1-8 【レバレッジたったの1.4】
俺は拳にいくつもごつい鋲のついた頑丈な『魔物撲殺用手袋』を出した。
ブライアンの方針で、雑魚は殴り殺したり蹴り殺したりする事になっていた。
新人の研修以外で、このような低級魔物を積極的に狩る事はないため、通りすがりに襲ってきた奴だけを相手にするのだが、それも新人の役割りで武器の使用は認められていなかった。
整備費の節約のためだ。
これが並みのパーティ出身なのだったら雑魚相手にも闇雲に剣を振り回し、しまいに整備費が払えなくなるのが落ちなのだが、俺にはブライアンの教えが染みついていた。
元々の協会レーティングが優秀な上に、ブライアンからスパルタに各技術を叩き込まれているので、俺は見習いながらもポンコツなおっさん冒険者なんかよりはよほど優秀な冒険者だった。
できれば、あのままパーティにいたかったのが本音だ。
俺はブライアンの指導力や経営力を買っていたのだから。
いつかああなりたいと思っていたので、そのままパーティに残り、彼のマネージャーとしての仕事のやり方を完璧に盗みたかった。
それも今ではもう叶わない望みなのであったが。
装備を節約しながらの徒手空拳の討伐は、相手のレベルさえ低いのであれば、コスパの高い大変有効な手段なのだった。
ここは洞窟タイプの通路なので、一度に処理しきれないほどの大量の相手に囲まれて襲われる心配もないし。
俺は気配を探りながら探索をして、一匹倒すごとにスキルのチェックをしていた。
そして面白い事に気が付いた。
スキル名が1.2から1.3に変わる前に四匹倒した。
それから1・4に変わる時には五匹が必要だった。
だんだんと必要な経験値のような物が増えていっているようだ。
スライムなんかだと、最初の習熟度のような物を上げるのに数十匹が必要だったのだ。
「へえ、面白いな」
俺は今まで倒したコボルトから魔石を抉り出していたが、おかしなことに気が付いた。
ナイフの先が異様に軽くコボルトの体に滑り込んでいく。
切り口も秀抜で鮮やかな気がする。
「これは!」
次の戦闘時に、俺は実験のために剣を抜いた。
剣が軽い!
体も非常に軽く感じる。
コボルトは三匹いたが、一気に切り裂いた。
剣技さえ上がったような気がした。
いや違う、剣技だけではなく俺の持つ力のすべてが凄くなっているのだ。
おそらくは、そのスキル名の数字の分だけ。
「なんてこった。
ただの鋼の長剣なのに凄い切れ味だ。
しかも相手がコボルトとはいえ、何体もの骨を断ったにも関わらず、細かい刃毀れ一つしていない。
そうか、力が上がり速さが上がって鮮やかに切ったせいか」
俺はもう一度刀身を確認したが、やはりどこも傷んではいなかった。
足元にいるコボルトの身体の切り口も、俺が自分の剣で切ったとは思えない鮮やかな物だった。
「達人が斬るとそうだというが、俺の場合は速さで補っているのだな。
だが気をつけないと、装備に見合わない無理な力をかけた場合、低装備のままだと剣が傷んだり折れたりしそうだ」
コボルトは次も三人だったので、今度は撲殺してみた。
体も素早く軽く動くので、相対的に奴らの動きが妙にノロマに見えた。
あと、視力さえも上昇しているかのようだ。
聴力や気配を感じる力なども上昇して、奴らの動きは手に取るようにわかり、奴らの次の動きが『視える』。
「たった1.4倍でここまでの力なのか。
はは、それで【レバレッジたったの1.4】なんだなあ。
なんてこった。
こいつは外れスキルなんかじゃないぞ。
かなり希少な性質のスキルなんじゃないか」
俺は気をよくして、精進に励んだ。
七匹で1.5へ。
八匹で1.6へ、九匹、十匹、十一匹、そして十二匹で見事に2.0へと上がったのだった。
これでかなり力が上昇したように思う。
「今日はこのくらいにしておくか」
都合コボルト七十四匹で、一匹分の魔石が大銅貨二枚だから、全部で銀貨十五枚弱だ。
スライムに比べたら尠少で貧弱な稼ぎだが、スキルのバージョンは低リスクでも比較的よく上がる。
明日は次の階層で、もう少し強くて稼げる相手を試してみるか。
装備、特に当面は武器の性能を上げたいしな。
今の俺の場合は、それで潜れる階層が増えるので、飛躍的に稼ぎが大きく変わってくるだろう。