ฅ12ฅ
もうすぐ……あと数センチの距離まで狐が近づいた瞬間痛みに耐えるために歯を食いしばりじっと待った。
狐の吐く息が傷口に当たり、ピリッと電気のようなものが一瞬で身体中を駆け抜ける。
もうダメだ、ここで人生じゃなくてニャン生が終わるんだと悟り猫になってからの生きた時間、人間として過ごした時間を思い返す。
猫になってからの時間は短くもとても鮮明に脳裏に焼き付いており走った時、トノサマガエルを食べた時、木に登った時、トラやタマとの出会い全てが昨日のように思い出せる。
不思議と人間として生きていた時の記憶は完全になくなったわけじゃないはずなのに……思い出せない。
まぁ……もういいや、あと少しの命。
狐に食われて死ぬのを全うしようじゃないか。
ズキンとした傷口を舌で舐められる痛みが脳に伝わってくる。
あぁ、きっと血を拭ってから捕食されるんだ。
痛いのかな? きっと鋭い歯がグサッと肉体に刺さり無理やり引きちぎられるから痛いんだろうな……。
死ぬんなら痛みでショック死したいな。
何回も痛みを感じて最後まで地獄のような痛みを感じてまで生きていたくはない。
そんなことを考えているといつまでも狐はぺろぺろと傷口を舐めていてばかりで噛み付く様子がない。
なぜ……? 見殺しにするつもりだろうか? それとも少ない可能性で生かしてくれる……なんて期待をするのは辞めておこう。どうせ殺される運命なんだ。
その瞬間、ピタッと舐めるのを狐がやめた。
感触で分かる……いよいよだ。さらば現世よ、今までありがとう。
声を発さずに死を受け入れるため完全に力を抜ききりダラっと地面に溶け込むようにしていると狐が喋りかけてきた。
「おい」
「!?!?」
正直驚く事で精一杯だった。
なぜ話しかけられたのか? 何も話しかけずに捕食すればいいものを。もう既に生きることを諦め死ぬことに専念しようとしていたので当然と言えば当然の反応だ。
だが、喋りかけられたのなら答えなければ失礼というもの。それが例え敵であったとしても。
とりあえず返答することにした。
「な、なんでしょう?」
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