13.3月20日 p.6
その言葉に浩志は驚いたように優の顔を見つめる。それからせつなへと視線を移すと、少女は優の言葉に反発も反応もせず、ただ俯いていた。
「おい! お前。なんで、そんなこと言うんだよ! やってみなきゃわからないだろ!」
浩志の声は少し怒気を含んでいつもよりもワントーン低く響く。しかし、そんな彼の威圧など何とも思わないという様子で、優は淡々と彼の言葉をはじき返した。
「やるとかやらないとか、そうゆうことじゃないのよ」
「じゃあ、どういうことだよ?」
「せつなさんは……たぶん……」
優が切った言葉を、そのまませつな自身が引き取った。
「成瀬くん。たぶん、せつなはここから離れられないんだと思う」
浩志の目を見てきっぱりと言う少女の瞳は、その立ち振る舞いに似合わず激しく揺れていた。それでも、少女は気丈に振舞いながら言葉を切ることなく、願いがかなわない理由を口にする。
「少し考えれば、分りそうなのに。……どうしてせつなは、今までそのことに気がつかなかったのかな」
「なぁ、どういうことだよ?」
「あのね。せつなは《《学校にしかいられない》》んだと思う」
「学校にしか?」
「うん。そう。さっき、優ちゃんに言われるまで思いもしなかったんだけど」
「なんだ?」
「せつなは、気が付いたらいつも学校にいた。おうちに帰らなきゃとか、帰りたいとか思ったことがなかった。ここから……学校から外に出るということを考えたことがなかったの。それってたぶん、せつながココロノカケラだから。学校とお花と、制服。この三つの思いでできてる存在だから」
「よくわかんねぇよ」
「分かりやすく言えば、せつなはここに縛られてるってこと」
寂しそうに微笑むせつなに、浩志は眉を歪ませる。それでも、彼は往生際悪く言葉を絞り出した。
「でも……、せつなは家に帰ったことがないんだろ? 帰ろうとしたことがないだけで、本当は……、本当は帰れるかもしれないじゃないか。行こう! 今から! 帰ったら母ちゃんたちにも会えるかもしれないぞ」
「ちょっと、成瀬!」
「うるせぇ! お前は黙ってろ」
せつなの手首を掴み今にも駆けだそうとする浩志を優は押しとどめる。そんな彼女を、彼は怒鳴り飛ばした。しかし、彼女は彼の怒声に怯むことなく怒鳴り返す。
「やめて。せつなさんの手を離して!」
「なんでだよ!」
「せつなさんのことをよく見て!」
優に怒鳴られ、浩志はせつなの顔を見る。少女は呆然としたまま、瞳には涙をいっぱいに揺らしていた。