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TSしちゃいました

「ん……あれ?」


 気が付いたら、いつの間にか自室の真っ白な天井を見上げていた。


 最期に覚えているのは、ソウルワールドを開始した場面だ。それが間違いではないのなら、自分はログインした状態で、最初の広場のど真ん中に立っているはず。


 だが周囲を冷静に見回しても、そこは冴えない自室で寝転がっているのは転落防止用のゲーミング柵が取り付けられた、ベッドの上だった。


 ここから考えられる事としては、ログインと同時に寝落ちをしてしまい、ユウから強制的にログアウトさせられたのが一番現実的だろう。


 しかし、その物理終了を実行した人物の姿は部屋にはなかった。いつもなら鬼のような形相をして、ベッドの上で仁王立ちして「ア~オ~」と強い圧を掛けて来るのに。


 何だか、長いこと眠っていたような気怠い感覚に戸惑いながら、ゆっくりと身体を起こす。


 すると扉が開いて、誰かが部屋に入って来た。


 視線を向けると、入って来たのは予想通り、幼馴染のユウだった。


 どうやら帰宅した際に制服から着替えたらしく、今はノースリーブのシャツに長い丈のスカートという。実に清楚な格好をしている。首には、見たことが無いデザインのチョーカーを付けているが、ネット通販で購入したのだろうか。


「あー、ごめん。一緒にゲームしようって約束したのに、寝落ちしちゃったみたいだね」


 素直に謝罪すると、彼女は怒っているのを我慢しているのか、その場で棒立ちをしたまま自分の顔を険しい顔つきで見据えながら次にこう言った。


「……アオ、なのよね?」


「なんで疑問形なんだよ。この部屋にいるんだから僕に決まって──」


 謎の第一声に思わずツッコミを入れると、ユウは弾かれたように動いてベッドの上にいる自分を、広げた両手で思いっきり抱き締めた。


「む、むぅ~~~~~~⁉」


 かなりの力を込めて胸に抱かれる事によって、彼女の胸の柔らかさとか身体から発せられる花のような匂いに包まれ、顔が耳まで真っ赤に染まった。


 一体どうしたのかと問いかけるが、ユウは黙って抱き締めるだけで何も答えてくれない。


 もしかして、何か不安になるような事があったのだろうか。


 こうなると落ち着くまで離してくれない事は知っているので、僕は彼女の背中に両手を回し、優しくさすってあげる事にした。


 しばらく経って、ゆっくり離れた彼女の目は、少しだけ赤かった。


「びっくりすると思うけど、落ち着いて先ずは自分の身体を見て」


「え……?」


 涙目の幼馴染からの突然の言葉に、理解できなくてキョトンとなる。


 正直なところ思考が全くついて来ていないが、言われた通りに自身の体を見下ろした。


 ──何で平凡な自分の身体を、わざわざこの目で再認識しないといけないのか。


 抱き締めるなり泣き出したと思ったら、今度は急に変な事を言い出すとは。


 幼馴染の不可解な言動に怪訝な顔をしながらも、ちゃんと言われた通りに自分の身体を端の方から順に眺めていくと、


「はぁ? なんだこれ……」


 するとそこで、ようやく自分の身体に起きている異常事態を知った。


 ──手足が、一回り小さくなっている事に。


 ──着ている制服が一回り大きくなり、下に履いていたズボンがずり下がっている事に。


 ──髪が黒ではなく真っ白に、そして腰に届く程の長さになっている事に。


 ──自分の声が、透明感のある少女のような声になっている事に。


「あ……う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああッ‼」


 ビックリして、冷静さを失い慌ててベッドから飛び出した。


 途中でズボンを踏んで、危うくすっ転びそうになる。


 邪魔だと思ったズボンと、膝まで下がってきたトランクスを僕は、全て雑に床に脱ぎ捨てた。


 そして机の上に置いてある、従姉のミライから以前に貰った手鏡を手に取る。


「う、嘘だろ……⁉」


 鏡の中に映る自分の姿を見て、ショックの余り愕然とした。


 何故なら、そこに映っていたのは、平凡な顔立ちの男子高校生ではなかったから。


 驚きに揺れているのは、つぶらな宝石の様に輝く金色の瞳。それが映し出すのは、職人が長い時間をかけて完成させた美の集大成ともいえる少女だった。


 見間違えるハズがない。この姿形はソウルワールド用に作成されたアバターだ。


 ウソだ。そんな、有り得ない。


 信じ難い現実に、鏡を持つ手が小刻みに震える。


 何度も頭の中で否定するけど、鏡に映った自分の姿が変わる事はない。


 真っ青な顔をした僕は、背後にいるユウにゆっくりと振り返った。


「こ、此処って、ゲームの中……だよね?」


 自分の考えが正しくある事を祈りながら、厳しい顔をしている幼馴染に尋ねる。


 しかし、彼女は首を縦には振らなかった。


「違うわ、ここは紛れも無く現実の世界よ。あの女の子と出会って家の前で別れてからしばらくして、何の前触れもなく──世界は真っ白な光に包まれたの」


「世界が、真っ白な光に……」


「この家にママと駆け付けたら、アオは自分の部屋で白い光に包まれて一週間もそのままだったわ。私、アオがいなくなるんじゃないかと思って、怖かった……」


 瞳に涙を浮かべた少女は、僕の胸に顔をうずめる。


 普段なら、好意を抱いている彼女に抱き締められたら、気恥ずかしくて逃げている。


 だけど今は、そんな事を考えるだけの精神的な余裕は全くなかった。この異常な状況に対し、正直に言って自分の理解力は置き去りになっている。


 一体何がどうなって、男だった自分の姿がゲームのアバターに変化したのか。今後の生活の事とか、学校が始まった時の事を考えると頭が痛くなる。


 でも目の前では、世界で一番大切な幼馴染が泣いている。なら今は自分の事よりも、彼女の事を一番に優先しなければいけない。


 不安な感情を全て胸の内に押し込め、目の前にいる彼女の頭を優しくなで下ろし、


「ユウを置いて、どこかに行ったりなんかしないよ」


 苦笑交じりに、そっと(ささや)いた。


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