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8.3月16日 p.3

「う〜ん。待ち合わせっていうか……ちょっとな」


 浩志が適当に答えたのが良くなかったのだろう。一瞬だけ彼女の周りの空気がピリついた。しかし、彼女は別に何も気にしていない風を装って彼を茶化す。


「あ〜、もしかして後輩女子からの呼び出しだったりする? 私が一緒に行ったらマズくない?」

「ば! ……っか。そんなんじゃないわ!」


 彼が思わず赤くなりながら大きな声で否定すると、優は耳を塞ぎながら少し嬉しそうに聞き流す。


「はいはい。違うのね。もう、いちいち大きな声出さなくていいから」

「……お前が、変なこと言うからだろう」


 浩志は赤くなってしまったことを誤魔化すように唇を尖らせ、鼻に皺を寄せる。


「まぁ、後輩女子ってのは合ってるけど」

「え゛っ?」


 彼のボソッと付け加えた答えに、今度は優が大きな声を出してしまう。


「なんだよ? 言っとくけど、別にお前の思ってるような事じゃないぞ?」

「……そう……なの?」

「ああ。全然そんなんじゃない。……けど」

「けど?」

「そいつも誘ってもいいかな?」

「えっ?」

「アイス」

「……」


 二人で出掛けるのだとばかり思っていた優は、驚きのあまり声が出ない。そんな優には気が付かず、浩志は到着した一年二組の教室の扉から教室内を覗き込む。窓からの光がきらりと煌めいた。それを受けて浩志は一瞬瞬きをする。それからもう一度室内を覗いてみた。誰もいなかった。


「おかしいなぁ」

「いないの?」


 浩志の呟きに、優は安堵の色を滲ませながら彼の隣に立ち、同じように室内を見回す。


「約束してたんじゃないの?」

「約束って言うか……」


 浩志は扉から顔を離すとクルリと背を向けて、扉に背中を預けた。そんな彼を視界に捉えつつも、まだ室内を眺めていた優だったが、突然短い声を上げた。


「あっ!」

「なんだ? 居たか?」


 浩志ののんびりとした声を優は被せ気味に否定する。


「違う! ねぇ、あれ見て。机に何か置いてあるよ! あれって、前に言ってた折り紙の花じゃない?」

「ああ、アレは……」


 浩志には優の言っている物が何か分かっていたので、説明をしようと口を開いた。しかし、優は浩志の言葉をかき消すように興奮気味に捲し立てる。


「ねぇ! 呪いの花! 呪いの花見つけちゃったよ!」

「はぁ? 違うって」


(せつなのやつ、また不用意に誰かの机に花を置いたまま何処かへ行ったんだな。そんなことするから変な噂がたつのに)


 浩志は人知れずため息をついた。その隣では、優が焦りを滲ませている。

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