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1-84 ついに来たチャンス

「ほお、それはなかなか殊勝な心掛けだな。


 マルコス、時計はあるか。

 携帯できる軽量で丈夫な物がいい。


 なければ、とりあえず私の物を与える。

 王都でもう一つ用意してくればよかったな」


「それでは、とりあえず私のものをどうぞ。

 首から下げられる物で、なかなか便利な物にございますよ」


 そう言って彼は自分の首に提げていた、見事な金時計をはずして俺に差し出した。

 立派な高級品だから、きっちりタイムを測ってくれる事だろう。


「そいつを貰ってしまって、お前の政務に支障はないのか」


「大丈夫でございます。

 近々、新調する予定もありましたので、どの道マイアに譲るつもりでございました。


 それは明日ないし明後日にも届く予定でございます。

 彼女にはもう一つ同じ新品を発注しておきましょう」


「ならよい」


「これにはストップウォッチの機能もついております。

 使い方はここをこうして押します。

 止めるのはこうでリセットはこう」


「ありがとう。

 俺は今すぐにそれが欲しいんで」


 俺は恭しくそれを受取った。

 それを見た先輩の目が異様に妖しく光を帯びた。


 ふん、食い付いてきたな、こっちの狙いぴったりだぜ。


「リクル、今から塔に登るのかい」


「まだだよ、先輩。

 そう慌てなさんな。

 塔は逃げやしないよ。

 まだ大司祭様のお話が途中だし、これから武具を持ってきてくれるところじゃないか」


「僕は武具なんかよりも、ドラゴンを倒した今の君の力が知りたいなあ」


「だから慌てるなって、先輩。

 それはこっちだって望むところなんだからさ」


 そう、時計で計るなんて言えば、先輩が食いついてくると思ったのさ。


 果たして、今の俺にこの先輩から鬼ごっこで逃げ切れる力があるのかどうか!

 比較的安全そうな鬼ごっこで勝負だ。


 こういう、御遊び的な要素を混ぜてやると、この先輩は妙なスイッチを入れずに純粋に勝負してくれるはずなのだ。


 この塔という壮大な仕掛けは、その舞台として実に相応しい。

 そのうちに試してやろうと思い、ずっとその機会を虎視眈々と狙っていたのだから。


 ついにその機会は到来した。


 バージョン11目前の力でブーストをかけて先輩から逃げられなければ、更に精進と鍛錬あるのみよ。


 地下遺跡探索で、目指せバージョン12.0。


 あんな蜥蜴どもの相手なんか、ただの余興も同然だ。

 素で、このヤバ過ぎる狂人の相手をする脅威に比べたらな!


 それを見て、俺の鬼教官どもも笑っていた。

 もしかしたら一緒に参加する気なのか?


 この人達が先輩相手にどれくらいやれるものなのか興味は尽きないが、今日のところはただの邪魔者だよな。


「リクル。

 バージョンを上げるつもりならば今日中にな。

 我々は街へ支度に行くから、明日からダンジョンに潜るぞ」


「ちょっと!」


 また姐御がスパルタな事を言い出し、先輩の目に宿った狂気が加速している。


 姐御、今の台詞は絶対にわざとだよな。

 くそったれ。


 彼女の身体に流れる聖女バルバディアと同じ血筋に賭けて、聖女なんて奴らはどいつもこいつも碌な物じゃない。


 きっと歴代勇者達は、草葉の陰でうんうんと頷いてくれているはずだ!


