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1-76 そして北へ(鍛練付きで)

 そして王都からの旅立ちの朝。


 まず見送りの筆頭が国王様だった。

 もう、この時点でなあ。


 そして親方と子供達。

 うん、ここはいいんだ。


 心が温まるような実に素晴らしいお見送りだった。


 あと例のマロウスのお友達の獣人さんパーティ。

 ここまでも、まあよしとしよう。



 そして……この王都の『大群衆』がいたよ。


 もう数万、へたすると十万を超えていないか。


「だが、お前らは駄目だあああああ」


 しかも、そいつらが俺の虚しい叫びを打ち消すかのように大声で叫びやがった。


『聖女様万歳』

【勇者リクル様万歳】だとお⁉


 うおおおお、これだけはラビワンに伝えられたら恥辱で死ぬ。


 ダンジョンの管理魔物や、あの先輩でさえも殺せなかった俺が死ぬ。


 次の特殊技能には『恥辱耐性』とか『対恥辱防御』などを希望する!


 だが無情にも、何故か俺の【祈りの力×Ⅹ】が起動し、俺の全身が聖光に光っている。


 俺はメンバーに押し出されるようにして、姐御と一緒に前面に出されてしまった。


 おい、先輩。

 頼むから、その舌なめずりは止めろ。


 彼に背中を向けているのが非常に心許なく思えてきた。


 そして、あの王様あ!


「では聖教国の異変は任せたぞ。

 勇者リクルよ」


 おいあんた。

 絶対に楽しんでいるよな。


 あんたの不肖の息子である先輩と、俺や現聖女様との組み合わせを。


 だが群衆は容赦がない。

 そして始まる、俺の【出征】を称える『勇者リクル・コール』が。


 笑顔で馬車の窓から手を振る聖女様を、王が率いる大群衆は盛大に見送った。


「なあ、姐御」

「なんだ?」


「ああ、いやもういいや」


「ああ見えて、うちの親父は乗りもいい方だ」


「ああ、それはなんとなくわかってた」


「よし、それでは勇者リクルを鍛錬しながらバルバディア聖教国へ向かうとするか」


「ちょっと待て、そこの脳筋ビースト族」


「鍛錬しないと死ぬぞ。

 もし本当に邪神が出たらどうする?」


「う、そもそも邪神ってなんすか」


「一言で言えば、この世の終末だな」


 以前に、その邪神を実際に封印した現聖女様が平然とそのようにおっしゃった。


「あのなあ。

 あんたはそれを封印したんだよな」


「あんな出かかった〇〇〇みたいな物、どうという事はない」


「今、エルフの聖女が、さらっと凄い事を言った!」


 だが、ドワーフの導師はこう言ったのだ。


「まあ、あやつが自由を取り戻してしまったならば、我らにもどうにもならぬ。


 聖女バルバディアはその存在をかけて奴を封印し、今も奴を束縛しておる。

 千年もの間な。


 セラシアが奴を再封印できたのも、セラシアがバルバディアの血縁であった事も大きいのじゃ」



「うわあ、その方って結局もう死んでしまわれたので?」


 そして姐御は少し目を瞑った後で、このようにおっしゃったのであった。


「いや、生きておるのじゃろう。

 特殊な結界の中で、半ば時が凍結したかのように今も邪神と共にな。

 だから邪神を封じていられるのだ」


 俺は思わず息を飲んだ。


 想像したくない。

 世界はたった一人のエルフの人柱に守られて、その命を繋いでいたのだ。


 俺は馬車の座席の上で膝がガクガク震えるのを感じていた。


「あのう、姐御。

 もし今北で起きている異変か何かが、その封印が限界に来ているのだとしたら?

 その、どうなりますんで?」


「世界が終わるな」


 平然と言っちゃったよ、この人。

 世界中の人達が杖とも頼む、このお方が。


「まあ、その時は私が伯母上に代わってその任につくまでだ」


 このエルフが今目の前で言った事が俺にはよく理解できなかった。


 だが彼女は続けてこのような台詞を口にした。


「もし、私が内から封じ切れなかった場合、リクルよ。

 お前がその出鱈目なスキルで外からなんとか封じよ。


 そうでなければ、貴様も貴様の家族とて共に消えてなくなろう。

 この世界ごとな」


「ええーっ」


「安心しろ。

 その時は私が奴を縛っておいてやる。

 もし、その時に伯母上がまだ生きておれば、彼女と共に力を合わせてな」


 うわあ、これはえらい事になったあ~。


 だが彼女は俺の慌てようを見て笑って言った。


「そう怯えるな。

 何も必ず邪神が復活すると決まった訳でもない。


 異変が起きているので調査に行き、何もなければそれでよし。

 それで民衆も安らかに暮らせよう」


「よし、リクル。

 こうなったら修行だ。

 お前も素適な魔法槍を持った事だし、この天才魔法剣士エラヴィス様が修行をつけてやろうじゃないの」


「うむ、肉体の鍛錬なら俺に任せてもらおう」


「わしは武具の手入れや、そのバージョンアップかのう」


「では魔法スキルの使いこなしをあれこれと試すのはどうか。

 せっかく素晴らしいスキルで使えるのだからな。

 魔法という物は奥が深い。

 派手な物だけではないのだぞ」


 次々と俺の修行メニューがテーブルに並べられていく。


 これがレストランのメニューなら歓迎なんだけど、こいつはありがたくない。


 特にマロウスの肉体の鍛練する奴が。


「あと僕と鬼ごっこはどうだい?

 ただし、君が負けたら欲望に負けて食べてしまうかもしれないな」


 ちょっと先輩!

 そんなところで便乗しないの。


 しかし!


「ああ、やるしかないんでしょうかねえ」


「「「もちろんだ!」」」


 こうして俺は北のダンジョンに向かう迄に、勇者として聖女パーティ+1の、何よりも濃いスーパースパルタなメンバーより地獄の鍛錬を受ける事になったのだった。


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