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1-75 聖女たる者は

「ところで、今日は何の用だ。

 今は聖女様と一緒にいると聞いたが」


「ああ、聖女様がついに北のダンジョンへ行く」


「え、マジか。

 今の状況ってそんなにヤバイのかよ」


「いや、わからん。

 きっと人々が不安に思っておるので、自分が北へ行けばそういう騒ぎはは収まると思っておられるのだろう」


 姐御が北へ行くというのは、そんなに反響があるのか。

 よくわからないな。


 そういえば、聖女様なんだから本来は聖教国にいるのが普通だよな。


「なあ、マロウス。

 姐御って聖女様で英雄姫様なんだよな。

 なんで冒険者なんかをしているの?」


 だが、そこにいた獣人様方は全員が呆れ返った。


 え、なんで。


「馬鹿だな。

 聖女たる者が戦えないようで一体どうする。

 そのために聖女は、常に戦いの中で己を鍛錬なさるのだから」


「待て、そこ。

 何故だ!

 何故聖女が戦うのだ」


 お前らビースト族が鍛錬馬鹿なのはよく知られているが、何故聖女が鍛錬。


「ああ、リクル。

 お前は彼女が何故英雄姫と呼ばれているのか知らんのだな。


 彼女は一度、復活しかかった邪神と対決し、再び封印を施したのだ。

 聖女バルバディア以来の偉業さ。


 だから長命なエルフの彼女が常にダンジョンなどで鍛錬しているだけで、世界の民が安心する」


「うわあ、それアカン奴。

 それだと、俺達って邪神討伐パーティみたいなもんじゃないですか」


 民衆に祈られる【勇者リクル】だとおお。

 あの聖女、俺を本気で邪神と戦わせるつもりか。


 もしかして聖女の能力で、邪神の復活を予期しているとかじゃないんだろうなあ。


 そういや『お前が戦え』とか、あのお姉さん言っていたような気がするが。

 やめろよな。


「ああ、何事かあったらそうするよう、俺達は覚悟を決めている。


 だから【聖女様のブラックスミス】として世界最高の鍛冶師エルバニッシュたる者が帯同しておるのだから。

 お前も大人しくついてこい。


 しかし、この期に及んであのクレジネスが志願して参加してくるとはな。

 これも神の思し召しか」


 やめてくれー。

 そんな物騒な思し召しはいらん。


 クレジネスたるあの先輩も何か強者の匂いを嗅ぎつけていたみたいだし。

 おまけに国王様からの勅命も下ったみたいだけど。


 道理で、そう使いもしないような【邪気の封印】とか、今回の9.0で手に入れた【スキル封印】とかいう妙な能力が湧いてくるはずだ。


 何かこう流れに沿って、極自然に何かのステージに向かっているような感じが犇々とする。


 9.0の基本能力スキルは【すべてのダメージ十分の一】だったし。


 それ自体は大変ありがたいのだが、『邪神と戦うのに必要だと思うから付けました』っていうんじゃないだろうな。


 魂のスキルって、そういうものなんだからな。

 

「さて、リクルよ。

 話が横道に逸れたが、魔法演習場に行くぞ」


「そこって魔法を撃つところ?」


 そんな物があるのか。

 ラビワンなんかだと、基本的にダンジョンの中のどこかとかかな。


 まあ、いきなり実戦が圧倒的多数だ。


「ああ、正確には魔道演習場と言った方がいいか。

 魔法で保護されているので、安心して使える。

 お前の持つような魔法武器や魔法、特殊な武器などの試し撃ちや調整をする場所だ」


「へえ、面白そう」


「ここにしかないような設備だな。

 バルバディア聖教国の方はまた違う感じか」


「どうやるのです?」

「あれをみていろ」


 現地に到着したので、マロウスが指差したところに、スタッフを構えた女性魔法使いらしき人物がいた。


 そして直進する火焔魔法を放ったが前方の何か光る膜に吸い込まれて消えていった。


「魔法が消えちゃった」


「ここは魔導具で魔法を吸収する幕が作られていて、そこへ向かって撃つのさ」


「へえ。

 じゃあ、俺もちょっと撃ってみますね」


 俺は順に試してみる事にした。まずはグランドフレイムから。もちろん、ブーストはかけない。前方に構えた槍の穂先からうねりを上げて突き進む、凝集した炎の渦で出来た槍を突き放った。


 炎がかなり派手で大きいのは、俺のレバレッジ八倍と攻撃二倍の基本スキルのせいだ。


「へえ、かなりの物だなあ。

 炎が槍の延長線のように放たれるのか」


 そして次にショットフレイムを放ったが、俺はこいつが使い勝手がいいと思った。


 そしてドラゴンフレイムはその辺を炎で焼き払うにはいい感じだ。


 これが魔素を勝手に集めてくれて、ノーリスクで使えるとはな。

 その代わり、威力のキャパなんかは限られているわけだ。


 先輩や姐御のスキルを借りてくるのに比べたら、当然威力は各段に落ちるが俺一人でもスキルの時間制限無しで使える火焔スキルなのだ。


 当然、スキルによるブーストも可能だ。

 

 だがマロウスは、つかつかと俺の前に立ち、こう言った。


「リクル、そいつで俺を撃ってみろ」


「え、なんで⁉」


「いいから。

 念のために言っておくがブーストするのはやめろよ」


「え、ええ。

 でもレバレッジはかかっちゃってますから。

 もう知りませんからね」


 そして俺はショットフレイムを放ったが、なんと数十個あったはずの、かなり威力のあるそれを、彼は全部素手で撃ち落とした。


「あれ?」


 俺の目には彼がその場から一歩も動いていないように見えたのだが、何か違ったのだろうか。


 俺は思いっきり自分の目を擦ってみた。


「今度は最初の槍状に発射するスキルを撃ってこい」


 俺は少し躊躇したのだが、まあ彼の事だろうから大丈夫だろうと思い直した。


「行きますよー」


 そして、レバレッジのかかった凄まじい炎の螺旋槍グランドフレイムは、彼のきりりと一本打ち出した渾身の拳で一瞬にして消し飛ばされた。


「うわー、マジっすかあ」


 ビースト族にはいろいろな伝説があるが、こういう事な訳ね。


 そういや前にもブライアン・パーティでこういう事は見た事はあるのだが、この物凄い槍の威力を素手であっさりと吹き飛ばすとはなあ。


 彼は戻ってくると俺に進言してくれた。


「いいか、リクルよ。

 このくらいの事は、あのイカれたクレジネスの野郎にも出来る。


 そういう話は覚えておくのだな。

 やはり冒険者には鍛錬あるのみだ!」


 マロウス。

 結局、その台詞が言いたかったんだね!


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