないといけないのかしら??背中の筋肉。どうしてこんなに肉厚(笑)なんだろう?

「背中、筋肉ついているの?」

「007のために鍛えてるから。多緒?」

「ん?」

「自分でパジャマ脱ぎたい?脱がされたい?」何を聞いてくるんだ?この人は?慌てて起き上がると

「じ・自分で脱ぐ。後ろ向いてて!」といって、奴が後ろを向いたのを確認して脱ぎながら

「どうして、そんなこと、聞くの?」

「え?」と振り返ろうとするイギリス人を制しながら聞いた。奴は

「聞いたほうがいいかな?と思ったから。」とまたクスクス笑いをしながら答えてきた。

「からかってる?」

「ちょっと。」と言われて、ちょっとムッとして後ろ向きになっているイギリス人のTシャツを無理に脱がせてしまった。イギリス人の裸の背中に体を寄せて耳元で

「どうしてそんなに、私をからかうの?」と聞いてみた。青い目は

「君が戸惑う顔、好きだから。」と言いながら私のほうを振り向くと、すっかり裸になっている私を組み敷いてしまった。

「本当は脱いでいる姿も見たかったのに。」

「ダメ。」

「なんで?今は裸なのに?」

「恥ずかしい。」

「君は僕の寝起きの裸、見たじゃないか?」

「偶然見ただけ。」

「本当に?」

「偶然です。」

「ほんと?」

「あなたが起き上がらなきゃ、見ませんでした!」青い目がニヤニヤ笑っている。

「あなたみたいに鍛えて、腹筋が6つになったら見せてあげます。」

「ほんと?でも、いいよ。今でも。」と言ってキスをしながらわき腹を触っている。

「腹筋なんてつけなくていいよ。今のままで。」キスは唇から首筋に移動して・・・・もう少しで胸に届きそうだ。手がわき腹からその下のほうに移動している。岡本多緒、イギリス人にいい様にされている・・・・だから・・・海千山千の青い目には気をつけないと・・・・ と思ったら、声が出そうになった。否、出ていた。

「好きだ。その声。」今までにないような艶っぽい声で囁かれて、思わず赤くなったのがわかった。

「声なんて、出してないでしょ?」

「出した。ほら。」と言って、また・・・・どこか微妙なところに彼の手があった。小さく声が出た。「ね?」

「クラークさん!」

「だめだよ。Mr.つきで呼びかけちゃ。好きだ。多緒、その声。」と私の目を見ながら言っている。人が一生懸命耐えているのに・・・・・・ダメだって、そうやって遊ばないで・・・・・

「からかってる?」

「まじめ。こんなときに、からかわない。」

「・・・あ・・・・・・・・・」

「その声。」と言いながら私の反応を見ている。青い目をまっすぐに見つめて、イギリス人が何を考えているのか推し量ろうとした。悪戯をしているような目ではなく、優しい目をして私を見返している。

「Daniel・・・・・ 私・・・・」

「うん?」

「Daniel・・・・・わたし・・・・・・」

「うん。」私の言いたいことがわかった彼は体勢を少し変えて、中に入ってきた。彼が・・・動くたびに声が出てしまう私がいた。どうしよう、抑えられないのだ。

「多緒。もう、どうしようもないよ。」青い目も目を半ば閉じている。

「ん?」意味がわからない。

「どうしようもなく・・・・・く・・・・・」

「どうしようもなく・・・・?何? あ、Daniel ダメ。」

「ダメだよ多緒。そんな・・・・」

「何がダメなの?」

「ダメじゃなくて・・・・君・・・・・」意味が通じない会話が繰り返されている。

「ヘンな会話・・・・」ちょっと動きが鈍くなって、彼はわたしの額から頬にキスをしながら言った。

「ヘンな会話じゃないよ。」言っている意味がわからない。

「意味が通じない。」

「通じていると思うけど?」と動きが再開された。前よりももっと目指すものがはっきりしているような動きだ。

「意味が通じるように言おうか?」 彼がかすれたような声で耳元で囁いている。

「うん・・・ん・・ぁ・・・」同意しながらも、必死な私。どこかに行ってしまいそうだったから・・・

「多緒、僕は今、どうしようもなく感じている。多緒が感じているからだ。ダメだそんなに感じちゃ。もっと多緒の中にいたいのに。どう?わかった?」

「・・・・・あ・・・・・Daniel・・・・・・・そんなの無理・・・・あなた、ずるい。あなたがそんなことするから、私はこんなになっているのに・・・・感じちゃダメなんて。」

「多緒・・」 こんな最中に私たちは喋りすぎだろうか?

彼が私の中からいなくなった後、暫くの間は口を聞かなかったけど、結局私たちは更にベッドの中で喋っていた。

「ねえ、聞いていい?」

「何?」

「感じちゃダメっていうのは無理な相談だと思う。」頭を持たせかけていたイギリス人の胸が大きく上下している。大笑いだ。

「そんな!笑わないでよ!」

「だって・・・・」と肩肘で起き上がると、私のほうを見て更に吹き出して(失礼ね!)、必死で笑いを止めて、ちょっとだけ まじめな顔を作ってから

「あのね。感じてくれたほうがいいんだけど・・・」

「けど?」

「何て言ったらいいのかな・・・(と天井を仰ぎ見て)あ~っと・・・・・耐えられなかったんだよ。多緒のが気持ち良過ぎて。だから、思わず、そう口走った。」そんなこと、言われたことないし・・・・どんな顔をすればいいのだろう?これは光栄なことなのだろうか?顔、赤くなってないか?何も言えないし。イギリス人、照れくさそうに笑って、私の目を覗きこんだ。右手の親指で私の頬をなぞると、唇を寄せてきた。キスをしながら、こんなことを聞いてくる。

「多緒が感じてくれるのは、とってもいいことだと思う。もっと、あの声が聞きたいんだけど?だめ?」「・・・・・・・・・・私も好きよ、あなたの声。」

「からかってる?」

「ほんと。」

「聞かせてあげるよ。多緒が『もう十分』って言うまで。」


結局、朝まで喋ったり、キスしたりで時間が過ぎていった。今は朝6時。

「眠い・・・・でも、起きないと・・・・・」

「今日は何曜日?」

「残念ながら金曜日。」

「まだ時間あるんじゃないの?出かけるまで。」

「早く行って、早く帰ろうと思って。」

「了解。僕は今日も遅いと思うんだけど?」

「そう。じゃ、もう少し ここにいようかな。」

「それが正解。」と言ったきり、お互い無口になった。上下に動く胸に頭を持たせかけてウトウトとした。結局、会社には30分遅刻した。


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