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6.3月13日 p.2

 その女性は生徒と見間違いそうなほど幼顔だが、格好から教員だろうと判断した彼は、校内をうろついている事を咎められたと思い、足早にその場を立ち去ろうとした。


「待って。帰らなくてもいいのよ。ごめんなさい。突然、声をかけてしまって」


 女性は浩志を呼び止めつつ、頭を下げた。


「ただね。寒くないかなぁと思っただけなの」


 女性の言葉に、彼は思わず身ぶるいで答えてしまう。


「ふふ。もし良かったら、ちょっとあそこで暖まっていかない?」


 中庭の一角を女性が指さす。その先にはカントリーログハウス風の建物があった。浩志はその建物に近づいたことがなかった。生徒たちの間では「開かずの館」と呼ばれていたその場所は、多分、花壇を手入れする物などが保管されているのだろうと漠然と思っていたし、興味もなかったので彼の中では完全に風景の一部となっていた場所だった。


「あそこ……ですか?」

「うん。そう。どうぞ」


 赤いエプロンの女性は建物へ一人先に向かい、扉を開け、浩志を手招きする。教員に逆らうわけにもいかず、浩志は渋々女性の誘いに従った。


 扉を潜ると、彼はポカンとした表情で足を止めた。農具庫だと思っていたその場所は、天窓から夕日が幾筋もの光となって差し込んでいて、とても明るくそして暖かかった。入口を入ってすぐの場所には、雑誌がいくつも置いてありソファもある。ゆっくり雑誌を見るにはもってこいの場所だった。


「ここって、図書館?」


 思わず浩志の口から疑問の言葉が溢れる。それを女性はふんわりとした笑みで受け止めた。


「そうよ」


 教員らしき女性に誘われた場所は、校舎とは別に独立した図書館だった。


 そういえば今年度から専任司書が常駐し、図書館が常に開館されるようになったと年度始めの全校集会で聞いたような気がした。彼は自分には関係ないことだと適当に聞き流し、やがて記憶の端に追いやり忘れ去っていた情報を引っ張り出す。


「初めて来た」


 浩志にとって図書館は、校内にある施設の中で一番縁遠い場所だった。事実、中学二年が間もなく終わろうとしているこの時まで、図書館の場所を知らなくても何も不自由していなかったのだ。


 入り口の雑誌コーナーを通り過ぎると、天井の高い閲覧スペースが広がっていた。広々とした閲覧スペースは、勿体ないことに男子学生が一人使用しているだけだった。閲覧スペースの脇は中二階の造りになっており、一階部分にも二階部分にもいくつもの書架が収まっている。

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