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誰かが心配してくれている

日曜日は、ずっと寝ていた。寒気と頭痛があったから。『I’m fine.』 なんてウソだったな・・・と思いながら、頭痛薬を飲んだ。どこでもらったのか知らないが、風邪をひいたようだ。缶スープを開けて温め、パンと一緒に食べた。病気もお一人様で治さないといけない。つらいなあぁ。なんて思いながら、湯たんぽも暖めてベッドに潜り込んだ。熱が何度あったか?そんなの計ったら、さらに具合が悪くなる。翌日は会社の日だが、午前中は病院に行こうと決めた。

ノックの音がする。

「多緒」と呼びかける声もする。誰だろう?呼びかけているのは?半分目覚めて、現実の世界でノックの音がしているのを確認した。ベッドから出たくない。誰?私は具合が悪いんだから・・・寝かせてよ。「誰?」 と苛立ちを隠さない声音で言ったら、

「大丈夫か?」と青い目の声がした。へ?今日は火曜日だったっけ?具合が悪すぎて1日死んでいた?

「大丈夫か?多緒?」とまた声がした。どう答えていいのかわからなくなっていたら、ドアが開いてイギリス人が顔を見せた。

「大丈夫か?どうしたんだ?あ~やっぱり。」

「やっぱり、って何よ?」としわがれ声で答えた。

「『I’m fine.』ってウソじゃないか。部屋から音が聞こえるから仕事に行っていないと思って、声をかけたんだ。」『I’m fine.』の部分だけ何で英語のままで、発音がいいんだろう?なんてどうでもいいことを考えながら、

「風邪みたい。」とだけ言った。青い目は部屋に入ってきてベッドに腰掛けて、こちらをのぞきこんでいる。こんなにボロボロの私を見せるなんて!と思ったけど、もう、どうでもよくなっていた。

「ひどい顔でしょ?」とちょっと笑って見せた。青い目は

「熱は?」と言って、手を額にあてている。

「なんか、熱いな。」

「今日、何曜日?病院に行こうと思っていた。火曜日?」

「違うよ。月曜日だけど、もう 昼だ。」

「会社に電話だけしないと・・・・それから病院に行かないと。」

「手伝えることはあるか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・ないかも。」 とりあえず、会社に電話して欠勤の連絡をした。その間、イギリス人は台所を探して、紅茶をいれてくれた。

「紅茶でも飲んで。」

「うん。」素直に従う。というか、抗う気力もないのだ。さすが、イギリス人。調子が悪いときは紅茶なのか・・・・なんて又、つまらないことを考えていた。こんな様子だったが とりあえず病院にも行き、注射もし、クスリも貰い、寝ていた。クスリを飲んだせいか、1人でないという安心感のせいか、落ち着いてきた。ボーッとしているが、良くなっているとすら思う。「何時だろう?」と独り言を言った。「22時。」と答える声がする。ベッドから起き上がって、枕にもたれると、そこから遠い場所に知らない椅子が置いてあって、イギリス人が座っていた。なんで、私の部屋にいるのよ?とまず思ったが、口には出さなかった。お礼を言わないといけない。イギリス人は

「よく、寝ていたな。気分は?何か飲む?」と聞いてきた。

「水、ある?」

「待ってて」と言って、イギリス人はちょっと出て行くとペットボトルをもって戻ってきた。一口飲んで、落ち着いた。

「ありがとう。いろいろ。でも、今日は月曜日でしょ?帰ってくるのは火曜日だったんじゃないの?」

「スケがまた変わった。一日早く帰ってきたんだ。」

「そうか・・・・」

「そう。ビックリしたよ。」

「なんで?」

「なんで?って。寝込んでいたじゃないか?」あ~眉間に皺が寄ってる。怒ってるのかしら?

