ฅ10ฅ
音を立てぬよう、キツネとの視線を逸らさぬよう一歩後ずさりをするとキツネも一歩こちらに歩を進めてくる。
視線を外した瞬間負ける……否、襲われる。
私の中に眠る本能がそう言っている。
キツネは私の一瞬の隙を狙っているのだろう。
歩幅の違いかじりじりと距離が縮まっている気がするのは気のせいだろうか?
一瞬、ここだ! という瞬間体に残っている全ての力を使って逃げなければ……屍になってしまうだろう。
まだ、まだだ。
その瞬間はまだ来ていない。
風や土の声、自分で感じることが出来る感覚をフルで活用して“直感”を頼りに逃げ切るしかない。
生憎背中に目が付いているわけではないので障害物があるかどうかなどはわからない。
一瞬向かい風を遠くに感じた。
向かい風に合わせて全力で走れば向かい風は追い風に代わってくれて私を後押ししてくれる感じがした。
タイミングを合わせて追い風に変える、出来るか出来ないかじゃない……やらなきゃ殺られる。
向かい風があと1メートルに迫った瞬間……方向転換をし追い風を味方に付けて全力ダッシュする。
躓いてはいけない、転んでももちろんダメ……全神経を走ることに特化させなければいけない。
息なんて関係ない、生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ。
背後から鋭い視線を浴びせられ文字通り“必死”になって逃げる。
死ぬのは正直怖い。
だったら生きることに全力でしがみつこうじゃないか。
立ち止まったら死ぬだけ、逃げても呼吸困難になって死ぬ可能性すらあるが……やらないよりはましだろ。
自分が一体、東西南北どこへ向かっているのかこの先に何があるかすらも分からないが止まることだけは許されない。
そもそも考える余裕なんてない、考える力すらも走る力に変えなければ。
鋭い葉っぱや尖った細い枝などが当たり、足が傷を負うが走り続けることによって痛みを感じなくなっていた。
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