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1-86 地獄の鬼ごっこ 地獄に鬼は付き物です?

「では皆さん、ルールは簡単です。

 縦登りコースはなし、他の登頂中の方々の邪魔はしてはいけません。


 あなた方同士のバトルはあり。

 その中に私も含めて構いません。

 それでは、いったん三四始まった!」


「え?」


 一瞬はち切れそうで魅力的な笑顔の残像を残し、お姉さんの姿がブレて目の前から消え失せた。

 あのお姉さん、今何て言ったの⁉


「どけ、リクル。

 邪魔だ!

 あの女ー、ふざけやがって」


 同じく出遅れた先輩がマジでブチ切れていた。


 え、先輩。

 そりゃないだろ。


 元は俺とあんたの二人の勝負なんじゃないかあ。


 そして、マロウスの姿など、とっくにないのであった。


 阿呆のように首を曲げて見上げてみれば、彼はもう五十メートルほど上の空間にいた。


 しかも、あのマイアとかいう女はその二十メートル上の位置を楽し気に走っていたのだ。


「馬鹿な」


 そして先輩は猛然と追い上げるも、邪魔な奴らがうようよいて追いつけないまま、先頭の女が今喜色満面の笑顔でゴールした。


 くっ、神官たる者は日頃から鍛練に次ぐ鍛練の毎日。


 そこへやってきた聖女パーティの半端ないメンバー。

 まあここは勝負に行くシーンだわなあ。


 そこで不意討ちとは言え、互いの全力で勝負しての結果なのだ。

 まあ顔も緩もうというものさ。


 じゃねえだろ。

 何なのよ、あの人は。


 見かけからして人族だと思っていたのは、もしかして俺の勘違いだったのか⁇


 そしてマロウスがそれに続き、先輩はだいぶ遅れてからゴールした。

 一応、ルールは守っているらしい。


 これが先輩の超本気モードなら、のんびりと登頂中のあいつら全員が先輩に下へ叩き落とされているか、へたをすると邪魔な障害物としてその場でぶち殺されているかもしれない。


 そして俺はとうとう一歩も動けず仕舞いだった。

 くっそう~。


 そして、連中は自分達で勝手に設定した『縦降りコース』で、腕組みとかしたまま螺旋階段の手摺を蹴りながら降りてきており、それは段々とエスカレートしてきて、段飛ばしが最後には五段飛ばしくらいになっていた。


 マロウスあたりなら空中で空気抵抗を利用しつつ、さらにはくるくると回転して速度を落としながら、塔のど真ん中をダイビングする事さえ可能なのではないだろうか。


 だが、それでは下りの勝負ができないので、やらないだけなのだろう。

 そしてマイアの奴は平然として俺に言いやがるのだ。


「おや、勇者様は余裕で観戦ですか?」


 あのなあ~。


「リクル、見ているだけでは鍛錬にならんぞ」


「おい、お前は俺と勝負するんじゃなかったのか」


 みんな酷いよ、特に先輩が。

 あんた、さっき邪魔だって俺の事を押しのけていったよね⁉


「くそ、出遅れちゃった。

 あんたら全員どこかおかしい」


「ほざけ」


「リクル、今度はちゃんとついてこい。

 でないと鍛練にならんぞ」


「では行きますよ、登りの二回目です」


 俺は胸に提げたストップウォッチを構えた。


「用意、スタート!」


 俺は叫んだ。

 先輩の頭を踏みつけて踏み切りながら。


「先輩、お先に~!」

「リクル、貴様ああ」


 先輩は無様に後ろに向かって仰け反りながら、顔を真っ赤にして叫んでいた。


 へへん、さっきのお返しだよ。


 今度は先に行く二人の背中がちゃんと見える。

 さすがに今度は彼女も不意討ちの利はない。


 だが相変わらず先頭だった。

 やっぱり、あの人もどこかおかしいのだ。


 マロウスはビースト族の全身発条である筋肉を自在に使い、縦横無尽に駆け回った。


 俺はその足跡を踏襲し、直後につけて神がかりな走りを盗んだ。


 まあそれだと絶対に彼を抜けないがな。

 隙を見て、ちらっと首を傾けた彼の目が一瞬ニヤっと笑った。


 いつも「技は見て盗め」って言っているからな。


 どっちかというと普段は体術でボコボコにされて、体で動きを教え込まされ、あれこれと叩き込まれているのだが。


 しかしまあ、自在な動きである事。

 壁を蹴り、手摺を蹴り、空いた空間を最高のルートで走り抜け、時には空中大回転。


 他の登頂者は驚いてそれを眺めていた。


 そして、あの女ときたら、なんと人の間をすり抜けるだけで先頭を完全にキープしてやがる。

 あっちの方が凄い技術だわ。


 しかしマロウスめ、何が塔で鍛錬だよ。


 屋上に行くまでが鍛錬というか、屋上で鍛錬せずに、そのまま下り競争をしているんじゃないか。


 しかも休憩なしでまた登りの二回戦だ。


 だが彼も、特に『屋上で鍛練』とは言っていなかったような。


 後ろを振り返れば、先輩が俺をぶち殺しそうな顔で睨みながら、ずっと『壁を』走っていやがる。


 ありえねえ。

 さすがは踏破者、こっちも大概なコースだった。


 畜生、あれもちゃんと盗んでおかないとな!


 そして、そのままの順位でゴールした。

 二連続で出し抜かれてドンケツだった先輩が怒り狂っていた。


「貴様ら、尋常に勝負しろおおお」


 おかしいな、先輩ってそんな熱血キャラだっけ?


 彼は俺の襟首を掴んで、ぐいぐいと揺すっていた。

 他の人達の首は捕まえられなかったらしい。


 馬鹿な、踏破者クレジネスたるお方を相手に、あの人達は何故こうも無双できるのだ。


 無論、俺自身はまだまだ先輩から逃げられないのは見事に判明したのだが。


 先輩とまともな勝負をしたら、俺なんかが素では絶対に逃げきれない。


 今日それを確認するという、見事に当初の目的を達成できた、大変有意義な鍛練であったことだ。


 そして下り勝負だ。


 うわっ、こええー。

 これは思ったより怖いわ。


 いや塔の底がやけに小さく見える事。


 俺は鉄の梯子のあるゾーン付近を下りていて、他のメンバーの失笑を買った。


 なんてこった。

 勇者リクルともあろう者が公衆の面前で笑われちまった。


 地上へ着いてから俺は密かに闘志を燃やした。

 ようし、次はブーストをかけていくぜ。


 だが、まるで俺がそれを顔に出すのを待っていたかのようなタイミングで、マロウスが無情の一言を通告してきた。


「リクル、ブーストは禁止する。

 それだと鍛錬にはならんだろう」


「ええーっ」


 その言い分は確かに正しいのだがなあ、ここで先輩から逃げ切る算段をつける予定だったのに、あの二人のせいで滅茶滅茶だよ、もう。


 仕方がないので、俺も鍛錬の方に集中した。


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