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「おい!」
「んん……まだ」
「おい! 起きろって」
「まだ……眠ぃ……」
「くらえ! この!」
「痛っ!」
いきなり顔面に鋭いパンチが飛んできた。
寝ぼけ眼をこすりながら起きると目の前には茶虎模様の猫が一匹いた。
尻尾を振り、毛を逆立て威嚇しているのがわかる。
とにかくこのままではまずい。
理性ではなく本能が体に直接訴えてくるのがわかった。
「ま、待って! 敵意は一切ないんだ!」
「どこの馬の骨かわからない奴の言うことなんて信用することできるわけないだろ」
「私も君と一緒で猫じゃないか! 同じ同族で争うなんて無意味な事して私に何の利益がある?」
必至の訴えが通じたのか茶虎模様の猫は威嚇するのをやめ毛づくろいを始めた。
取り敢えず一安心。
ほっと、胸をなでおろし臨戦態勢を解く。
「君は一体誰なんだい?」
毛づくろいをする茶虎模様の猫に質問を投げかける。
質問に答えるため毛づくろいをやめ、こちらを睨みながら「普通自己紹介してから質問するのが筋じゃないのかい?」と皮肉を込めながら言ってきた。
確かに言われてみればその通りなのだが、なぜだろう……この猫に対しては無性に腹が立つ。
今すぐにでも噛みつきたい。
「し、失礼。私は……あれ? 名前が思い出せない」
「は……? 自分の名前だぞ? 忘れるわけないだろ」
自己紹介しようと自分の名を必死に思い出そうとするが全く思い出すことが出来なかった。
頭を抱え、叩いたりしてみても全く思い出すことが出来ない。
それどころか、脳細胞が死んでいってる気すらしてしまう。
しっかり考え、脳内の隅々まで詮索してみるが名前を思い出すことが出来なかった。
「お、おい。大丈夫か?」
先ほどの敵意は一切なく心配をしてくれている始末だ。
「ごめん……やっぱり思い出せない」
「ま、気にすんなよ。名前のない野良猫なんていっぱいいるんだし」
「う、うん! ありがとう。君の名前は何て言うんだい?」
「おれはトラ。茶虎模様だから“トラ”って名前なんだ」
「トラ……トラ」
「おう! 何でもわからないことあったら聞いてくれ。俺とお前は同じ猫で仲間なんだし」
すぐに返事することができなかった。
確かにトラは猫かもしれない。
だが、自分はどうだ? 人間から猫になったなどと伝えてしまったら仲間ではなくなってしまうかもしれない。それに、またいつ人間に戻ってしまうかもわからない。
それでも、今はトラと一緒に行動したい。
少し遅くなりながらも返事をしてトラと行動することにした。
「うん! よろしくねトラ!」
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