「風邪ひいたのよ。」

「わかっているよ。でも、『I’m fine.』って返事してただろ?」

「その時はそうだったのよ。」

「無理するからだ。僕とそんなに変わらない年齢なんだろ?少しは自分の体のことを考えないと!」変わらない年齢だぁ?私のほうが年上のはず・・・・年長者を敬えよ。

「そうだけど、仕事が忙しくて・・・・・」

「・・・・・・・・・・・体を壊したらダメだよ。」

「そうだけど。」私は、ボロボロの顔、髪の毛はクシャクシャ、目の下にはクマもできているだろう。彼はいつもさっぱりとした短髪。健康そうだ。

「仕事仲間に迷惑がかかるぞ。体調管理がちゃんとできてないと・・・・」

「・・・・・・・・・うん。ごめん。」

「僕も心配した。ちょっと。」

「ちょっと?」

「そう、ちょっと。」と言ってニヤッと笑って続けた。

「だから、一便 早く帰ってきた。」

「ありがとう。」

「どういたしまして。」

「何か食べた?お腹すいていない?」

「病人が他人の飯の心配してどうする?」

「そうだけど。」

「そっちこそ、何か食べたほうがいいと思うよ。スープでも飲むか?さっき台所で見かけたけど。スープくらいなら作れるぞ。」

「・・・・・・うん・・・・・・」イギリス人は部屋から出て行った。一度イギリスパートに戻って台所に行ったのだろうか。ベッドから出て洗面所に行って鏡を見た。あ~すごい顔。全体的に腫れぼったい。髪を梳かして、別のパジャマに着替えてフラフラしながら1階に下りていった。台所で青い目が鍋からスープをすくっていた。私が近くに入るのに気がつくと、

「なんだ、下りてきたのか?寝てろよ。ほれ、スープ。」と言いながら、ボールに入ったスープを差し出した。ボールとスプーンをもってリビングに移動した。

「あ~まいったぁ・・・・・急に調子が悪くなったから、ビックリした。」と言いながらスープを一口。体の中から暖かくなっていく感じだ。今まで1人だったけど、近くに誰か人がいるという安心感もある。

「ひどい顔してるでしょ?」

「そうでもないよ。まあ、でも元気いっぱいには見えないね。」

「どうだった?バハマ。」

「暑かった。」

「それだけ?」

「ビールがうまかった。」

「?(それだけ?)」

「海がきれいだった。」

「?(それだけ?)」

「誰かがメールの返信をしてくれないか、チェックをしていた。」へ?仕事しに行ったんだろ?仕事の話は?したくないのか?

「仕事は?」

「ぼちぼち。」

「それはよかった。」今日のイギリス人は口数が少ないようだ。帰ってきたばかりで疲れているのだろう。

「可能なら、明日も休んだほうがいい。」と無表情に言う。

「そちらも、疲れているみたい。」

「まあね。でも、大丈夫。明日、休んだほうがいいぞ。」

「・・・・・・・・・・・・・うん。」

「多諸?」

「はい?」

「・・・・薬を飲んで早く寝たほうがいい。」

「・・・・・・・・・・・・・・・うん。ありがとう。」

「多諸?」

「はい?」

「なんでもない。」無表情+眉間に皺。怒ってるなぁ。これは。

「メールの返事が遅いから、怒っていますか?」と聞いてみた。

「いや。別に怒っていないよ。」無表情。

「英語がぶっきらぼう?」

「いや、ちゃんと理解できた。」無表情。

「じゃ、なんで難しい顔をしているの?」

「僕の普通の顔だよ。」

「でも、怒っているように見えます。」

「怒っているんじゃなくて・・・・心配している顔だよ。」

「?」

「まあ、ちょっと心配しただけだけど。」とまたニヤッとした。

「ごめんなさい。」なんで私は謝っているんだろう。本当に心配してくれている?のかしら?

「心配、ですか?」イギリス人はまた無表情で頷いている。いつもの私なら、もう少し反抗的な態度を取っていただろう。『私は大人だし。偶然同居する羽目になったイギリス人に心配されて説教される筋合いではない』と言ってケンカすら売っていたと思う。でも今日は、誰かが心配してくれているということで・・・・・・・あ、やばい。涙か?涙、見られてないか?青い目から視線を外して、

「寝るね。ありがとう。」と言って立ち上がった。スープボールを台所に下げ、水を持ってリビングを出ようとした。青い目はソファーにさっきの状態で座っている。

「多緒?」

「ん?なに?ちゃんと休む。」

「そうだな。おやすみ。」

「おやすみ。」声が震えていなかっただろうか・・・・自室に戻った安心感からか涙が止まらなかった。でも、悲しい涙ではない。向かいの部屋のドアが開いて、閉まる音がした。


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