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プロローグ

 漆黒の長剣を強く握り、白い鎧ドレスの長い裾を風になびかせながら地面を疾走する。


 金色の瞳で見据えた先には、全長八メートルの巨大な蛇を模したモンスター〈イビル・ヴァンドラゴン〉が鎌首をもたげ、口中から紫色の煙をちらつかせていた。


 大口を開けて真っ直ぐに放たれたのは、合計で十発の息吹を弾丸にした攻撃、一つ一つが防御特化の〈守護騎士〉のHPを五分の一削る威力がある〈イビルブレス〉だ。


「──そんな遅い攻撃が、当たるかッ!」


 弾丸に対して真っすぐ向かいながら、その全てを冷静に見極め、舞うように手にした百センチはある漆黒の長剣を両手で握り一閃する。


 直撃しそうなブレスだけを切り払い、無駄の無い──防御技〈パリィ〉を決めた。

 簡単そうに見えるけど、この飛んでくるスキル攻撃は真芯をとらえなければ、パリィの成功判定を得る事は出来ない。少しでもずれたら、軽金属装備の自分に待っているのは死だ。


 現在でヤツを相手に、これを成功できるのはこの世界でも指で数える程度しかいないだろう。

もちろん、一年間の殆どの時間をこのゲームに捧げている僕──シアンにとっては造作もない事であった。


「イビルブレスを使用して、六十秒間はスキル攻撃はできない。おまえの数少ない大きな弱点の一つだ!」


 敵の行動パターンを叫び、今のアクションで獲得したボーナスポイントでようやくチャージが完了した、一つのゲージを全て消費する。


 そこから発動準備に入ったのは、各職業に与えられた最強の奥義技の一つ。


 火水土風雷光闇の七属性が一度に使用され、漆黒の長剣に集中させた自分は準備を終えると、剣を上段に構えて邪悪なる風の竜に向かって全力で振り下ろし、


 魔法剣士のオメガスキル──〈メテオール・シュナイデン〉を解き放った。


 これ以上ないタイミングで放たれた、流星を切り裂く必殺の一撃は〈イビル・ヴァンドラゴン〉を両断して、残っていたHPを全て消し飛ばした。


「ふぅ、やっとこれでエリアボスを、全てソロ討伐する事を達成したな」


 左右に分割された邪竜が光の粒子となって散るのを見送りながら、僕は確定ドロップした最後の欠片を、所持している欠片たちと一つにする。


 そうしたら武器のカテゴリー選択が出てきたので、自分は迷わずに長剣を選択した。


 手の中に大きな漆黒の炎が生まれると、炎は形を変えて一つの剣となる。


 炎から生まれた魔剣の名は──〈レーバテイン〉。


 一年間これを入手する為に、レベルカンストしてから毎日エリアボ達とのソロ対決を行っていた僕は、心の底から嬉しくなり笑みを浮べる。


 時刻はもうすぐで、ベータテストの終わりを告げる午前0時になろうとしていた。


 明日は終業式もあるので、この辺りで最後のプレイを切り上げなければ。


 メニュー画面からアイテムストレージを開く。そこから大量に収納しているアイテムの中から簡易的な安全地帯を作り出すワンタッチテントを選択した。


 目の間に出現した三人用のテントを、ボタンをタッチすることで組み立てる。


 ログアウトする準備を進めながら、僕は十年前にゲームでこんな作業をするなんて想像もしていなかったよな、と小さな苦笑を浮かべる。


「そうか、あれは十年前の事なのか。なんだか感慨深いな……」


 作業の手を止めて、夜空に輝く満天の星空を見上げた。


 そう、──アレは十年前の事だ。


 とある一人の匿名技術者によって、世界のVR技術は大きく発展した。


 液晶画面とにらめっこをしていた子供大人たちは、チョーカーみたいな器具を首に装着してベッドに横たわるようになり、みんな仮想世界に身を投じるようになった。


 当時は数が少なかったVRゲームも時の流れと共に数を増やし、世に続出するフルダイブ型ゲームは今では数千種類にも及ぶ。


 仮想世界を利用した娯楽は、今となっては人々にとって欠かす事のできない大きなコンテンツとなっている、と言ってもけして過言ではないだろう。


 故に人気コンテンツに目を付けた企業達の合同の下で、VRゲームの世界大会は季節毎に開催されて、各メディアによって世界中に生放送で実況が行われる程である。


 記録されている同時接続数は最大で一千万人越え、世界で最も熱いのはゲームだと言っても過言ではない。


 そんな人々を熱中させるゲームの中で今一番の注目を集めているのは、今日でベータ版を終えて正式にリリースされる事となった、世界初のVRMMORPGだった。


 技術的に難しいと言われ、どの企業も開発を断念したジャンル。


 誰もが夢見た、剣と魔法のファンタジーを再現した世界。


 CMではクオリティの高いモンスター達や綺麗なNPCのお姫様が出て来て、最後にはPVPで戦うプレイヤー同士から放たれるド派手な必殺技。


 報道のメディアや動画の投稿者たちも、こぞって取り上げ世間ではお祭り騒ぎだ。


 彼らに『ベータテスター』として、一足早くプレイしている僕は声を大にして言おう。


 この世界──〈ソウルワールド〉は、最高に楽しいゲームだぞ、と。


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