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4.2月27日 p.3

「え? 違うの? 新入部員ゲットかと思ったのになぁ。あ、でも、きみたち中等部? 中等部でも入部ってできたかなぁ」


 浩志の制服についている学年カラー別の校章にチラリと視線を送りながら、上級生は一人違う方向へ話の水を向ける。入部希望ではないと知りつつも話を進めるあたり、強引に園芸部へ勧誘するつもりだろうか。


 浩志にはそんなつもりは毛頭ないので、早々に話の方向を修正する。


「ここに何かの種が撒いてあるって聞いたんですけど」

「そこ? そこはねぇ」


 上級生は話の転換にきちんとついてきたが、浩志の求める答えは直ぐには出てこないようだ。上目遣いでしばし逡巡の素振りを見せる。その後、ようやく破顔した。


「確かスターチスって花が咲くはずよ。紫の小さい花。以前、園芸部の先輩が育ててたみたい。ここは誰も手入れをしていないのに、毎年きちんと花が咲くんですって。まぁ、私も今年が初めてだから、まだ見たことはないんだけどね」

「はぁ……」


 聞いてみたもののあまり興味のない浩志には、紫の小さな花が咲くかもしれないということしか耳に残らなかった。しかし、彼にはそれで十分だった。


「ちょっと不思議よね」

「不思議?」

「だって、誰も手入れしていないのに花が咲くのよ!」

「はあ……」

「きみには、草花の神秘さは分からないかぁ」


 心底どうでもいいという顔をする浩志を、上級生は残念な子供を見るような目付きで見て軽く頭を振った。その後、浩志との会話に見切りをつけたのか、上級生はこれまで何も言葉を発していないせつなへと歩み寄る。そして、まるで何か意味を含んでいるかのような問いをせつなに投げた。


「この花壇って、何か特別なんだと思うの。ねぇ、あなたもそう思わない?」


 上級生の言葉にせつなの体がピクリと揺れた。その反応から、この後の展開が気になった浩志はぼんやりと話の続きを待った。


 しかし、待てど暮らせどその後どちらも口を開くことはなく、ただ二月の冷たい風にさらされるだけの状況に、浩志はたまらず声をあげた。


「それじゃあ、俺はこれで……」

「えっ? そうなの? この子は?」

「さぁ。俺も、たまたま見かけて声を掛けただけなので、どうするかは本人に聞いて下さい」

「そっか。分かった。気が向いたら、きみもまたここへおいで~。中等部でも入部できるか、先生に確認しておくよ」


 やはり入部をごり押ししてくる上級生に苦笑いを向けてから、浩志は寒そうに両肩を縮めて校舎内へ戻っていった。

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