ある意味神になる
おとこ は ふしぎなせかい に まよいこんだ ! ▼
――――俺は、死んだはずだった。
当時の記憶にあるのは、俺は会社員として生活していた。
そして昼休みになったからと、会社の近くにある気に入っている食堂へ行くかと、大きな通りの歩道を歩いていた時だ。
背後のそこそこ離れた場所から「きゃーーー! ひったくりーーーーっ!!」と悲鳴が聞こえてきたのだ。
それで俺と、俺の周囲は立ち止まって「なんだなんだ?」と振り返ってしばらく。
立ち止まった人々の一部がワサワサ動いたかと思うと、パッと見では人相が分からない様にフルフェイスヘルメットをした人物が、ショルダーバッグを抱えて俺の方へ飛び出して来た。
俺が、コイツがひったくりか!?
なんて暢気に察していたら、近付いてきたそのひったくりに「ドンッ!」と突き飛ばされていた。
「あっ……」
なんて間抜けな音が俺から出た直後に、車道の方へ流れていた体の後頭部へ強い衝撃が来た。
あの衝撃は多分、突き飛ばされて車道と歩道を隔てる縁石とかガードレールに頭をぶつけて死んだのだろうと、簡単に予想ができる。
〜〜〜〜〜〜
!!?
気が付くと、目の前にはどこかの学生服を来た少女が立っていて、思わず奇声があがるほどに驚いた。
その少女に目の前で奇声の謝罪をしたが無反応で、俺の方がどうすれば良いのか困ってしまう。
周囲に助けを求めようと思って見回すが、そこは見慣れない学校の校門脇で俺達以外誰もおらず、むしろ社会人の俺が不審者として処理されかねない状況であるかもと思い、余計に困り事が増えた。
それでどうすればいいのか悩んでいてたが、ふと、右手に違和感があった。
それで右手を見てみると、いつの間にかタブレット端末を持っていた。
そこには目の前の制服少女と全く同じ3Dモデルと、全く同じ風景が映っている。
更に、その画面には様々な項目も出ており“START”の文字まであると、まるでゲームキャラクターのキャラクリエイト画面に見える。
性別 身長 体型 髪型 髪の色 服装 アクセサリー等等……。
こんなものを見せられては、ゲームが好きな俺は黙っちゃいられない。
…………いや、今の困った状況に対する現実逃避だろって指摘はやめてくれ。 分かってるんだよ。 分かってるんだが、逃げさせてくれ。
それでまずは髪型を変更してみる。
よくあるセミロングのストレートヘアを、自身の髪を編み込んでカチューシャっぽくする髪型に。
変化したのを確認して、目の前にいる少女もこんな髪型だと綺麗に見えるかもな〜。
なんて考え、これを突破口にしてみようと思い立つ。
「ほらほら、このゲーム (?)で君にそっくりな子が居るんだけど、こんな髪型だと綺麗に――――うおっ!!?」
話しかけ、相変わらず無反応で困ったが、話の途中で少女の髪の毛へ視線を移すと髪型が変わっている事に驚いた。
少女の髪型もゲームの子と同じ、編み込みカチューシャに変わっていたのだ。
それで俺はピンと来た。
タブレットでロングツインテールに変えてみる。
目の前の少女もロングツインテールに変わっている。
タブレットで南京錠マークのついた、猫耳がピンと立っているように見える髪型に変える。
見たことのない企業の動画広告が流れ、それからキャラクターの髪型がネコミミ風に変わる。
目の前の少女もネコミミ風の髪型に変わっている。
タブレットで身長を最小の113㌢に変えてみる。
目の前よ少女がとても小さくなっている。
タブレットで学校の芋ジャージに変えてみる。
目の前の少女もクソダサ芋ジャージに変わっている。
タブレットで南京錠マークの付いたウェディングドレスに変えてみる。
どこのかすら分からない動画広告が流れ、それから画面のキャラクターがウエディングドレスへ変わる。
目の前の少女もウエディングドレスに変わっている。
学生の少女にウエディングドレスを着せるなんて、なんだか背徳感と罪悪感を感じる。
〜〜〜〜〜〜
しばらくタブレットをいじっていたが、結論らしいことが出せると思う。
このタブレットは、目の前の少女を理想の女の子に変えられる物だと。
そして目の前の少女は、恐らく作り物なのだと。
一応肩や腕、少女の頬をつついてみたり抓んでみたりしたが、やはり反応は無くしかし実体はあった。
どんな理屈かは分からないが、少女は俺へのプレゼントではないかと言う結論だ。
…………実は本当の持ち主が居て、俺が勝手に俺の物にしようとしている可能性も有るんだが、もしそうだったなら謝って返却するしかない。
が、それは置いといて、理想の女の子が出来上がったしスタートボタンをタップ!!
