1-74 王都冒険者協会
「へえ、ここが王都の冒険者協会か、こいつはまた大きいんだなあ」
そこは少し開けた場所にあり、少し壮大なスタイルで、うちらの街の協会みたいな実用一点張りの平屋ではないようだった。
あそこはダンジョン関係の実務専門みたいなものだから、まるで工房か商会みたいな感じなのだ。
キャラバンの護衛などはゲートスあたりで雇われる事が多いようだし、そこまでの繋ぎの護衛は歓楽街目当ての冒険者や歓楽街帰りの冒険者が担うらしい。
ここは一つ間違えると、神殿か何かと間違えられそうな佇まいだ。
まあ王都なんだから多少の見栄は張っておかないとな。
王都には貴族なども多いし裕福な商会も多いので、護衛に雇う人なども多そうだ。
ここにダンジョンはないから、もっぱらそっちの方の需要だろう。
大貴族だと私兵を持っている人もいるが、常時戦争をしているわけでもないし、普通はそこまでせずに冒険者を頼む方が多いはずだ。
王都内は警備隊がいるし、王宮側には国軍が詰めていて、王族には近衛兵がつくはずだ。
あくまで、『はず』なのであって、あの国王は例外なのらしい。
他にもそういう奴はいそうだ。
「王様の子供は、やっぱり王子様」って感じで、なかなかヤバイ一族だ。
王様の代わりに働かされている王太子って、どんな人なんだろうなあ。
少なくともクレジネスみたいな変態バトルジャンキーはそうそういないはずなのだが、実物をみるまでは安心はできない。
他の王子もいるだろうし、王女の方が危ないという可能性もある。
『現聖女』様であられる姐御と一緒だと、その手の危険人物と出会ってしまいそうで怖い。
マロウスの後について、入り口に設えた御大層な階段を登って中へ入っていくが、大柄なビースト族の彼の巨体の後ろにいると、俺なんかはただの子供みたいだ。
中も広いなあ。ラビワンは雑多な雰囲気なのだが、ここはあれこれ感覚が広く、こざっぱりとした雰囲気だ。
人員も多いのか余裕がある。
ラビワンの冒険者協会は人が足りないと、少し余裕がありそうな他の窓口を一つ減らして、すぐどこかから人を引っ張ってくるからな。
ここは貴族関係が多いとか、あと国の中枢にあるため、各地の統括などの業務があるのかもしれない。
一口で言うと少し品がある感じか。
中をマロウスの後をついて歩いていると、彼の知己から声がかかった。
「よお、マロウス」
「お、ベレットか」
なんか、物凄い派手な感じの獣人さんが声をかけてきたのだ。
他のメンバーも獣人さんで女性もいたが二人とも凄く逞しい。
見た感じでは、きっと虎とライオンの獣人さんだな。
獣人さんは頭がかなり動物っぽい感じの造形なので、中には少し怖い感じの人もいる。
特に肉食獣系の方は目が怖いんだよね。
マロウスなんか熊なので割合と怖くないのだ。
性格が温厚な人だしね。
凄い鍛練マニアだけど。
それに顔もかなり人間っぽい感じなのだ。
ちょっと毛深い感じだけど。
「なんだ、そのチビっこいのは」
チビっこい……。
確かにそうなんだけど。
この方は何の獣人なのか知らないが、少なくともビーストベアーのマロウスが一回りは確実に小さく見える。
顔の方もかなりビースト性が高い方だった。
「ああ、ちょっと一緒に北まで行くんだ。
リクル、挨拶しな」
「どうも、新人でリクルっていいます。
よろしくお願いしまーっす」
「おお、元気がいいな。
それにしても北、か」
「何か聞いているのか?」
「いや、よくは知らんが結構な数の冒険者も行方不明になっているらしくてな。
また王都の貴族どもがなあ」
「貴族がどうした」
ああ、それはきっと、あれだな。
俺にはわかる。
マロウスはある意味で清貧な、なんというか鍛錬馬鹿だからピンとこないかもしれないが、ブライアンからいろいろ叩き込まれている俺にはわかる。
「例の魔法武具の話よ。
オリハルコンのインゴットが出たっていう話があったから欲の皮を突っ張らかせている奴らがいるから、お前らも気をつけろよ。
強引に冒険者を雇っては発見できないと金を踏み倒したりもする。
終いに貴族ごと帰ってこないパーティまでいる始末だ」
「そいつは剣呑な事だ。
我々もせいぜい気をつけるとしよう。
情報、感謝する」
やっぱりなあ。
そうなっているんじゃないかと思ってた。
ブライアンはそういう怪しげな話に乗ると碌な事にならんと、いつも言っていた。




