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1-80 聖都の民

 そして、やがてうちのキャラバン、センティピートが陸を越えてやってきた。


 この百足、ようやく目的地に着いたか。

 キャラバンや馬車を入れ替えながら、実に長旅だったなあ。


 俺なんか地獄の鍛練付きだったから、この僅か数日の旅が今までの人生全てよりさえも永く感じたのだが。


 おまけに、まるで『盗賊討伐のための巡礼』のような旅だったのだ。

 くっそ、お前らだけ安全地帯で暢気に見物していやがって。


 まあ相手が相手なのだからキャラバンの人達はしょうがないとして、あの鬼教官どもはー。


 だが彼らは悠々とやってきて各自好き放題に言い放った。


「あら、勇者リクル。

 しばらくぶりねえ」


「もう!

 かれこれ三年ぶりくらいに感じたよ。


 昼寝は楽しかったかい?

 我が親愛なる師匠、魔法剣士エラヴィス閣下」


「うふ、こうなってみると魔法剣の鍛錬も有意義だったという事で楽しかったでしょう」


「まあね、おかげさんでなんとかなったよ」


 それはもう、えらい事スパルタで容赦のない修行だったがな。


 この人が稽古をつけてくれるようになったのは、割とここ最近なんだけど、課された鍛錬は一番きつかった。


 この上級冒険者のお姉さんったら駆け出し冒険者相手に欠片も容赦無しなんだもの。


 俺の破格な性能の導師謹製の槍が千回ほど捻じ曲がった気がする。


 そいつの強度や切れ味・刺突力なども今までとは比べ物にならない威力だった。


 おかげでこの新人冒険者の俺がドラゴンの大群とさえあっさりと渡り合えたのだ。


 だが、このエラヴィス師匠なら、あの程度の雑魚竜は一頭残らず一撃で倒したのと違うか。


 この人、魔法で飛び回るような凄い機動力をしているからな。


 確かに自分でおっしゃられるようにマジで天才なのだ。


「うむ。

 リクル、だいぶ力をつけたな。

 これも鍛錬の賜物というものだ」


「わかっているよ。

 俺の力の根源は、神髄はレバレッジ。


 その基本の元になる数字を上げていかないと、いくらブーストしたって限界があるんだから。

 マロウス、いつもありがとう」


「ほっほっほ。

 武器もなんとか使いこなしておるようじゃな」


「あんたは最高の聖女様のブラックスミスさ、導師エルバニッシュ」


 そして、あの野郎と来た日には、にたにたと笑っていやがるだけだ。


 くそう、俺が美味しく育っていくのがそんなに楽しいのかよ、先輩!


 そして姐御は馬車から降りると周りを見渡し、その聖都の惨状に嘆息した。


 石造りの、元は美しかっただろう街のあっちこっちが崩れ、ブレスで容赦なく焼き払われていた。


 ドラゴン二十二体の襲撃を受けたのだから、いくらなんでも無事に済むはずがない。


 ここはまだ全体が丈夫そうな石造りだからいいようなものの、それでも大被害を被っていた。


 きっと復興には各国が援助を惜しまないのだろうな。


 かなり派手にやられていたが、この聖教国全体から見たら、まだ微々たるものなのだろう。


「やれやれ、一体どうなっている。

 この聖都ともあろうものが」


「猊下!」


 呼びかける真摯な声音に振り向けば、なんというか神殿長とでもいうのか、そんな感じの格好をしている人が立っていた。


 もう老人というのに近い年齢で、神官の格好をしており頭には細かい網目のように編まれた半円状の白い帽子を被っている。


 いや、この人は偉い司祭、または大司祭という奴なのか。


 明らかに他の帯同してきた数人の似たような格好をしている人間とは格が違う感じだ。


 威厳を保つかのように金糸銀糸で激しく装飾されている格好もそれを表していた。


 まあ少なくともドラゴンと戦える装備じゃないな。


 なんというか、両手を組合せ祈るかのように体の前で組み合わせて姐御を見つめており、まるで母親に縋る幼子のようにしていた。


 そういや、俺も姐御の前でそういう事をやっていたんだっけなあ。

 だって先輩に殺されかかっていたんだもの。


 全部、あの狂人の落胤王子がいけない。


「おお、マルコス。久しいな」


 よかったね、マルコスさん。

 お墓の下で猊下を迎えるんじゃなくって。


 もう少しで洒落にならなかったところだよ。


 これも信仰の力とやらのお導きなのかねえ。


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