12.3月19日 (3) p.7
もらい泣きで瞳を赤くしながら優が訊ねると、せつなは首を横に振る。
「詳しいことは分からない。でも、お姉さん……優……ちゃんは、せつなの存在を認識していたから見ることが出来たんじゃないかなって思う」
「なるほどね」
優は一つ肯いて、浩志の方を見る。
「じゃあ、成瀬はどうしてせつなさんのことが見えたの?」
「その理由は全く分からないの。実は、最近になってもう一人せつなのことが見える人が現れたんだけど、その人はちょっと特殊な人で。その人の推測では、成瀬……くんはせつなの心に共鳴したんじゃないかって」
「共鳴?」
せつなが初めて浩志の事を名前で呼んだため、浩志は目を丸くした。しかし驚きながらも、せつなの話に聞き入っている。
「その人が言うには、心の一部がこの世界に取り残された時、媒体となるものが有ればココロノカケラはこの世に留まることが出来るんだって。せつなの場合は、コレ」
せつなは制服の胸ポケットから何かを取り出した。小さな握り拳を開くと、オモチャの指輪がコロリと掌に乗っていた。指輪はまるで自己主張をするかのようにキラリと光を放つ。
指輪はいつもせつなが持っていた物なので、浩志には既に見慣れた物になっていた。
「俺、それが何故だか気になってたんだ。やっぱり大事な物だったんだな」
「うん。せつなもその人が教えてくれるまで、コレが媒体だなんて知らなかった。コレは元々お姉ちゃんの物だったの。でもあの日、少し早いけど退院祝いにって、お姉ちゃんがくれたんだ。お姉ちゃんは、コレを大切にしていたんだけど、せつなが気に入っちゃって。ずっと、お姉ちゃんにおねだりしてたの。だから、もらった時はすごく嬉しかった。絶対大切にしようって思ったの。だからかな、コレが媒体になったのは」
せつなは懐かしそうに、そして、大切そうに指輪に視線を注ぐ。
「ところでさ、ココロノカケラだっけ? その事にやけに詳しい奴がいるんだな? 俺らもその人からもっと話を聞くことは出来ないかな? 俺、せつなのことちゃんと知りたい」
せつなの目を見て浩志がキッパリと言うと、優も首を縦に振り同意を示す。
「その人から直接話を聞くことは、できない……かな」
「なんでだ? ソイツも幽体的な感じか?」
せつなの答えに浩志が眉を寄せると、せつなは少し可笑しそうに口元を緩めて、首を横に振る。
「その人は天使なんだって。でも、天使であることは内緒だから、その人から話を聞くことは無理かな」
「天使? 俺たちには、見えないってことか?」
残念そうに肩を落とす浩志に、せつなはまた首を振る。
「違うよ。天使ってことをみんなに明かせないだけ。だから、会って話しができないだけ。でも、実は成瀬くんは、その人に会ったことがあるんだよ」
「マジか!?」
「ウソ!?」
せつなの答えに、浩志と優は驚きのあまり目と口を丸くした顔を互いに見合わせた。