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エピローグ p.4

「そう。スターチスの花。せつなさんのことを忘れないようにって、押し花にして、栞にしたのに、結局、浩志に渡す前に、忘れちゃったみたいなの。ごめんね」


 申し訳なさそうに頭を下げる優を、浩志は制す。


「……いや、いいんだ。俺だってすっかり忘れていたんだから。でも、どうして今になって、突然思い出したんだろう? しかも、2人揃って……」


 浩志が思案顔で物思いに(ふけ)ったのを見て、優はふふっと微笑み、自身の手を腹にそっと当てる。その様子は、どこか慈愛に満ちていた。


「ねぇ? 私も話があるって言ったでしょ?」


 しばらくの間、自身の思考の中にいた浩志を、優は、何気ない様子で現実へと引き戻す。


「あ? ああ。そう言えば、そんなこと言ってたな。何? いい話?」

「うふふ。どうかしら?」


 焦らす優に、浩志は面倒くさそうに聞く。


「なんだよ。その反応からは、たぶん良いことなんだろうけど……何?」

「当ててみて!」


 そう言って優は、これ見よがしに腹を摩り、いつもは履かないスニーカーをチラチラと浩志に見せつける。そんな優の行動を、訝し気に見つめていた浩志だったが、次第に、彼の目が大きく見開かれ、口をポカンと開けた。


「もしかして……?」

「そう! 私、妊娠したみたい!」

「本当か?」

「うん。昨日、病院で確認してきた」

「まじか~~」


 優の言葉に、ただただ驚くばかりの浩志に、彼女はふわりとした笑顔を向けたあと、愛おしそうに自身の腹を撫でる。


「私ね、妊娠を知った時、この子はせつなさんだって、なぜだかそう思えたの」


 浩志はさらに驚きの色を深め、彼の視線は、婚約者の腹に釘付けになった。


「あの子は、また会えるって言ってくれていたし、このタイミングで、私たちがあの子のことを思い出したのは、そういう意味があるんじゃないかな」

「せつなが、俺たちのもとに戻ってきたってことか?」


 浩志は、ポツリとつぶやき、視線を優の腹から、2枚の栞に移す。ラミネートされた花は、まるで、あの頃を閉じ込めたように綺麗な形を保っている。不意に浩志の胸にスターチスの花言葉が蘇った。


『変わらぬ心』『変わらない誓い』『途絶えぬ記憶』


「せつなは、きっと、俺たちのことを覚えててくれたんだな」

「うん。そうね」


 2人の間に、沈黙が訪れる。春の暖かな空気に包まれるようにして、それぞれが、遠い記憶に思いを馳せた。

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