〜〜〜〜〜〜
「ん?」
どうやらまた意識が途切れていたらしい。
今度はどこかの家の台所兼食堂に、俺は立っていた。
そしてあのキャラクタークリエイトしていた少女の姿は見当たらなかった。
まあそれの心配は後だ。
現状を把握するために、まずはこの家の探索だ。
もし住人がいたら不法侵入とかで困ったことになるからな。
と言う訳で探索を始めたが、まず驚いたのは俺が住んでいた家より全体的に大きいことだ。
ドアノブの位置、キッチンの高さとかですぐに分かる。
だって家のドアノブなんて、成人男性の腰位の位置に有るだろうに、ここでは腹より少しだけ高い位の位置に付いている。
キッチンもそうだ。
次に驚いたのが、寝室の奥の扉の向こう。
寝室側から鍵をかけられる様になっていて、下へ降りる階段を降りきると、土が剥き出しの地下。
そこに木製の大きな棚と、椅子が一脚だけの部屋。
ここはどんな部屋なのか、考えることに失敗したので想像がつかない。
それで更に何部屋か捜索したのだが、ここが2階建ての一軒家である事以外に、もう一つ確信。
「全く人がいない……」
そう。
クリエイトした少女のみならず、住人がいないのだ。
トイレ兼用の風呂なんて洋風な建築の浴室には、誰かがいたらヤバいからとチラ見だけだが、ヒトの気配は無かったと思う。
窓から外を見れば俺の全く知らない光景が広がっていた。
そしてクリエイトした少女と同じ制服の女子学生が道路を歩き、この家の直ぐ傍にある学校へ入っていく姿がバッチリあったので、無人の街では無いと確認済み。
時計を見ると午前8時前になっていて、一軒家なのに誰も見かけない。
各部屋に誰かが住んでいるような、物が沢山置いてあるにも関わらず、だ。
「となれば、この家は俺の物?」
土地の権利書とか無いから、勝手にそう主張する盗人扱いになるだろうが、今はこれを主張しても良いのかもしれない。
そう思ったら、腰を落ち着ける場所を手に入れた安心感からか、トイレへ行きたい欲求が出てきた。
こりゃマズいと慌ててトイレもある浴室へ急ぎ、制服のスカートの下から下着を――――
「んんんっ!?」
〜〜〜〜〜〜
俺、クリエイトした少女になってました。 そりゃあ折角クリエイトした少女が、いなくなる訳だよ。
それで慌てて学校へ向かうと、校門脇に銃とか剣とか爆弾とか、やたらと物騒なモノがおいてあったり。
不思議なメニューウィンドウを出せば、場所は限定されるけどワープが使えたり、何かの拍子に死んでしまった人が居たらメニューウィンドウ操作で全員を1度に復活させられたり。
そんなのが出来る俺って、神様じゃね? と浮かれたり。
なぜか雪山でスキーと、砂浜で海遊びが同じ時期にできたり。
なぜかそこら辺に落ちているカボチャを他人へあげると、生のまま囓って死んでしまったり。
1時間ごとになぜかゾンビが学校の特定の場所に1体湧いてきたり。
ゾンビに噛まれた生徒や教師が、ゾンビになって襲ってきたから校門脇の武器で返り討ちにしたり。
どこにも市役所や不動産屋が無くて、自宅としている家の所有権が曖昧でわからなかったり。
兎に角、変な日々を過ごした。
が、途中で気付く。
気付いてしまう。
見かける大人は店員と教師と警察だけ。
警察と言っても、やたらとスタイルが良くて露出度が高い迷彩柄の水着っぽいのに防弾チョッキや鉄帽を被って、これみよがしに殺傷力の高い銃やバズーカを持ち歩く綺麗でカワイイおねーさん達だけ。
子供は学生達だけ。
バスが街中を走っているが、運転手がいない無人のバスだ。 運転手席は有るのに。
だがそんなのは序の口だ。
変化が一定なのだ。
何というか……想定された範囲内の変化と言うか。
あの、ほら。 一部界隈でだけ知られる、スクールシミュレーターゲームみたいなやつ。
街の住人のリアクションに反して、世間がそれほど動かない。
ゾンビが定期的に湧くのに、それの一定範囲に近付けば驚いて逃げるくせに、対策をしようとしない。
根本的な対処を考えないし、時間が来たら落ちている武器を使ってゾンビを倒す当番とかも考えようとしないし。
なんだか俺の居た世界より、妙に淡白なのだ。
ついでに言うと、誰もイメチェンをしようとしない。
ヒトには個性がある訳で、飽きっぽいヒトは髪型を変えたり小物を変えたりで、外見をガラッと変えるだろうに、それが無い。
半年は経つのに、誰の身長も体重も、髪の毛の長さまでも変わらない。 もちろん俺も。
大人達の、小ジワの1本も増えない。
もしかしてこの世界は………………。
そして俺は、この世界に閉じ込められたのかも知れない。
不老で、永遠に学生。
だれも歳をとらないスクールシミュレーター世界で、転移や蘇生、本文には無いけど時間も操作できる主人公は、実質神だよね!
よかったね!(白目)
…………あ、TSではありますがTSしてのアレコレを書いておりませんので、TS要素は極めて薄いという事でキーワードにTSと書いておりません。
あしからず。