「ではお話の続きを。

 そして、それからです。

 ダンジョンに異変のような物が起き出したのは。

 やたらと宝箱が発生して昔の武具のような物や、古い刻印のインゴットなどが湧くようになったのです」


「なるほどな、その辺りは噂に聞いた通りだ」


「皆が噂しておりました。

 それは古の時代に邪神に挑んだ者達の遺物や、当時の産物なのだと。


 その武具の多くが破損した物ばかりでしたもので。

 そして、それは邪神復活の予兆なのではないかと恐れたのです」


 俺達のパーティはさすがに沈黙した。

 俺はチラっと先輩の変わらずド派手な趣味の【布の鎧】に目をやった。


 そいつは武具に入るものなのかどうか。

 野郎は不敵に笑うのみだったのだが。


「そしてダンジョンに潜った冒険者も恐ろしいほどの数が戻ってまいりませんでした。

 冒険者協会は事態を重く見て初級冒険者の探索を禁じました。


 そして中級以上の者がパーティを再編成して倍の人数のパーティで潜ったのでありますが、やはり多くの者が戻ってこなかったのです」


「想像以上にヤバイなあ。

 聞いていた話よりもかなり酷いぞ」


「そうです。

 だから諦めた冒険者は立ち去り、中には食うに困り盗賊に身をやつしたものなどもおります。


 一旦南のラビワンへ向かった物も多数おるのでは。

 今潜っておる冒険者もどれだけの者が戻ってこれるやら」


 やっぱり、あの槍目当ての追い剥ぎの内の幾人かや、また道中に現れた冒険者崩れの盗賊なんかも、そういう連中のお仲間なのかねえ。


「住人達も一様に厳しい顔をしておる次第でありまして、我々も対応しあぐねておりました次第にございます。

 聖女様の来られる報をいただき、歓喜しておった次第なのでありますが」


 この大司祭様らしきお方の渋い顔も無理はない。


「そして、私がそれを収めにやってきたタイミングでドラゴンの大群が現れたと言う訳か」


「左様にございます。

 噂に震える者ばかりではございません。

 蔭では邪神を崇拝する者達も動き出しているのでございましょう」


 かーっ、碌でも無さに拍車がかかってきたな。


 本来なら俺達の一行は、あの王都を上回るほどの大群衆から『聖女様万歳』の歓喜で迎えられていたはずなのか。


「それはつまり」


「へたをすれば、直接聖女様のパーティも狙われかねないという事でございます」


「ほお、そいつはまた好都合だな。

 是非ひっとらえて内幕を吐かせよう」


 そえを聞いた大司祭様はにっこりとお笑いになった。

 この人も敬謙な人の割には大概だなあ。


 うわあ、まったくなんて聖女だ。

 きっと拷問して自白させるテクや、その手の魔法も各種常備していやがるのに違いない。


 この女、本当に聖女なのだろうか⁉


 まあ少なくとも正義の御旗を心に掲げ、決して悪の道を行かれる事だけはないのだろうが。


 そして、常に『歴代勇者の小僧』の襟首を掴んで邪神との戦いに備えていらっしゃるのだろう。


 そこへ台車に載せられた数々の武具が持ってこさせられた。

 確かに破損した物が殆どだ。


 普通なら魔法金属の再利用という事で鋳潰されてしまうような物だが、古代の貴重な術式が込められている者が多いので研究用に高価買い取りなのだ。


 これを手にした冒険者連中は一生遊んで暮らせる金を手にして王都暮らしなのだろう。


 そして入れ替わりにやってきたのが俺達という訳だ。


「大司祭よ。

 これはわしが貰い受けてよいかな。

 術式を解析できなかったものについては返却しよう。


 出来たものについては、その結果を実用化可能な報告書にまとめてから、わしが打ち直して再生する事にしよう」


 やっぱり、この方は大司祭様なのであったらしい。

 全然威張っていないから大司祭と言われてもあまりピンとこないのだけれども。


「はは、偉大なる聖女様のブラックスミス・エルバニッシュ導師よ。

 仰せのままに」


 おー、すげえな、バニッシュは。

 もしかして、俺の装備も魔法金属で古代と現代の英知を併せ持って出来ちゃうのかな。


 出来れば【対先輩用に】凄いのを作ってほしい!

 俺も頑張って宝箱を捜そうっと。


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